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平安時代の姫君、現世で婚活はじめまする  作者: かちゃ
異なる世は、地獄にございました
10/18

姫君◇七 不思議なる漆塗りの板

「イケイケ動画の再生数が、1000回を越えたよ! たくさんの人が中継を見てるの。あんたたちがコンビニ店員さんをいじめて土下座させたのを、うちのパパとママも見てる」


 女の童が、わらわのそばへ立ちました。


 白き小袖と赤き袴をまとった、齢は十ほどの童です。


 女の童が話しておるのは、御仏と、神の使いであらしゃる狛犬のお二人。


 わらわは大きなる岩の陰へ隠れて、その様子を見ておるのです。


「あんたたちの悪事、ネットの向こうでみんなが見てるよ!」


 女の童が、叫んでおります。


「悪事だと?」


 御仏がおっしゃいました。


 短くくるくると巻いた螺髪(らはつ)をしておられます。ありがたいお姿です!


「あたし達が、店員をいじめてるだって? コイツが仕事をさぼって店の外にいるから注意しただけじゃないか。おわびの気持ちがあるなら、タバコのワンカートンぐらいタダで寄越したっていいだろ?」

 

 狛犬が、いかめしいお顔でおっしゃいます。

 

 くるくると髪を巻いた女人に見えまするが、このお方の正体は狛犬であらしゃります。

 

 狛犬といへば、神社の門前におられまして獣の姿でいらっしゃるのですが、今は女人の姿に変化されているようなのです。


「申し訳ございません! 商品は差し上げられません」


 鬼は地に手をつきまして、伏しております。 


 皆が話しておられるのは、わらわの知らぬ言の葉ばかりです。何とおっしゃっているのでしょう。


「あんたたちが帰るまで、生中継は続けるもん!」


 女の童は、(うるし)塗りの板を掲げております。


 されど、漆塗りにしては見目がずいぶん寂しゅうございますよ。


 漆といへば、美しい細工をしておるのが常でございましょう。きらきらと光りたる貝を施した螺鈿(らでん)細工に、金銀の粉を散りばめた蒔絵(まきえ)


 わらわの生きておった千歳(1000年)も前の世とは、違うのですね。後の世では、きらびやかなる細工で漆を飾らぬようです。


 漆の上には、白く小さきものが動いておるように見えまする。


 螺鈿や蒔絵のごとく美しきものではありませぬが、絵が動いて見ゆるといふのは、おもしろき細工ですな。


 あれを、間近に見てみとうございます。


 わらわは、こそこそと岩の陰より出ました。漆塗りの板へと、にわかに顔を近づけたのです。


 その板は黒く艶めいており、わらわの姿が映ります。


 そこへ、醜いわらわの顔は映っておりませぬのじゃ。黒く長き髪が目鼻にかかりまして、隠れておるのです。されど、わらわが漆塗りの板を見ることはできますぞ!


 漆塗りの板の上にて動いておるもの、白く小さきものは、文字に似ております。


 動くのみではなく、数が増してゆくのです。


 文字のごときものは、たちまち板の上へ充ちてゆきました。そこへ映っておりましたわらわの姿が見えぬほどです。 


 ――おおおおおおおおおおおお――

    

     ――おおおおおおおおおおおおお――


 ――なんだこれ――


      ――マジの放送事故www――


  ――貞子?――  


      ――まさかの貞子登場wwww――


 ――来る、きっと来る…… キターー!!!――


 ――きめええええええええええ――


 白く小さき文字のごときもの。それが数多くひしめき(うごめ)いている様は、おもしろいのです。何と書かれておるのか、わらわにはわかりませぬが。


「キャー、貞子だ。呪われちゃった! 怖いよ! パパ助けて」


 女の童が、うずくまりました。


「イケイケ動画で、中継を見てるよね。パパ助けて、ママも来て」


 漆塗りの板は、頭の上へ掲げたままでございます。


 されど童よ。そなたが動いたゆえ、漆に施された細工がよく見えぬではないか。


 わらわも低くかがみます。地に手をついて、伏しました。


 おお、不覚じゃ。髪が下へ垂れて、わらわの顔をすべて隠してしまいました。前がよく見えませぬ。


 わらわは行く方がわからず、あちこちと這うて彷徨います。


「げっ、こいつ気持ち悪いぞ! こっちに来るな!」


 御仏のお声が聞こえます。


 わらわを、お声で導いてくださるのですか。何とありがたいのでしょう。


「仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」 


 わらわは経文を唱えて、御仏のお声がする方へ這うてまいります。


「おいっ、やめろって、来るな! 死にてえのか!」


 御仏のお声が、近うなりましたぞ。


 わらわは、いよいよおそばへ参ります!


「色不異空 空不異色 色即是空 空即是色……不生不滅 不垢不淨不增不減」

 

「ギャー。貞子! 寄んなよ! お経を唱えながら這ってくんな! 怖すぎるんですけど! キィーッ! ヤダ、あたしもう帰る」


 狛犬のお声が、しだいに遠くなっていきますぞ。


 大きなる足音も、小さくなっていきまする。


「おい、待て。俺だけ置いてくんじゃねえ! ……チッ。クソガキめ! 覚えてろ」


 御仏のお声も、たちまち遠くなりました。


 なぜじゃ?


 御仏よ、いずこへ行かれましたのじゃ。


 わらわは手を伸ばし、御仏がいずこへいらっしゃるのか探ります。


 長い黒髪が下へ垂れておりますゆえ、前が暗うて見えませぬ。


「ヒィッ! 止めて」


 消え入るような声が、聞こえまする。


 この声は……鬼なのか?


「お願いします。来ないでぐださい……」


 わらわの手は、温いものに触りました。


 それが何かはわかりませぬが、わらわはとりあえず抱きつきました。


「ヒィィ~、放じでぐだざい」


 わらわが取り付いた温いものは、しばらく戦慄(わなな)いておりました。


「ぃゃっ、俺……もう死ぬ」


 やがてナヨナヨと、地へ崩れたのです。

 気絶したフジワラくんはこの先どうなるでしょうか? 

 次回からは、新キャラクターが登場します!

 読んでくださった方、ありがとうございます。


 前回の更新後にブックマークをしてくださった方がいらっしゃったのに、2ヶ月も間が空いちゃったので、忘れられているかもしれませんね。

 大変お待たせして、すみませんでした。お礼が遅くなりましたけれど、とても嬉しいです。本当にありがとうございました。


【10月14日 修正しました】

 御仏たち(男女)のセリフ等を、一部変更しました。

 ストーリーは変わっていません。

 少しは読みやすくなっているとよいのですが・・・・・・。

 サブタイトルも変更しています。

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