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平安時代の姫君、現世で婚活はじめまする  作者: かちゃ
異なる世は、地獄にございました
8/18

姫君◇五 地獄見物記

【!ご注意ください!】


 主人公の勘違いのせいで(事実はまったく違うのですが)人肉食を思わせるシーンがあります。苦手な方はすみません。

 まずは、地獄の物語を聞いてくださいませ。


 先刻にわらわが見てまいりました地獄を、これより語りまする。



 ここは地獄にございましょうか?


 おや? 戸には文字のようなものが書かれておりますな。されど、わらわには読めませぬ。おそらくは、鬼の言の葉にございましょう。


『自動ドア』『年中無休』『24時間営業』『セブンマート京都六条河原店』


 これは、(まじな)いか?


―― ピンポーン ――


 おのれ、何者じゃ。


 わらわが中へ入らんとすれば、自ずから戸が開きまする!


 姿の見えぬ者が、戸を引くのでしょうか……わらわが驚いておるうちに戸は動き、たちまち塞がってしまいました。


 ふう。危ういところにございました。わらわが避けなければ、戸に挟まれておりましたよ。


 この戸は、氷のごとく透けておって固いのです。そのような危ういものでわらわを挟むなど、人の仕業ではございませぬぞ。鬼の所行じゃ! 


―― ピンポーン ――


 こざかしい……。


 このやかましい『ひんほん』といふ音声は、姿が見えぬ何者かの声でありましょうか。


 わらわに、去れと言うておるのじゃな?


―― ピンポーン ――


 うぬぬっ、入れぬ。


 ここは地獄。わらわのように生きた者が入らぬように結界を張っておるのか。


 わらわは死んでおらぬゆえ、地獄へは入れぬといふのか?


―― ピンポーン ――


 わらわは、鬼に尋ねねばならぬ。


 先刻、鬼より貰うた『ひんくかつ』。鬼の食うものは皮が固く、わらわは噛めませぬ。しばらく口に含んで舐めても柔らかくならず、いかにして皮を剥げばよいのでしょう……。


 鬼が地獄へ入るより前に尋ねておくべきでございましたが、今は悔いても遅うございます。


 わらわは、飢えておりまする。もう、死ぬるのでしょうか。


 鬼が結界の中におりますので、尋ねられぬのです。


 いかにすればよいのか……そうじゃ! わらわは、よいことに思い及びました。


 地獄の戸は氷のごとく透けておるのですが、塀もまた透けておりまして、中が見えるのでございます。


 塀の外より地獄の中を覗き、鬼が食するところをひそかに見ればよいのでございますよ!


 わらわは戸より離れて、塀へ寄り付きました。


 塀の内には屏風がありまして、わらわが首を伸ばさねば、中は見えませぬ……おお! 見えましたぞ。


 地獄は、何とも美しいところにございます。


 色とりどりなる小さきものたちを並べて、曼荼羅(まんだら)を作り立てておるのです。曼荼羅といふのは、御仏の教えを現した絵図だとか。


 地獄は、あちもこちも曼荼羅ばかり。


 あまりに美しゅうて、わらわは大きなる息をついてしまいます。おお、これは不覚じゃ。わらわの息で、地獄の塀がたちまち曇りましたぞ。塀は氷のごとく透けておったのに、中が見えぬではないか。わらわの両の手で拭わねば。


 されど、鬼はいずこに……ああ、あそこに見えます。奥におりますよ。


 鬼は今、曼荼羅を作り立てておるのです。ほほう、欠けたるところに小さきものを置き、修理を加えておりますね。


 あの白く丸いものは、何にございましょう。女人の胸に似ております。それを、氷のごとく透けたる器の中へ盛っておるのです。


 地獄とはいえど、人の肉を散り散りに割くなど非道にございますぞ。


 あれは真に、女人の胸でありましょうか……。


―― ピンポーン ――


 地獄の戸より、『ひんほん』といふ声がして自ずから開きました。


 地獄へ入っていく者がおります。地獄へ用ありて下る者といえば、やはり亡者でしょうか? 


―― ピンポーン ――


 その亡者は鬼のところへ歩き、台の上に何かを置きました。白銀や銅の色をして小さく丸く、銭によく似ております。


 鬼が、銭のようなものを取りました。


 およ?


 鬼は、白く丸いものを、器より出しております。それを、銭のようなものを置いた亡者に与え……。


 何と! 亡者が食いましたぞ。女人の胸のごときものを、亡者が口に……。


 ひぃぃぃ、地獄とは、恐ろしきところじゃ。


 鬼の前には熱湯の入った釜がありまして、串に刺した肉のようなものが浮かんでおります。もしや、亡者を炊いて責めるといふ釜なのですか?


 あの肉は、何なのじゃ……うううううううっ! 恐ろしゅうて震えまする。


 熱湯の釜に、文字が書かれております。『(サービ)ッス!  全品10円引  肉マン/オデン/ホットスナックまつり』。わらわには、ほとんど読めませぬな。


 されど、わらわの読める仮名文字によく似た字もございます。『まつり』。これは神仏に舞を捧げる『祭り』でございますか?


 祭りか? 祭りとな?


 わらわは、祭りにて舞を見るのが楽しゅうてたまらぬのです。


 非道なる鬼といえども、あのように美しき曼荼羅を作り立てるからには、舞もさぞ美しいのでございましょう。


 それに、もし鬼が荒ぶりましても、わらわは鬼を制する術を心得ておりますよ。


 むむっ。何じゃ? 鬼がわらわをにらみましたぞ。


 鬼は、長き(ほこ)を手にいたしました。これより後に、何が起こるのですか?

 平安時代の姫君から見たコンビニは、阿鼻叫喚の地獄でした。


 次回より、フジワラくんにいろいろ災難がふりかかります。


【お礼】


 お気に入り登録くださった皆さま、ありがとうございました!


  少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。

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