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そんな筈はない、須藤さんの気のせいでは、と必死の、だけどあまり必死に見えないよう弁解をした。だけど須藤さんファンのおば様には聞く耳を持たれなかった。あくまでも「言い寄られた須藤君、可哀想」というスタンスを崩さないのだ。困った。「もうそろそろ…」なんて帰る素振りを見せ始めたおば様ズをこのまま帰す訳にはいかない……!ど、どうしよう。
「冗談でしょう」
慌てる私の上から降り注いだ、低くて、落ち着いた声音。え、や、でもそんな……。く、久遠さん?驚きを隠せず、背の高い彼を見上げる。すると彼はもう一度、ゆっくりと言葉を吐いた。
「それは、彼なりの冗談ではないでしょうか。中々ユーモアある青年のようでしたし」
え、久遠さんだよ、ね?……こんなにもスラスラと喋る久遠さんを見たのは初めてだ……。眉間の皺も、冷徹な視線も、ない。
「この方の言う通りじゃなぁい?須藤君てユーモアに溢れてるものぉ!」
「そうねぇ、そう言えばこの前うちの犬相手にお嫁に来ないか、なんて言っていたものぉ!」
「あら~!コロちゃんに?」
「そうなのよぉ!」
「そうなんですかー?須藤さんてばユーモアの塊のような人ですねえ!」
これ幸いと須藤さんユーモア説に乗っかる。あの人にユーモアなんて欠片も感じなかったけど。大体、犬を口説くってどういうことだ。本当にあの人の守備範囲はどうなってんだか。私と久遠さん、それにおば様二人が納得している横で、須藤さんファンのおば様は口を閉じた。そして、ゆっくりと「……そうかもしれないわね」と呟いた。……よし!
「きっとそうですよー!」
「私もそう思いますね。何より彼は、この子をいたく気に入っている様で仲も良いみたいですから」
「…は?」
「あらまあ!」
「そうだったのぉ?……だからあんなにも未希子さんとの話を否定していたのねぇ」
「え、いや違!」
「そんね遠慮しなくてもぉ!お若い方同士、お似合いよ!」
いや、無理です。なんと言われ様があり得ません。大体、久遠さんもなんでそんなことを言うんだ……。苦手だ、ってそう伝えたのに……!私の否定の言葉なんて無視して盛り上がるおば様二人。須藤さんファンのおば様は……いや、そんな睨まなくても。私の否定の言葉聞いてました?
どうしようと視線を横にずらせば「あら、もうこんな時間?そろそろ帰らなくちゃ」と一人のおば様が漏らした。ナイス!このチャンスを逃すまいと「私たちもそろそろ……」と便乗すれば、一気にお開きモードとなった。おば様三人衆を見送れば、上から聞こえる、小さな息を吐く音。
「……久遠さん」
「……」
「久遠さん!!」
「す、すまない……」
「ほんとですよ!よりによって、須藤さんが私を気に入ってるなんて嘘……仲だってよくないのに」
「ああ言えば、丸く…収まるか、と……」
……確かに丸く収まりましたけど。だけど、そういう問題でもない気がする。
「葛城が…必死に否定するのも、誤魔化せた、と…思う…のだが……」
小さく、尻すぼみになっていく声。…確かに。それは誤魔化せたと思う。上手く対処できない私に見兼ねて、久遠さんはただ助けてくれただけ。穏便に事が進むように動いてくれただけ。それは、わかってるんだけど。だけど……おば様二人の煌めいた「お似合いだわ~」というあの目は……!正直耐えられない!!……だけど、久遠さんは表情を作ってでも、助けてくれた訳で……
「あ、の!」
「な、なんだ」
「ありがとうございました!」
「え」
「正直私一人じゃ、あんな風に噂を消すことはできなかったと思うので……」
「……わ、私の方こそ、おまえが嫌がるような…言い回しをして、その…すまなかった」
「いえ、見兼ねて話に入ってくれて、うれしかったです」
「いや、その…押し付けて、わ、悪かった……」
「謝らないでください。そりゃ、須藤さんの所の流れは嫌でしたけど、でも本当に、感謝してるんですから!」
そう伝えれば、「あー」だの「う、」だの唸る彼。謝るな、と言ったからだろうか、どう返していいかわからない、そう全面に出ている彼がおかしかった。
「…そう言えば、久遠さんがあんなにスラスラと喋ってるの初めて聞きました」
「そ、そうか…?」
「そうですよ。いつもはもうちょっと拙くて、おどおどしてますもん」
「おどおど……」
あ、落ち込んでしまった。




