表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるじのかんさつ  作者: summer_afternoon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/7

デジタルタトゥ


 コンビニの前で道行く車の台数を数える。……314、315。飽きた。もう早くしてよね。


 主人(あるじ)のコンビニ滞在時間は長い。どんな会社のどの製品が並んでいるのかをくまなくチェックするから。プライベートブランドの提携先や、場合によっては工場の住所まで、僕を繋いだまま検索する。


「政宗くん、おまたせ。チキン買ってきたよ」

「わん」

「早く帰って食べよう」

「わんわん」


 別に、僕はここで構わないよ。遠慮はいらないよ。さあ。


 主人は人目を気にするタイプ。家に帰るまでチキンはおあずけだった。


「なんだろ。これ」


 帰宅時、ポストに郵便物があった。主人はその中の1通の封筒をハサミで開けた。


「わんわん」


 先にチキン!


「ああ」


 主人は表面の味が染み染みの美味しい茶色いところを自分で食べてから、肌色だけになった塊を僕にくれた。おーっと、見てたら涎が床にいっぱい垂れちゃったよ。


 僕にとってチキンは瞬殺。ごくんと一口で飲み込んだ。


 主人は手を洗って綺麗に油を落とし、傍にさっきの封筒を置いてパソコンに向かう。手は、チキンを食べる前に洗うのが人間界の常識だと思うけど、最近の主人はかなり犬寄りになってきているから仕方がない。


 あれ? どーしたんだろ。主人はパソコンでクリックを繰り返す。気になって文書を見てみたら、子会社に巨額の損失があったことに関するお詫びとお知らせの文書だった。主人は子会社の事業内容について調べている。


「決算とは別に通知が来るってどーゆーことなんだろ」

「わん」


 とりあえず、相槌。僕は主人のパートナーだから。人に話せない株のあれやこれやを受け止めてあげるよ。


「えーっと関連会社一覧。あった。リンク先に飛んでみよう」


 主人は僕に話す(てい)で独り言を喋る。もう夜の散歩終わったしさ、眠くなってきたよ。


「へー。海外じゃん。なんでだろ。どー考えても海外進出する事業内容とは思えないんだけど。うーん。何やってるかは載ってない。住所載ってる。へー。いーなー。遊びに行きたい。リゾートじゃん。政宗くんも一緒にさくっと海外旅行できればいいんだけどね」

「わん」


 会社の住所がリゾート地ってなにそれ。怪しくない?


「What kind of business does your company do? 政宗くん、英語分かる?」(どんな仕事してんの?)

「わん」


 僕ら犬同士には言語の壁はないからね。


 主人はパソコンに地図を表示して、子会社の住所を確認する。画面には、その街を歩いているみたいに画像が表示されていく。パームツリーに広い空、溢れる日差しと濃い影のコントラスト。進んでいくと大きな病院の前に来た。


「この中に会社があるのかな?」


 僕は遠見って特殊能力で、建物の中を覗いた。玄関に入ったエレベーターホールにあるプレートを見ると、病院以外にも会社はあるけれど、文書の子会社の社名はない。


「ふーん。じゃ次、こっちの事業所の住所、行ってみよう」


 その会社の近くの、どう見てもコンドミニアムって感じの建物。おおーっ、全室オーシャンビュー。


「次」


 今度は、素敵なヨーロッパの街の画像がパソコンに表示された。異国〜。建物の1階ごとの高さがアジアと違うんだよね。電線がない。外壁の色やデザインが統一されていて雰囲気がある。街路樹のある通りで画像は止まった。


「アパートだ。間借りして事務所にしてるのかな? いやいやいや。なんか怪しい感じがする。んー。外に看板が出てないのは、観光地エリアで外観を優先してるから仕方がないとか。んー」


 主人が「んー」って言ってるときは、たぶん疑ってる。僕もときどき、「ここにあったお菓子は? んー」って言われる。


 僕が遠見で調べてあげるよ。この建物の203号室。えーっと、この国は日本の1階が0階になって1階ずれるから、3階の3番目。ドアには何もない。『失礼しまーす』と心で唱えながら部屋の中を覗き見る。ダイニングテーブル、ソファ、ベッド。今は白い布が被っているけど、人が暮らしてた形跡あり。


 3つ目、主人はイスの背もたれに脱力した。パソコンには空色の綺麗な一軒家が表示されていた。看板には「FOR SALL」。


「ちょっと待った。この関連会社も怪しいな」


 主人は関連会社がずらーっと並んだ一覧の一行を見ている。分かった。社名に海外の地名が入ってるやつね。事業内容が海外展開しないって言ってたもんね。主人はその社名のところをクリック。別のページに飛んだ。またまた住所をチェックしている。そして表示されたのは、最初に見た病院の入っている建物だった。別の会社なのに住所が同じ。これ、ペーパーカンパニーの匂いがするね。僕は鼻をひくひくさせた。

 

「関連会社の海外拠点が、病院の建物、コンドミニアム、アパート、FOR SALLの一軒家。でもって、別の関連会社も同じ住所。どーゆーこと」


 変だね。


「代表取締役社長と取締役。この社長はどんな人。おおーっ。へー。かなり何社も兼務してるんだ。じゃ、実質やってるのは取締役の方かな。んーっと、この人はどんな人。ん?」


 あれ? ご主人が無言で画面をクリックし続けている。気になって見てみたら、土地投資セミナー開催のページが表示されていた。その次は太陽光発電セミナー。それから、強運ノウハウ。強運グッズ販売に言葉を寄せている。


「政宗くん、こーゆーの、あるんだね」


 株で儲けたいだけなら、そこまで調べなくてもいいのに。そんなこと誰も気にしないし調べないと思うよ。10年以上も前の他人の過去を根掘り葉掘り。そーゆーのネトストってゆーんだよ。


「あとちょっとで権利日。優待がいいから、最後にそれ貰って売る」

「わん」

「でもー」

「?」

「いっか。権利落ち日の下落に比べたら、優待なんてたかが知れてる。売ろう」


 1年の決まった日に持っていると、株を持っていましたって企業側にはっきり認識される。それを基準に配当が出たり株主優待が貰えたりする。その日が権利日。その次の日が権利落ち日。株主優待の人気株は、権利落ち日に価格が急落する。


 主人は、翌日売った。その後、その株は権利日まで上がり続け、権利落ち日にどーんと下がった。


 再び主人はパソコンをクリックしている。


「ねーねー政宗くん、名前が消えてるよ」

「わん」


 なになに?


「ほら、この間の土地投資セミナーと太陽光発電セミナーと強運ノウハウの人。子会社の役員の欄からなくなってる。社長だけになってる。なんかあったんかな」


 あったんだろーね。とんでもない多額の損失額だったもんね。トカゲの尻尾切りってやつかな。それとも、その人が詐欺師だったのかな。税金逃れとかマネーロンダリングとかしてたのかな。


「もう近寄らない」

「わん」


 それがいいよ。たまたま主人にデジタルタトゥを探すって執念があっただけで、分からないことはきっと世の中にいっぱいあるよ。


 主人、とりあえず、僕が分からないのはさ、コンビニのからあげの表面の味。今度、僕にも、ちょっとくらい茶色いとこを味わわせてよ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ