#7『風来の魔術師』
〈理性の街、柘榴川付近、恐竜博物館〉
「皆さん!落ち着いて!2階の方はこちらから避難を!!」
「写真を撮るな!!死にてぇのか!!その携帯のレンズごとこの銃でぶち抜かれたくなかったらさっさと逃げろ!!」
「こらカルサイト!皆を怖がらせてどうするの!!」
「この期に及んで命を顧みないバカがあのバケモンに食われるのと、俺に殴られてそのまま外にぶっ飛ばされるのとだったら俺のがまだ優しい自信あるぞ!だよなマーカサイト!!」
「あまり怒鳴らないでください!!」
「俺は別にキレてる訳じゃ―――って!!?」
2人が揉める中、観客の避難が終わると同時に、翼竜の骨格が襲い掛かって来る。2人は左右に回り、なんとか躱す。
「クソッ、大体なんであんなやつに対して手加減しなきゃなんねぇんだ!こっちの手にかかりゃあんな奴一瞬で木端微塵に......」
「だめ!!館長さんが言ってたでしょ!なるべく損害を出すなって」
「あーもう!!どうしたら!!」
翼竜の骨格は案外頑丈で、建物の壁や柱に体を打ち付けヒビを入れようとその体には傷1つ付かない。また、その暴れまわる際に発生する音は、博物館から川を跨いで近くまで来ていたパールの耳にまで入って来ていた。
「随分派手にやってるねぇ。こんな音、私の結晶以外から聞いた事無いよ...」
パールはエリナから支給されたスクーターに乗って、猛スピードで現場へ向かう。パールは案外あっさり乗りこなし、既にスクーターは一心同体の相棒も同然になっていた。
「風が気持ちいい......!これを使えばどこまでも行けてしまいそう!」
〈数分前、ペグマタイトタワー、地下1階駐車場〉
エリナはパールを地下駐車場へ連れて来ると、埃を被ったブルーシートを思いっきりめくった。
「ゲホッゴホッ...それは?」
「君、バイクの運転はした事あるかい?」
「いや......やったことは......と言うか、資格か何か必要ないんですか?」
「心配無い。この街では私が法なんだから、私が良いと言えば良くなるんだ。まぁ、君が事故を起こさなければの話だがね。」
「......へ?」
パールは橋を渡り、現場の外に避難した観客達を目にする。
「着いた...!」
特に道中事故を起こす事も無く現場に到着し、パールは現場の外に避難した人に聴き込みを行う。
「博物館の中央にある翼竜を見たが、今にも動き出しそうな迫力だったよ!あれを見る為に街の各地からわざわざ足を運ぶマニアなんかもいるらしいね!いやー、まさか本当に動き出すなんて。こんな事なら避難する前に動画を撮っておくべきだったよ」
「ってかアタシの彼ピぃ、デートにここ選ぶとかマジでセンスあり過ぎじゃね?もーマジ一生アイスって言うかぁ、そうだピっピ?アイス食べたーい!あそこの自販機でおごってー?」
「あの、すみません.....」
パールが事の経緯を非難した人々から聞き出す中、1人の少年が話しかけて来た。
「ん?どうしたの?」
「息子が......息子がどこにも居ないんです......」
「なんだって!?」
パールは正面の入口へ駆け出す。しかし、中に入ろうとした所で警備員に止められた。
「どいてください!私も関係者です!!」
「悪いがお嬢ちゃん、そういう訳にはいかない。それに、貴方が関係者と言う証拠は何処にあるんです?」
「っ......」
パールはむっとしたが冷静になり、人込みに戻るふりをして、建物の外側から裏口に回る。
「駄目か......仕方ない。」
今尚中からは轟音が響く。もはや館長の、損害を出したくないという願いは叶いそうにない。
「全くうるさいなぁ、今ちょっと焦ってるんだから黙ってて―――ん?騒音?そうか!」
パールは手のひらから、自身の周りを囲う様に結晶を置く。その後自分の手の平の中にもう1つ出し、中から響く轟音と共に、その結晶をその場に打ち付けた。結晶は一斉に破裂し、その爆風でパールは建物の上まで飛び上がった。
〈恐竜博物館、中央エリア〉
「どこに落としちゃったのかなあ......」
少年は騒音響き渡る博物館の中で、それに怯えたりする事も無く、ただ何かを探していた。
「おい!エリナさんが言ってた新入りはいつ来るんだ!!」
「わかりません......!ですが、初仕事がこの現場は酷過ぎやしないですか?」
「数いりゃ注意が分散する!!ちょっとはマシになるだろ!!」
「それ囮って事でしょ!新人イビリもいいとこよ!」
「イビリってなんだ!!勘違いするな!!囮だったら俺達だって―――」
「あぁ!!あった!!!!」
「あぁん!?」
ギスギスする3人の後方、中央エリアの入口から、少年は歓喜の声を上げる。
「おいバk—――」
少年を怒鳴ろうとしたカルサイトは、仕事仲間の女性から睨まれる。
「あー、その、僕ー?こんなところで何してうやが...じゃなくて、ここは危ないから早く逃げやが...くださいぃ?」
「はぁ......」
女性がため息をついたのも束の間、少年は翼竜の方に駆け出す。
「恐竜さん!!その石かえして!!」
少年が翼竜を呼ぶ声に、翼竜は無い声帯で少年に怒鳴り声を上げる。
「わぁ!!すごーい!!でも、その石返して?それはお兄さんに貰った―――」
「っ!?危ない!!」
少年が翼竜に手を伸ばしたその時、翼竜の頭骨が少年に襲い掛かる。女性は咄嗟に少年の元へ飛び出し、少年を庇った。
「ゾイサイト!!!!」
コツッ......
翼竜の牙がゾイサイトと呼ばれた女性に触れる瞬間、ガラスの割れる音と共に、小石の当たるような感覚が翼竜に伝わる。翼竜は小石が当たった方向を振り向くと、そこには黒い結晶があった。翼竜の注意がそれに逸れた瞬間に、ゾイサイトは少年を抱えてその場を離れる。ゾイサイトが振り返ったその瞬間、結晶は破裂し、翼竜の顎が外れた。
「なっ!?誰だ!!?」
「もしかして......!」
結晶の持ち主は、もう1つ結晶を落とすと、自身も飛び降り、結晶の爆風で着地の衝撃を和らげた。
「凄い...本当に翼竜だ!」
翼竜は爆風が起こった方を振り返ると、自身の骨を鳴らし、空から降って来た少女に襲い掛かる。
「うーん......思ったより中は壊れてないね。じゃあ、ちょっと加減しないとか。」
「ちょ...」
パールは結晶を翼竜の足元へと投擲する。結晶は弾けると、肋骨を数本その場に落とした。
「えぇ...もしかしてしっかり繋がってるのかな。じゃあ―――」
翼竜はパールを完全にマークし、パールに真っ直ぐ襲い掛かる。
「おい!!下手に刺激するな!!展示品は俺らだけじゃなくて、そいつが壊すことだってあるんだぞ!!」
「あぁそっか!」
パールは向かって来る翼竜に向かって、結晶を向ける。翼竜が最大限近付いたタイミングで結晶が弾けると、その衝撃は全て翼竜に降りかかり、翼竜は激しく仰け反った。
「ところで...その、僕...?」
「ん?どうしたの?お姉ちゃん」
ゾイサイトに抱えられたままの少年に、マーカサイトは問いかける。
「石ってなんですか?」
「あれ!」
少年は翼竜の足の根元に引っかかってる、紺色の石を指差す。
「あわわ......あんなところに......」
「そうか!!」
突然カルサイトが、何かに気付き大声を上げる。
「物理的な衝撃が駄目なら、間接的に浴びせれば良かったのか!」
「どういうこと?」
「あれ、あいつが使ってるの、爆弾じゃねぇ。言うなれば、破片が飛び散らないグレネードってところか?」
「なるほど!!破片が飛び散らないなら、それの爆風だけを浴びせられるから!骨格の損傷を最小限に留める事が出来るって事ですね!!」
「へッ、やるじゃねぇか。初仕事にこれはちときついんじゃないかって思ってたが、俺らも負けてらんねぇな。おいお前ら!!援護するぞ!!」
「急に仕切りだす...。まぁいっか、僕?あの石は私達が何とか回収してあげるから、外に逃げてなさい。」
「うん!約束だよ!!」
ゾイサイトが少年を下ろすと、少年は真っ直ぐ出口へと向かった。
「俺達も行くぞ!!」
「えぇ!」
「はい!」
3人は翼竜の死角に消えると、ある場所へ向かった。
「なんかいい感じに解決しそう!でも私1人でこれ相手?まぁ、それで倒しちゃったら大手柄でしょ!」
パールは翼竜の横側に回り込む。翼竜は尻尾で薙ぎ払おうとするが、パールはそれをあっさりと躱す。
「折角なら尻尾も吹き飛ばして......って、ここには翼竜以外にも展示品があるし、なるべく広間の中央で破裂させないと......となると―――」
パールは展示品の無い、中央エリアの入り口付近に立つ。翼竜はパールに向かって真っすぐ向かっていくと、パールに飛び掛かった。
「うわ!ちょ、それは無しだって!!—――」
パールは即座に結晶を複数落とすと、後ろに飛び、もう片方の手から出した結晶で自動ドアのガラスを割り衝突を回避した。
「ふぅ......生まれた時を思い出すよ。あれより薄いガラスだったけど。まぁ展示品よりは安く済む.....よね?」
パールは近くにあった掃除用のバケツ一杯に結晶を入れると、バケツの中身を思いっきり翼竜へぶち撒け、それらは一斉に弾け、まだ割れていないガラスもろとも翼竜を吹き飛ばす。幸い反対側にあった展示品には激突せず、翼竜はその前で踏み留まった。
「さてと、あの人達は何処に行ったの?」
パールは中央エリアに戻ると、結晶を指の関節で挟み構えた。
To be continued.




