下
「何かお探しかな」と和尚さんは言いました。和尚さんは食事中でした。
「鬼を見なかったかね」おばあさんは言いました。
「鬼は人間の心の中にあるものじゃ」
「そんなこたぁ知ってる。あたしの探しているのは、人食い鬼のことさ」
「それなら、ここじゃ」
和尚さんは、一匹のハエを、箸でつまんでいました。
「ハエに変身して、隠れようとしておった。さて、この鬼をどうするつもりじゃ」和尚さんは、おばあさんに尋ねました。
「目には目をさね。筋を通させてもらうよ」
「待ってくれ!」
ハエは、箸につままれたまま、か細い声で言いました。
「おれだって、人食い鬼に生まれたくて、生まれたわけじゃない。だけど、そう生まれたからには、人を食わないと生きていけない。きさまは、おれが鬼だから許せないのか!」
それを聞いたおばあさんは言いました。
「生まれに過ちはないね。たとえ鬼だろうとね。あんたの過ちは、あたしを襲ったことだよ」
「どうか許してくれ!」とハエは、前足をこすり合わせました。
「来世で後悔しな」
と、おばあさんは、ハエに化けた鬼を、ひねりつぶそうと、手を伸ばしました。
その時です。
「待って!」
と後ろから声がしました。大きなおばあさんが振り向くと、そこには、二人のおばあさんが立っていました。二人のおばあさんも、ものすごい速さで走って、追いかけて来たのです。
小さいおばあさんが言いました。
「この鬼は、あなたを食べようと襲いました。けれど、同時に、あたしたち二人を助けてくれました。お釈迦様は、クモを一匹助けただけで、地獄から救われる機会をくれるそうです。ですから、ここは一つ、許してあげましょう」
「あたしからも頼むよ」と二番目のおばあさんも頼みました。
二番目のおばあさんの、右手には鬼の金棒、左手には血だらけの鬼の片腕があります。心のやさしい、おばあさんは、それを拾って持って来たのでした。
大きなおばあさんは、それを聞くと、しかたなさそうに、「次はないよ」と言いました。
ハエは、もとの鬼の姿に戻ると、ペコペコと頭を下げて、おばあさんたちに感謝しました。
小さなおばあさんは、ちぎれた鬼の腕を、ギュウッと鬼の傷口に押し付けると、河童から巻きあげた軟膏を塗って、鬼の腕を治しました。
鬼は泣いてお礼を言いました。
「もう人を食うんじゃないよ」大きなおばあさんは言いました。
「でも、おれは人しか食えないんだ」と鬼が言うと、
「ぶっ殺されたいのかい。人が食えないのならケーキを食いな」と大きなおばあさんは言いました。
「一緒に、夏祭りに言って、食べられるものを探しましょ」と小さいおばあさんが言いました。
「たこ焼きや、アイス、かき氷もあるよ」と二番目のおばあさんが言いました。
「それって美味いのか」
「食って生きるか、食わないで死ぬか、決めるのは、あんただよ」と大きなおばあさんは言いました。
「ばあさんは、それを食って強くなったのか」
大きなおばあさんは、「フンッ」と言って、ぐにゃぐにゃに捻じれた鬼の金棒を、また雑巾をしぼるようにして、もとに戻すと、それを鬼に返して、言いました。
「知らないね。黙ってついておいで」
そうして、人食い鬼と三人のおばあさんは、一緒に、海の村の、夏祭りに行ったのでした。
めでたし、めでたし。
その後、海の村では、大騒ぎになりましたとさ。
読んでくださり、ありがとうございました。
名作童話、『三びきのやぎのがらがらどん』、あらためて読むと、すごいスプラッタホラーですよね。
R15にしなくていいのか! 残酷描写がハンパなくて笑っちゃうほど。
『三枚のお札』もトラウマ的ホラーですねー。小さいころ、読んだ時、怖かった……。
本作は、Kanさま主催の「真夏のミステリーツアー【アンソロジー企画】」用に執筆いたしました。
プロットなしに、ミステリーホラーを書いていたら、こんなんなりました。
なぜ!?? それがミステリー……。
たくさんのツッコミ、お待ちしています! Y(#^.^#)Y