好敵手と書いて友達と読む(6)
「くっ、殺せっ! 殺すんだ、シリス!!」
ビエルの声に、その殺意の感情に――ほんの少し、ほんの少しだけシリスの瞳が揺れた。だが、すぐに右手を上げ魔力を高めていき。
「……烈風よ」
ノヴァもまた静かに力ある言葉を唱え、両腕に風を纏わせた。本来、魔術でこんな使い方はできないらしい。魔術は放ち、現すもの。現し続け、纏ったりすることなんて普通はできない。だが、格闘と一緒で粘土のように色々こねて魔術を試していたらノヴァ自身も理屈は分からず自然にできるようになっていた。
それはともあれ、シリスの魔術は強大で強力だ。受け続けていれば押し込まれ、こちらが潰れる。ならば、どうするか――
「――――」
ノヴァは静かに息を吐き続けた。集中を高め、魔力の流れ、いや、空気、風、あらゆる力の流れを感じていく。
自分の意識と周囲を一体にする――集中して、集中して、目で見るのではなく、心で身体で感じる。
全ては一瞬のこと、シリスの魔力は高まり、瞬時に魔術は発動した。
「炎環よ」
先程と同じ魔術、だが、威力が一段上がった魔術をシリスは右手から解き放った。
カッと白き閃光が包み――目で見ていたら眩んで反応が鈍り、瞬時に巨大な炎の渦に巻き込まれ骨も残らず消されていただろう。
ゴォォォオアアアアアアッッッ!!!
ノヴァは炎の渦を両手で受け、だが、受け止めきれず身体を吹き飛ばされる。
何とか地を足で滑らせ、体勢を整え――だが、衝撃に腕は、身体は震え、肌は焼け、服は千切れ。
そして、
ゴォォォォォオオッッ!!
ノヴァの後ろの壁が吹き飛んだ。焦げた匂いと煙と誇りが周囲を覆い、壊れた壁の石がぼろぼろと落ちていく。
「……ノヴァ」
顔を守っていた腕を下げ、アイリスとフロナが信じられないように呟いた。
あれだけの強大な魔術の炎、壊れた壁。あんな小さな少女では耐えきれるはずがなく……誰もが骨も残らず消し飛んだと、死んだと思っていた。
――ヒュォ
開いた壁から涼風が流れ――そして、
「ノヴァッ!」
現われた小さな少女の姿に、アイシスが声を上げる。
ノヴァは痺れた掌と熱を冷ますように手をぱんぱんと叩き、軽く振るとぐっと拳を握った。
「ああ、まだちょっと駄目かぁ。難しいな、もうちょっとなんだけどな」
握った拳を開き、何度か手をわきわきと動かしながら、ノヴァは笑ってシリスを見つめた。
「ってことで、もう一度お願い、シリス。まだ強くしても大丈夫だから」
「な……ななな、なんだ……なんだ、お前は……」
ビエルは声を震わせ、少女を凝視した。
「ふ、問われて名乗るもおこがましいがっ!」
ノヴァは胸を張ると、ドンッと言い放つ。
「誰が呼んだか、美少女天才魔術師ノヴァ・インファータ!」
『………………』
王の間は静まり返り――
「一度言ってみたかったんだけど……うん、やっぱりちょっと恥ずかしいかな」
「ふ、ふざけるな、ガキがっ! シリスッ、殺せっ! このガキを殺すんだっ!!」
シリスの身体が僅かに震える。瞳が揺れ、震える右腕をゆっくりと上げ。
「――――」
ノヴァは深く深く息を吐いた――本当は最初から感じていた。シリスが「殺す」という言葉に反応し、嫌がっていることを。
操ってるとしたらビエルだろう。だとしたら、解除の方法もビエルが知っているはず……だったら、
(長く苦しませるわけにはいかない。シリスを気絶させて、ビエルをとっちめる!)
「烈風よ」
再び腕に風を纏う。シリスの魔力は上がっていき、翡翠の髪がふわりと浮きゆらゆら揺れている。
チリチリとした空気……魔力を感じない人間でも分かるほどの強大な圧力。これほどの魔力はノヴァも初めてだった。




