男子◆4 美形の巫女は、誰ですか?
「すみませーん、これください」
男の声がする。
誰かを呼んでるみたいだ。『これください』って、店員に話しかけてるのかもな。じゃあ、この声はお客さんか。
俺は、今どこにいるんだろう。どっかの店? それと、俺は寝てたのかな。頭がボーッとして、目を開けるのも面倒くさい。
「すみませーん、誰もいないの?」
困ってるみたいなお客さんの声。
店員が近くにいないのか。
ここの店員は、どこでサボってんだろうな。店を放置してどっかへ行くとか、うちの店長みたいだ。あっ、店長って、俺のバイト先のコンビニオーナーなんですが、毎日パチンコへ行ってばっかりなんです。今日だって、パートのおばさんが午後に帰っちゃったあと、店員は俺1人しかいない状態でした――
――って、呼ばれてるのは、俺じゃないッスか!
忘れてた。俺はバイト中だったんだ。
さっきも、俺がレジを離れてコンビニの外へ行ってたもんで、コワモテの客に土下座させられたんだった。コワモテの客っていうのは、パンチパーマで特攻服を着た男と、金髪を巻き髪にしてる派手な女のカップル。そのDQNに絡まれて、俺はホントに殺されるかと思いましたよ。
それで……あれ? そのあとどうなった? 思い出せない。思い出したくないレベルの不吉な事件が何かあったような……。まあ今はそれどころじゃない。早くレジへ戻んないと。
面倒くさい客だったら、俺はまた土下座しなきゃいけないのか。それ困る! クレームになって店長の耳に入ったら、俺がめちゃくちゃ怒られる。店長のパワハラが暴走して、エンドレス土下座まつりだワッショイ! なんてことになりそうだ。
「ふぇぇ~、申し訳ございません」
俺は寝ぼけながら、レジへ行こうとした。
した。
したんですが……。
「ほえ?」
びっくりしすぎて、変な声が出る。
レジがない。
えっ、ちょっ……何で?
レジの機械もないし、タバコのショーケースとか、オデンを煮てるケースとか、肉マンのガラスケースもないよ!
ここはどこですか?
俺はあせって、キョロキョロと周りを見た。
ここは……コンビニじゃないの? 古い木造みたいな建物だし、床は畳。それに、俺の前にはなぜかわかんないんですけど、お守りがずらっと並んでる。
お守りです。神社とかで売ってるやつ。赤とか紫とかカラフルな小袋に、白いひもがついてるアレですよ。『交通安全』とか『えんむすび』とか、金色の字で刺繍してあります。
まさか、ここは神社?
もしそうだとしても、なぜ俺は、神社のお守りを売ってる小屋にいるの?
「おっ、見たことない子だね。君は、新しく入ったのかな?」
お客さんが、俺の顔をのぞきこむ。
眼鏡をかけて太って脂ぎってて、アニメオタクのテンプレみたいな男。
うへっ、ニヤニヤ笑って顔を近づけてくんなよ。かわいい女だったらガッツリ観察したいのわかるけど、俺は男ですから。
「は、わわっ……わかんないですが、ここへは初めて来たんですうっ」
俺は返事した。
オタ男に見つめられたのが怖すぎて、裏声になっちゃった上にめちゃくちゃどもってしまった。
「『はわわ』とか言っちゃって。君ってやつはもう……かわいすぎか! デュフww」
オタ男は、俺を指さす。
いやいや、俺は言ってねえッス。『はわわ』とか言うの、アニメキャラの女しかいないだろ。
それに、コイツの笑い方がキモすぎです。『デュフww』って日本語じゃないっしょ。何語だ。
「今日から、巫女さんデビュー?」
オタ男が、俺に訊いてくるんですが。
「はい?」
俺は訊き返した。
まさか、『みこ』って神社の巫女さん? 白い着物と赤い袴を着てて、長い黒髪を後ろでひとつに縛ってる巫女さん?
デビューって、誰が?
「だったら、記念にボクチンが写真を撮ってあげるよ。デュフフww」
オタ男は、スマホをこっちに向ける。
パシャッと、シャッター音がした。
「にゃっ……」
何を勝手に写真撮ってんだ! びっくりして、また変な声が出たじゃねーか。
俺はとっさに顔を隠そうとして、両腕を上げた。
「おぅふっ! ワキ見せポーズ最高っすわ! だが、袖がジャマでワキが見えん! 袖をめくってワキ見せて」
オタ男は、俺の写真をパシャパシャ撮ってる。
俺は顔を隠すのも忘れて、そのままポカーンとしてしまった。
男のワキを見せろって、こいつマジもんの変態か?
「にゃ、何ですと?」
そんなキモいこと言われちゃったら、裏声が出ちゃうじゃないですか。
俺は文句言おうとしたけど、その前に、オタ男は撮影を止めてスマホをいじりだす。
「ボクチンの嫁に認定だな! ササヤイッターで拡散したから」
オタ男が、スマホの画面を俺につきつけた。
ササヤイッターって、興味のあることとか写真とかをネットで広めるやつでしたよね。俺はスマホ持ってないしやってないんですけど。
スマホの画面には、巫女の格好をした美少女が映ってる。
大きなタレ目。小鼻はちっちゃくてかわいい。頬はピンクに染まって、唇はぷるんとしてツヤツヤ。髪は黒くてサラサラのロングで……その美少女の写真にはハッシュタグがついてた。
#ボクチンの推し巫女 #京都六条河原神宮
おおっ、めちゃくちゃ美形じゃないですかこの子。
頭の上で腕を組んでるグラビアアイドル風のポーズがたまらんです。それと、この目つきがイイ! 『こいつ何やってんだろ』って思ってるような、ジトーっと相手を見下す目。やばいです、やばいです、俺の好みです。
ハッシュタグには、京都にあるらしい神社の名前が入ってるけど、場所はどこだろう。もし近所だったら、実物の彼女を見に行っちゃおうかな。
そういえば今朝、コンビニの店内放送で流れてた占いで、運命の人と出会えるとか神社がラッキースポットだとか言ってた。これか、これなのか? 運命の出会いってやつは。
「えっ、こんな美少女どこに?」
俺は、オタ男に訊く。
コーフンしすぎて、また裏声になっちゃいました。
「デュフwwオウフwwドプフォww」
オタ男が、腹を抱えて笑ってます。なぜだ?
「自分で自分のことを『美少女』って言っちゃうとか、かわいいっす。いいっすねえ、痛いけど嫌いじゃないっすよ」
オタ男が何を言ってるんだか、俺にはよくわからんのですけど。
「君の名前、教えて」
「はぁ?」
オタ男のコミュ能力は大丈夫か? この会話の流れで、なぜ俺の名前を訊く?
今回より、アクセス数の増加を狙って、萌え展開キャンペーンを始めます!
物語の都合上、罪のないオタク男子さんを悪者にしちゃいました。ご不快に思われた方、申し訳ありません。
本物のオタク男子さんは、他人の写真を勝手にツイッターに上げるなんてマナー違反はしないと思います。
前回の姫君の視点から、時間も場所もいきなり移動してしまい、読者の皆さまは置いてけぼりで「?」となっていらっしゃるかもしれませんね。
次回からぼちぼちと説明していきますので、今後ともよろしくお願いします。
【お礼】
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それに毎日どなたかアクセスしてくださっているので、心が折れずに続けられています。
ありがとうございました。




