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第9話:【ざまぁ】美しい檻の主は誰か

第9話:【ざまぁ】美しい檻の主は誰か


窓の外では、吹きすさぶ冬の木枯らしが白薔薇の生垣を容赦なく引き裂き、完全に凍りついた硝子の噴水は、曇天からの鈍い光を浴びて墓標のように冷たくそびえ立っていた。暖炉の炎だけが赤々と部屋を照らすなか、かつて若き伯爵として傲慢に振る舞っていたジュリアンは、床に両手をつき、ガタガタと全身を激しく震わせていた。泥と冷や汗で薄汚れたコートは床の絨毯を汚し、引き千切れかけたネクタイが哀れに揺れている。すべてを失い、社会的に完全に抹殺された男の前に、圧倒的な支配者としての威厳をまとったレイが、静かに見下ろすように立っていた。


今日のレイは、ジュリアンが今まで見たこともないような、息を呑むほどに豪奢な衣服に身を包んでいた。最高級の艶やかな黒いシルクのシャツの上には、金糸と深い紅色の刺繍が精緻に施されたベルベットのベストを重ね、その胸元には大粒のサファイアのブローチが怪しく輝いている。それは、囚われの小鳥が着るような簡素なものでは決してなく、ジュリアンの一族など足元にも及ばない、王族に近い最高位の権力者だけが身にまとうことを許された高貴な装いだった。


「まだ理解できませんか、お可哀想なジュリアン。貴方をそこまで無残に引きずり下ろし、本家の不正を暴き、婚約者の一族もろとも社会的に破滅させた黒幕が、誰であるのかを」


レイの声は、冷徹な知性と冷ややかな愉悦に満ちていた。その響きは、かつてジュリアンがこの部屋で振りかざしていた安っぽい支配欲を、根底から粉々に打ち砕くほどの絶対的な力を持っていた。ジュリアンは血走った瞳を大きく見開き、信じられないというように首を激しく横に振った。


「嘘だ……嘘だと言ってくれ、レイ……っ! 君をこの手で支配していたはずなのに……! 私は君を拉致し、この離宮に閉じ込め、私の慈悲がなければ呼吸すらできないように、完璧に調教していたはずだ! なぜ、なぜ君が私のすべてを奪える立場にいるんだ!」


ジュリアンは泣き叫びながら、レイの靴元へ縋り付こうと手を伸ばした。しかし、レイはその手を優雅にかわし、床に膝をつくジュリアンの前にゆっくりと屈み込んだ。そして、泥と涙で汚れたジュリアンの頬を、白磁のように滑らかな指先で優しく、愛おしげになぞった。その指の冷たさが、ジュリアンの肌に絶望の感覚を刻み込んでいく。


「私はいつでも逃げ出せた。でも、貴方に監禁されてあげるのが、私の愛だったの。貴方が傲慢に笑い、私を支配していると信じて悦に浸る姿が、たまらなく愛らしかったから、わざわざお人形でいてあげたのですよ。さあ、今度は貴方が、私の檻に入る番ですよ」


「あ……、あああ……っ!」


ジュリアンの喉から、魂が削り取られるような絶望の悲鳴が漏れた。レイは元々、ジュリアンなど遠く及ばない強大な権力を持つ公爵家の一族であり、ジュリアンに拉致されることすらも、退屈な日々を紛らわせるための娯楽として、すべて裏で仕組んでいたのだ。自分が「神」として君臨していたと思っていたあの輝かしい蜜月は、最初からレイという本物の怪物の手のひらの上で躍らされていた、滑稽な操り人形の不格好なダンスに過ぎなかった。この圧倒的な「ざまぁ(因果応報)」の現実に、ジュリアンのプライドは完全に消滅した。


重苦しい沈黙を破るように、部屋の扉が静かに開いた。入ってきた従僕たちは、もはやジュリアンの命令など一言も聞き入れない、レイの忠実な手先たちだった。彼らが運んできたのは、破滅した男へのあてつけのような、贅沢を極めた昼食だった。じっくりとローストされた鹿肉のステーキには、濃厚なトリュフと赤ワインを煮詰めた血のように黒いソースがかけられ、えも言われぬ芳醇な香りが部屋を満たしていく。サイドには、フォアグラのパテを添えた香ばしいトーストと、冷えた最高級のシャンパンが、光を放つクリスタルグラスとともに並べられていた。


「さあ、お腹が空いたでしょう、ジュリアン。これからは私が、貴方の口に食事を運んであげます。貴方はもう、自分の手でスプーンを持つ必要も、外の世界で名誉を守るために血を流す必要もないのです」


レイは自らナイフを握り、柔らかい鹿肉を一口大に切り分けると、濃厚な黒いソースをたっぷりと絡めてジュリアンの唇へと突きつけた。トリュフの強烈な香りが鼻腔を支配するが、ジュリアンはあまりの絶望と恐怖に、歯をガチガチと鳴らして拒絶しようとした。


「嫌だ……、食べたくない……! 私を、私を殺してくれ、レイ! こんな屈辱に耐えるくらいなら、いっそ今すぐ……っ」


「おや、拒絶するのですか? 困った子ですね。言っておくが、貴方に死ぬ自由などありませんよ。貴方は私の圧倒的な財力と、この狂おしい愛の中で、ただ生かされるのです。さあ、お口を開けて。私の与える食事だけが、これからの貴方の世界のすべてになるのですから」


レイの漆黒の瞳には、一切の容赦がなかった。ジュリアンは、目の前の圧倒的な権力者であり、自分を愛の鎖で縛り上げる本物の主の眼光に射すくめられ、諦念のなかで小さく口を開けた。鹿肉が口に滑り込み、濃厚な旨味とトリュフの香りが広がる。しかし、それはジュリアンにとって、自分の完全な敗北と無力化を告げる、あまりにも残酷な味だった。


「偉いですね、ジュリアン。やはり貴方は、私がいなければもう生きられない、可哀想な小鳥になったのです。これからは、この私が貴方の神になって差し上げましょう」


レイはシャンパンを一口含むと、その濡れた唇で、ジュリアンの震える額に深く口づけをした。ジュリアンは社会的地位のすべてを失い、自慢だった財産も名前も剥ぎ取られ、このレイの圧倒的な財力と狂気の愛の前に、完全に無力化されて床にへたり込むしかなかった。美しい檻の主は誰であったのか、その真実はあまりにも無慈悲な形で、完全に証明されたのだった。



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