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第4話:歪んだ支配の蜜月

第4話:歪んだ支配の蜜月


夏の盛りの陽光が、離宮の白い薔薇をいっそう眩しく輝かせていた。しかし、厚い遮光カーテンが引かれたレイの部屋には、そのぎらつくような光は一切届かない。部屋を照らすのは、いくつかの琥珀色のキャンドルと、卓上にあるスタンドランプの淡い光だけだ。ジュリアンは今日も、心地よい高揚感に満たされながら離宮の重い扉を開けた。今日の彼は、金糸の刺繍が施された贅沢な漆黒のベストに身を包んでいる。それは伯爵としての傲慢な威厳を象徴するかのようであり、同時に、この閉ざされた空間の絶対的な支配者であるという宣言でもあった。


ジュリアンが部屋に進むと、ベッドの端に腰掛けたレイが、微かに金と銀の鎖を鳴らして彼を迎えた。今日のレイの衣服は、ジュリアンが新しく用意させた、極薄の白いリネンのシャツと、淡いグレーのハーフパンツだった。余計な装飾はすべて剥ぎ取られ、ただジュリアンの所有物であることを示すためだけの、簡素で、けれど最上級の肌触りの衣服だ。その淡い色彩は、レイの白磁の肌と不健康なほど調和しており、どこかこの世の者ではないような危うい美しさを醸し出していた。


「レイ、調子はどうだい。今日も私のために、健やかにいてくれたかな」


ジュリアンはそう言って、レイの前に一冊の本を置いた。それは、これまでレイが好んで読んでいた古い詩集や歴史書ではなく、ただ退屈な庭園の挿絵だけが並んだ、文字のほとんどない絵本だった。ジュリアンは最近、レイの頭の中にある言葉や知識さえも制限し始めていた。外部の思想に触れさせず、自分と会話するための最低限の言葉だけを残し、中身を空っぽにしてしまいたかったのだ。


「ありがとうございます、ジュリアン様。この本は……とても絵が綺麗ですね」


レイは感情の起伏がない、ひどく静かな声で言った。かつてのような、反抗的な光や、外への未練を感じさせる生き生きとした響きは、その声から完全に消え失せている。ジュリアンは満足げに目を細め、レイの黒髪を指先で梳いた。


「そうだ。余計な言葉など、君には必要ない。難しいことを考えるのはすべて私の役目だ。君はただ、私の選んだ服を着て、私の与えた本を眺め、私の許した言葉だけを口にしていればいい。ねえ、レイ。私の言うことは正しいだろう?」


「はい。ジュリアン様のおっしゃることは、いつだって正しいです。私はもう、自分の頭で考えるのをやめました。貴方が私の代わりに考えてくださるから、私は何も怖くありません」


レイは一切の揺らぎがない、虚ろな瞳でジュリアンを見つめ返した。その姿は、精巧に作られた最高級のビスクドールのようだった。ジュリアンが右を向けと言えば右を向き、座れと言えば座る。言葉すらもジュリアンの望む通りのものしか紡がない。まさに完璧な、自分だけのお人形。ジュリアンは、自分がこの世で最も贅沢な蜜月を過ごしているのだと、歪んだサディズムを限界まで満たされていた。


やがて、部屋に香ばしい肉の香りと、甘酸っぱい果実の匂いが漂い始める。従僕たちが音もなく静かに昼食を運んできた。今日のメニューは、上質な豚フィレ肉のローストに、完熟したプラムと赤ワインをじっくりと煮詰めた濃厚なソースをかけたものだ。その傍らには、シナモンとバターの風味がふんわりと香るカボチャのピューレ、そして、爽やかなミントを浮かべた冷たいレモネードが添えられていた。


「さあ、食事の時間だ。今日も私が食べさせてあげよう。君はただ、口を開けていればいい」


ジュリアンはナイフで柔らかい豚肉を丁寧に切り分け、プラムのソースをたっぷりと絡めてレイの唇へと運んだ。レイは素直に小さな口を開け、ジュリアンの手からその肉を受け入れた。甘酸っぱい濃厚なソースが口いっぱいに広がり、鼻腔をくすぐる。レイは小さく喉を鳴らしてそれを飲み込むと、微笑みさえ浮かべずに次のひと口を待った。


「美味しいかい、レイ。このプラムは、私の領地で今年一番よく実ったものを使わせたんだ。君にふさわしい、最高の甘みだろう」


「はい、とても甘くて、美味しいです。ジュリアン様の手からいただくものは、どれも胸が苦しくなるほどに満たされます」


レイは言われるがままに、カボチャのピューレも、冷たいレモネードも、拒むことなくすべて胃に収めていく。その一連の動作には、もはや一片の躊躇も、屈辱に対する涙もなかった。かつてあれほど泣き叫び、外の空気を求めていた男とは到底思えないほどの変貌ぶりだった。ジュリアンは、自分の手によって一人の人間が完全に作り替えられたという圧倒的な快感に、背筋がゾクゾクするほどの興奮を覚えていた。


食事を終えると、ジュリアンはレイの薄い身体をベッドの上へと押し倒し、その上に覆いかぶさった。リネンのシャツ越しに伝わるレイの体温は、夏の盛りだというのにどこかひんやりとしていて心地よい。ジュリアンはレイの首筋に顔を埋め、白薔薇の香水が微かに香るその肌に、深く歯を立てて痕を刻みつけた。


「お前は一生、私の美しい檻のなかで、私だけを見て死んでいくんだ。他の誰の目にも触れさせない。お前の世界は、この四角い部屋と、私という存在だけで完結している。お前は私の可愛い、死ぬまで離れないお人形なんだから」


ジュリアンはレイの耳元で、呪いのような、しかし彼にとっては至上の愛の言葉を低く囁いた。その言葉は、通常の人間であれば恐怖で身を震わせるほどの狂気に満ちていた。


だが、レイは怯えなかった。


「ええ、ジュリアン様。おっしゃる通り、私は貴方だけのお人形です。この檻のなかで、貴方の愛に溺れながら、貴方だけを見つめて果てていきましょう」


レイはただ、静かに微笑んでいた。その微笑みは、ジュリアンが望んだ通りの従順なものでありながら、どこか底の知れない深淵のような静けさを湛えていた。ジュリアンはその甘美な微笑みに目を奪われ、勝利の美酒に酔いしれるようにレイの唇を貪った。


ジュリアンは信じて疑わなかった。この完璧な蜜月が、自分の力によってもたらされた不変の支配であると。しかし、彼は気づいていなかった。レイの衣服を簡素なものに変え、本を取り上げ、言葉を制限した結果、レイのなかで「ジュリアン以外の世界」が完全に削ぎ落とされ、結果としてジュリアン自身を逃げ場のない逃走迷路へと誘い込んでいることに。お人形でいることを自ら選んだ小鳥は、男が自分に依存し、この支配の快感なしでは生きられない身体になっていくのを、静かな微笑みの裏で冷徹に見つめていた。檻の主がどちらであるのか、その境界線はすでに、完全に融解していたのだった。



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