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アイスの食べ歩きは美味しさを助長させると思う。行儀は悪いかもしれないけど。
「久遠さーん」
「……」
「もうしませんってば」
「…本当だろうな?」
「久遠さんが嫌がる内はやりません!」
「……」
ちょっとからかっただけなのに、そんなに怒んなくても……。だって久遠さん、本当にいつから手を繋いでたかわからないって言うから。これはからかい倒すしかないって思うでしょ。…いやまあ反省はしてますごめんなさい。
「大体おまえは、なんで私にはそうなんだ……」
「はい?」
「あの、須藤という男には、そ、そんなことしないだろう」
「そりゃ、あの人と久遠さんは違いますし」
「?」
「私はあの人、苦手です」
なんか、性根が腐ってる気がしてならない。主に未希子さんとの関わり方で。そう言えば「おまえでも…人を嫌うことが、あるんだな……」なんて驚愕を張り付けた顔で言われてしまった。そりゃそうだ、私だって人間だもの。聖人君子でもなければ、お人好しでもない。大体私は元来、好き嫌いがはっきりしている人間だと思う。
「では何故わ、私を嫌わない」
「そんなの、久遠さんを嫌いになる理由がないからじゃないですか」
決まってる。なにも私だって理由もなく人を嫌ったり、好きになる訳じゃない。関わった日数は少ないけれど、私はこれでも久遠さんを気に入っている。じゃなきゃあんな――――関わっていきたいだの、家事をやるだの言う筈がない。
久遠さんは変わってるけど、割と優しいし、できない家事をやってる姿は可愛らしいとも思う。それになにより、あばあちゃんとおじいちゃんと仲良くしてくれている。そんな人を好きになるなって方が無理な話だと思う。久遠さんの顔を覗き込めば、盛大に逸らされてしまった。うーんでも髪から覗く耳は真っ赤なんだけどなあ。……からかったらまた怒られそうだし、黙っておこう。
後数メートルで家に着く所で、井戸端会議中のおば様三人衆に出くわした。……しかもその内の一人は先程出会った須藤さんにお熱の人だ。まあ、知ったこっちゃないと思い横を通り抜けようとすれば声をかけられた。あ、ですよねー。
「どうもぉー」
「あはは、こんばんはー」
「あらー、行儀正しいお嬢さんねぇ」
「ほんとぉ!うちの馬鹿息子に見直させたいわ~」
「いえいえそんなー」
挨拶を返しただけなのに、まさかの大絶賛である。もちろん、久遠さんは、無表情、無反応、無言のデフォ状態。どうやら会話に参加する気はこれっぽちもないようだ。期待はしてなかったけれども。暑さの話、天気の話、数軒隣に住む都会からやって来た人の話、とおば様ズの話に終わりは見えない。もうそろそろ…なんて雰囲気を出して見れば、一人のおば様から未希子さんの名前が出た。
「やっぱりねぇ、あんなお嫁さんじゃ田中さんも無理だったみたいよぉ」
「あらぁ!やっぱり~?」
「今日、社長さんと須藤君が来ていたものねぇ」
「……ねぇ、知ってる?」
あ、まずい。そう思った時にはこの話の流れを止めることはできなかった。
「未希子さん、最近怪しいらしいのよ」
「「怪しいって?」」
「ここだけの話なんだけど、どうやら須藤君と………デキてるみたいなのよぉ!!」
「ええ!」
「うそぉ!!」
嘘です。あああもう!!言わんこっちゃない!これって最悪の事態だよね。あの人がそんな紛らわしことをするから。どっから洩れたのか、それが事実かなんて関係ない。未希子さんの不誠実さが噂として出回った、その一点が大事なのだ。……やられた。いやでも今なら、まだ間に合うかも。頑張って火消ししなきゃ。
「いやー、そんな筈ないですよー。未希子さんと豊さんって未だにラブラブみたいだし」
「…そう言えば仲が良いわよねぇ、あそこのご夫婦」
「でも豊さんって、ほとんど帰ってこないじゃない?」
「カメラマン、だったかしら?」
「そうですそうです!だけど毎晩電話のやり取りをしてるみたいだし……」
「あら、そうなの?」
「まー!いいわねぇ!」
よし!このままならいける!頼むから、余計なことを言わないで!
「でも、私聞いたのよぉ」
い、いやな予感が……!すかさず「あ、の!そろそろご夕飯のご準備とかあるんじゃないですか?」と割り込めば、「あらやだほんと!」「そろそろ戻らなくちゃ」と二人は反応してくれた。残るは須藤さんにお熱なおば様だけだ。追い打ちをかけるように「もうそろそろ日が傾いてきましたしねぇ」と少し大きめな声で告げてみる。すっかり帰るモードな二人に安堵した私がいけなかった。須藤さんにお熱なおば様が夕飯の支度なんて吹っ飛ぶほどの、大きな爆弾を落としたのだ。
「須藤君、未希子さんに言い寄られていて、困ってるって……」
ぎゃあああああ!!!!内心阿鼻叫喚していれば、「まあまあまあ!!!」「あらぁやだぁ!!!」とすごい勢いで食いついた二人。ちょっと待て!あーーもう!!!
「いやいやいや、そんなこと、ねぇ?ある筈ないですって」
「え?でも……」
「あら?あたしは須藤君から聞いたのよ?一応お客様だから、強く言えなくて困ってるって」
なに言ってんだあのホスト!!
「いやー、でも、あのその…須藤さんの勘違い、ってことも……」
「須藤君が?まさか、そんなのありえないわ!ああ、可哀想な須藤君……」
「やだぁ、ほんとに?」
「あの未希子さんがねぇ」
…駄目だ、なに言っても通用しそうにない。でもここではいそうですか、と納得する訳にもいかない。未希子さんが不誠実だなんてそんな噂、信じさせる訳にはいかない。未希子さんは本当に、豊さんしか見えてないんだから。
ほんと、厄介なことしてくれたな。




