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転生総務課長代理(6歳)が奴隷法を律儀に守ったら、死にたがりの元騎士がやたら過保護で最強の相棒になりました。  作者: 雪凪


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1-20 絡まった糸

 宿に戻ると、俺は昨日と同じ態勢を整えた。


 今日は、ノルが止める気配がない。


 それどころか、買ったばかりの3巻の剣を床に置くようにノルに頼むと、俺が巻きやすいように両手で支える。


 おい、今まで協力したことなんかないだろ。剣だからって、露骨すぎるぞ。


 とりあえず、肩慣らしだ。糸に指をかけてゆっくり引っ張る。4巻。5巻。6巻──そこで、糸は伸びなくなった。引いても、びくともしない。


「これが限界かな。……器によって、上限が違うみたい」


 薬草は7巻が限界だった。防具は20巻までいけた。この剣は6巻。どうやら物そのものの格(?)が、糸の巻数を決めている気がする。メモ帳のスキル検証ページに書留める。


「ノル、3巻増やせたよ。追加攻撃力6%!」


 ノルは支えていた剣の刃を確かめ──ふ、と目元と口元をほころばせた。


 珍しい表情を、思わずガン見してしまう。あまりにも無防備な微笑み方だった。なんなら、かわいく見える。これがギャップ萌えというやつか。


「6%が、そんなに嬉しいもん?」


「6%なら中古でも50万近いはずだ」


「たった6巻で!? 防具に比べて、武器の付与って渋いんだね」


「何%でも構わない。……剣が良くなるのは、いいものだ」




 さて、いよいよだ。


 俺は例のクズ剣に取り掛かることにした。俺が何も言わなくても、ノルが両手でクズ剣を支えてくれる。さっきより更に丁寧な扱いだ。


 さっきの6巻の後に、改めて「見る」と、やはり圧巻だった。柄から刃の半ばまで、密度高く巻かれた白い糸。そして刃の中ほどで、10センチほど空白地帯がある。数えてみたら27巻。空白地帯も同じ間隔で糸が巻かれたら、全部で30巻になりそうだ。

 そして、切れた糸の少し手前には、幾重にもグチャグチャに絡まった、小さな団子もある。


 ──うーん、見覚えがある。


 ノルの左腕の、あの絡まりと同じだ。結界地の井戸とも同じ。絡まりが流れを堰き止め、その先の糸が死ぬのかもしれない。どうやらこの世界の魔力が「壊れる」時は、このパターンのようだ。


 だとすれば、これは練習台だ。剣が直せれば次は──いや、先走るな。まずは目の前からだ。


「切れてる魔力の糸を結んでみる。倒れたらベッドに寝かせてね」


「主……ほどほどにな」


 糸の片方をつまみ、ゆっくり引っ張る。今までと同じように伸びる。もう片方も引っ張ってみる。こっちも伸びる。両方を引き寄せて、そっと結んでみる。


 ほどけた。するりと。


 もう一度。今度はしっかり、固結びで。


 ほどけた。固結びがダメならリボン結び?


 ほどけた。段ボールまとめで鍛えた本結び。


 ほどけた。ダメだ。


 結び目が形になった瞬間、するりと自分から解けていく。まるで糸自身が、繋がることを拒んでいるみたいに。作戦を変えて、剣から糸を全て外して巻き直そうと思ったが、ちゃんと巻き付いている部分の糸は外すこともできない。


「くそっ、なんでだ。糸が解けてしまう」


「──魔力が絡まると、魔力障害を起こすと言われている」


 ノルが、剣を支えたまま言った。


「魔道具が壊れて動かなくなるやつだ。直せる職人は、ほとんどいない。大抵は捨てるか、鋳潰す」


「絡まると、障害……」


 俺は顔を近づけて、じっくりと団子を観察してみた。


 みごとに絡まっている。試しに指でほぐそうとしたが、まったく動かない。思いっきり引っ張っても、切れない。押しても、潰れない。根気でどうにかなるレベルの絡まり方ではなく、どこから手をつけていいか分からないような絶望的な絡まり方だ。


 切れた糸を結んでも解けるのは、この団子が上流を塞いでいるからではないだろうか。水道管が詰まっているのに、蛇口だけ直しても水は出ない。直すべきは空白地帯ではなく、この絡まりかもしれない。


 だが、団子は解けない。人間の指では、どうにもならない。


「……はぁ。魔力の糸を切れるハサミでも、あればなあ」


 半分、独り言だった。


 頭に浮かんでいたのは、前世の愛用品だ。大手文具メーカーの、グッドデザイン賞をとったハサミ。赤銅色のチタンコートの刃がかっこよくて、テープを切っても糊が残らなくて、俺が個人的に購入した私物のあの逸品。ほんとに「ちょきん」って音がする。異世界に何か1つ持ち込めるなら、あれでもよかったな。切れ味は正義だ。ああいう道具はどんな世界でも──


 目の前に、青白く光るそれがあった。


「…………へ?」


 宙に、ハサミが浮いていた。


 赤銅色の刃。見慣れた樹脂のグリップ。あのハサミが、静かに浮いている。


 ノルの顔を見てみたが、表情は変わらず、じっと剣の柄の飾り模様を見ている。ということは、ノルには見えていないのだろうか。


「ノル。……これ、見えるか」


 俺が指さしている場所を、ノルが無表情で見る。それから俺の顔を見た。


「何だ。また、意味がわからん話か?」


「見えるんだよ、俺の目にはハサミが。前に使ってたやつ。宙に浮かんでるんだ」


 恐る恐る、ハサミに手を伸ばす。


 指で突いてみる。だが、感触がおかしい。金属でも樹脂でもない。ひやりとして、固体でもなく液体でもなく掴みどころのない──そう、魔力の糸に触れた時の、あの感触だ。


 ノルには見えない。俺にだけ見えて、俺だけが触れる、糸と同じ材質のハサミ。


 つまりこれは、「繰魔糸(クリマイト)」スキルの一部だ。俺のスキルは、糸を見て触るだけじゃない。──道具を、出せる。ということは……


 ハサミをしっかり握ると、鈍く光った気がした。






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