#9『不穏/騒穏』
〈ペグマタイトタワー、地下1階、廊下〉
「エリナさん、貴方の事を私達に見せたくってしょうがなかったんですね。」
少し先を歩くゾイサイトとカルサイト、その後ろで、マーカサイトはパールとの会話を楽しんでいた。
「言われてみれば確かに。」
(私のこの力、エリナに教えはしたけど...まぁ、昨日決まっていきなり今日任務だったし、そういう準備って時間がかかるもんなんじゃないかな)
「でも、戦闘経験とかあんまり無いから、最初があれだったのは驚いたよ。でも、恐竜の骨が勝手に動くなんて話聞いちゃったら、テンション上がっちゃって」
「童話みたいな事件でしたね、本当に。」
「なぁ、マーカサイト。」
「どうかしました?」
2人が話していると、前に居たカルサイトが歩きながら振り返り口を開く。
「やっぱアレあったか?」
「あ、はい」
マーカサイトはポケットから文様の付いた結晶を取り出し、カルサイトに手渡した。
「その結晶って―――」
パールが結晶の事を聞こうとした時には、作戦室が目の前にあった。
「お前にも説明してやる。中でな。」
カルサイトは扉の横のパネルに指で触れると、スライド式の頑丈な扉が開き、1同は室内の机を囲うように入る。中ではエリナが待っており、皆の帰還を待っていた。
「うむ、ご苦労だった。特にパール、戦闘訓練も無しにいきなり実践だったが、怪我は無いか?」
「うん!大丈夫!」
「お前まさか試験も無しにぶっつけ本番だったのか?」
「普段なら任務が終わったら現地解散だが、皆に集まってもらったのは無論、パールの事でだ。」
「この娘、何者なんですか?」
ゾイサイトの問いに、パールはなるべく顔に出ないようにしていたが、それでも冷や汗が出ていた。
「それはだな―――」
「秘密だ。」
エリナの回答に、パールは束の間安堵しため息を漏らした。
「こう言っちゃあ何だが、素性も知らない奴と仕事しろってか?」
「まぁまぁ、彼女にもプライベートな事情ってものがある。そういう事は、きちんと守られているべきだろう?」
「まぁ、それもそうね。変に疑っても今後の任務に支障が出るでしょうし。じゃあ、これからよろしくね!パールちゃん!」
「はい!...あ、そうだ。カルサイトさん......だっけ。あの結晶は何?」
「あぁ、これな。」
カルサイトは結晶をポケットから取り出すと、机に置く。
「やはりあったか。」
「あぁ。そんで、こいつは神子石ってんだが、その者とはちと訳が違ってな。」
「神子石と言うのは本来、人の意思に呼応し姿形、その性質を変える石だ。まだそれほど普及しておらず、これを扱えるのは私達やごく一部の人間だけなのだが......」
「どういう訳か、ここ最近この石が絡む事件が立て続けに起きてやがる。本能の街の連中が、理性の街に現れ始めた頃だな。」
「これが、キミに力を借りたいと言った理由だ。事態は一刻を争う。まだ甚大な被害が出た訳ではないが、如何せん代物が代物だから、少しでも戦力が居ると言う訳だ。さてと、とりあえず今日は他に無ければこれで解散とするが、構わないかね。」
「あぁ。」
「それじゃあ、皆、ご苦労だった。そうだパール、あのスクーターは移動手段として自由に使ってくれて構わない。」
「やったー!」
「スクーター......?」
「そういえば、パールさんはどうやって博物館に来たんですか?」
「あぁ、埃を被った布が被さってたものだ。」
「やっぱりアレかよ.....」
「カルサイト知ってるの?」
「まぁ......なんつーか、そうだな。パール、壊したら承知しねーからな。まぁ、あれも神子石で出来た代物だから、事故る事はほとんどねぇけどよ。」
1同は各々の帰路に着き、カルサイトは1人地下の研究室に籠った。
〈理性の街、デパート〉
モノクロの世界では、触覚、特に、足元の感覚が敏感になる。
クリスは初めての外出で、タイルに躓きかけながらも、2人に手を引かれながら、街の西部にあるデパートに来ていた。
「ここ、前に電車の窓から見かけて来てみたかったんだ!」
ライラに案内されたその建物は、周りのビルと比べてもあまり差異は無く、それでいて横にもかなりの大きさがあった。ルピナスは建物の端から端まで見渡しながら、心躍らされていた。
クリスの無機質な世界でも、他の建物と比べて装飾が沢山施されたその建物は、魅力的な印象を残した。
「すごい...デパートなんて初めて来ました」
「まぁまぁ、感動するのはまだ早いよ!中はもっとすごいんだから!!」
ライラは2人よりも少し先に、デパートの入口に駆けて行った。
「あはは......あの娘、体力凄くって。しばらく家の中に居たものですから、元気有り余っちゃってるみたいです。私達も行きましょうか」
ルピナスはクリスの手を握りながら、ライラの後を追った。
〈デパート2階、クローズドエリア〉
「ねぇねぇルピナス、このもこもこルピナス似合うと思うんだけど」
「えぇ~、確かに可愛いですけど...恥ずかしいです。」
「そうだ、クリスは気になるのある?」
「......」
クリスは数多並ぶ服を見渡す。正面から見ないとどんなデザインなのかが分からず、とりあえず適当に手に取ってみては元の場所に戻す。それを繰り返す中で、1つ気になるものを見つける。
それは、自身の瞳と同じ、銃のサイトが描かれた半袖の黒い服だった。
「おぉ...かっこいいね。クリス背高いし似合いそう!」
「そうか、」
「そうだ、この店試着できるみたいだからしてみる?」
「あぁ...」
ライラはクリスを試着室まで案内すると、ライラはカーテンを閉め、待ってる間に近くの服を漁る。
「ライラ、これ...どうかな?」
「えぇかわいい!!どこで見つけて来たの!」
「さっきの場所から、ここに来るまでの所に。」
「私も欲しい!まだあった?」
「はい。ありましたよ」
「やったー!取って来るね!」
ライラはそう言うと、そそくさと駆けて行った。
「店の中で走らないでください!!......全く、」
ルピナスが振り返ると同時に、クリスがカーテンを開けルピナスの方を見た。
「わぁ...!似合ってますよ、クリスさん。」
「そうか......」
「この店、着て行く事も出来るみたいですけどどうします?」
「......そうだな。着て行くのはこう......なんと言うか―――」
「あはは...じゃあ、とりあえず会計済ませちゃいましょうか。」
クリスが元の服に着替えると、ライラと合流し、1同は会計を済ませ店を出た。
〈デパート4階、アミューズメントエリア〉
複数の学生が固まり話す音、筐体から発される電子音、軽い金属が当たる音。
「沢山の音...」
「そういえば、クリスさん人酔いとか大丈夫ですか?」
「あぁ、この位なら大丈夫だ。」
「こういう場所、気付いたら財布がすっからかんになっちゃうから、予算決めないとね。とりあえず、10回やって足りなかったら5回ずつ足していこう」
「それ、やめられなくなる人の典型じゃないですか。10回だけです!」
「あはは...だよね。クリスでも、ここは楽しめると思うよ!じゃあ、後でエレベーター前に集合ね!!」
そう言うとライラはまた、店の中に姿をくらました。
「だから建物の中で走らないでください!!...はぁ、行きましょうか。」
2人は主にクレーンゲームを周り、たまにライラが合流しては、アドバイスがてらあっさり2人の狙う物を取って手渡し何処かへ行ってしまう。しばらく遊んだ後、2人の前に大きな袋を肩に掛けたライラが現れた。
「ライラさん?」
「ごめんって。でも、これだけ取れたしちゃんと元は取ったよ?ダメ?」
「......」
「分かったから。睨むのやめて」
3人はエレベーターに乗り、1階へと向かった。
〈デパート1階、フードコート〉
「好きなの言って。奢るから」
たくさん並ぶテーブルを囲うように、様々なフードチェーン店が店を構える。
「そうだクリス、折角だから全員で違うの頼んで、シェアしよう!そしたら色々知れるし、好きなものもあるかも!」
「じゃあ、私はこれで!」
3人は頼んだ品を盆に乗せると、紙皿を貰い、互いの食べ物を分け合った。
あっさり腹は満たされ、皆充実したひと時を過ごした。
〈黄昏時、理性の街、デパート前〉
「んー!楽しかった!またいつか来よっか」
すっかり日が暮れようとしており、周りの客達も、買い物袋を持ち帰路に着く人が多かった。
「......」
「どうしました?クリスさん。」
クリスは1つの方角を見つめる。ほんの1舜だが、世界に再び彩りが与えられたような...?
「...パールと、目が合った......?」
「もしかして、色が見えたんですか!?」
「マジ!?それって離れてても見えるんだ」
「多分......」
クリスはパールの事を考える。もし私が、こんな世界でなく、皆と同じ世界に生まれていたら、
(......そんな世界に生まれたとして、パールが見せてくれたあの世界を、綺麗だと思えるのだろうか?)
「...パール、ちょっと可哀そ―――」
ライラが言い切る前に、ルピナスがその口を手で押さえる。
「クリスさん、」
「......?」
「もし、パールさんの事を想っているのでしたら、パールさんが帰ってこれる場所を作ってあげられるのは、貴方だと思います。」
「帰ってこれる......?」
「人と言うのは、個の力だけでは、どうしても限界があります。もし、その限界を迎えそうになった時、そばに居てあげられるのは、生まれた時から一緒に居た、貴方だと―――って、ごめんなさい。余計なお世話...でしたね」
クリスは生まれた時の事を思い出す。パールの水槽越しに手を合わせ、通じ合っていたあの頃。
そして、パールに刃を立てようとした暴徒へ、向かった、私の力。
「......いいや、ありがとう。」
クリスの表情が、少し和らぐ。
「良かったら、サプライズでも考えてみます?」
「私もやりたーい!!」
「いいですけど、ちゃんと秘密にしといてくださいね?」
「分かってるって!」
3人は夕日を背に、帰路に着いた。
To be continued.




