姫君◇六 祭りじゃ!
―― ピンポーン ――
地獄の戸が開き、鬼が出てまいりました。
これより、いよいよ祭りでございますね?
わらわの胸は、轟轟と鳴っておりまする。鬼の祭りとは、いかなるものにございましょう。
わらわは地獄の門前で、大きなる岩へ隠れ、事の行方を見ております。
祭りといへば、神仏のために舞うのが常でございます。わらわは舞をずいぶんに好いておりますゆえ、世に恐ろしき鬼の舞といえども見物いたしますよ。
鬼が鉾を振るいて、舞いました。その鉾があやしげなる形でありまして、細く長く、先には白い毛が生えており、白馬のたてがみのごとく垂れております。
「ヒィィ~、こっち見んなよぉ」
鬼は、叫びました。
鬼の言の葉がわらわにはわかりませぬが、ときの声のようなものでしょう。
ややっ! 鬼の舞とは、このように激しきものか? 止めなされ! 鬼よ、そなたは狂うたのですか! 鉾の先を、わらわへ向かい幾度も突くのは止めなされ。
わらわは頭を低くしまして、手にした扇にて鬼の鉾を避けたのでございます。
「ツクシソータ!」
わらわも叫びます。
「ツクシソータ! ツクシソータ!」
これは、荒ぶった鬼を制する術なのでございまする。ふふふ。これさえ唱えれば、鬼など恐ろしゅうないわ! ほれ見よ! 鬼は手にしておった鉾を棄てました――
およ?
鬼の前へ立っておるのは、誰じゃ? 男と女の二人が見えますぞ。
もしや……あちらへおじゃる男の方は、御仏なのでしょうか? 髪は、御仏と同じ形であらしゃります。くるくると短く巻いた髪の形を、螺髪といふのでしたね。
御仏がお召しになった黒き衣の背には、金色の文字で縫い物をしてありまする。
―― 宇宙一最強 負ける気しねえ ――
わらわの読めぬ文字もありますが、ありがたい経文でありましょう。
「そこのメガネ! おめえ、ここのコンビニの店員だろうが」
御仏の使われる言の葉が、わらわにはわかりませぬ。説法をなさっているのでしょうか。
「そっ、そうです」
鬼は、かしこまっておる様子です。
「へえ。じゃあ、何でコンビニの外にいるの?」
女の方が、鬼へ言葉をおかけになりました。
その方の髪は黄金の色にて、先はくるくると巻いており、神の社にある狛犬のよう。いかめしいお顔も、狛犬によく似ておられますね。
おそらく、狛犬より人の姿へと変化されたのでしょう。
神の使いであらしゃるゆえか、わらわの知らぬ言の葉を使われるようです。
「あんたが店の外でサボってるせいで、あたしは欲しいタバコを買えないんだけど」
狛犬は、口より煙を吐きました。
ほほう、珍しき術じゃ! 腹の中で、火でも焚いておられるのですか?
煙で、厄を祓うのでしょうね。
鬼の顔へ煙がかかります。目には薄らかに涙が……ありがたく思うておるのでしょう。
「お客様、すみません。すぐにレジを打ちます」
鬼は、狛犬へ二度の拝礼をしております。
おそらく、神事が行われるのでございましょう。
御仏と、神の使いにあらしゃる狛犬。神仏の加護を一度にあずかれるとは、めでたきことよ。
「謝るのが遅えんだわ」
御仏が、大きなる声で叫ばれました。
説法をなさっているのでしょうね。
「すみません!」
鬼が、深く拝礼をしております。
「何だその謝り方は! アァ? 悪いと思ってんなら、土下座しろ」
御仏は、鬼へ顔をお寄せになりました。
あのように御仏の近くにて対面するとは! 鬼は、喜びに震えておるようですな。
「ヒィッ! 誠に……申し訳ございません」
鬼が、地へと伏しました。
御仏があまりにありがたく、鬼は顔も上げられぬ様子です。
「おわびにタバコくれる? マルボコのメンソール、ワンカートン」
「いやっ、それは……」
「はあ? おめえ、殴られたいの?」
御仏が、鬼の前へと屈みます。
座したそのお姿! わらわが寺で拝んでおりました御仏の像さながらです。
「タバコがあかんのなら、お金貸してくれ」
御仏は、指を丸い形になさり、印をお作りになりました。
おおお! 何とありがたいこと。
御仏は、極楽浄土へ参った者を、指で丸い印をお作りになり迎えられるのです!
鬼よ、ようございましたな。
極楽へ行けると定まっておれば、死ぬるのも恐ろしくありませぬよ。
鬼は地獄で曼荼羅を作り立てておりましたもの。御仏は、それを見ていらっしゃったのです。
「お金は……持ってなくて」
「死ねや、ゴルァ!」
御仏が、鬼の肩へ手をおかけになりました。
――その折にございます。
「待って」
いずこよりか、声がいたします。
「みんな。今のぜーんぶ見たよね! ちい巫女は、セブンマート京都六条河原店にいるの。イケイケ動画のサイトで生中継してます」
一人の童が、こちらへ近づいてまいりました。
白き小袖に、赤き袴をまとっております。
「すごい放送事故! DQNカップルが、コンビニの店員さんを脅してまーす」
あれは……女の童です。
先刻、わらわをここまで導いた童じゃ。
今まで、いずこへ去っておったのじゃ。
童がこちらへ向けておる漆塗りの板は、何でございますか?
コワモテのお兄さん、派手にしてるお姉さんって、話してみたら実はいい人ってこと、多いですよね。
話の都合上、悪者にしたりDQNとか書いてすみません。
読んでくださった方、ありがとうございます。
お気に入り登録いただいた方、ありがとうございます。
ちょっとでも楽しんでもらえたかな~と想像すると嬉しくて、ひとりパソコンの前でニヤニヤしてしまいます。
【10月14日 修正しました】
御仏たち(男女)のセリフ等で、余分な描写を削りました。
ストーリーは変わっていません。
少しは読みやすくなっているとよいのですが・・・・・・。
サブタイトルも変更しています。




