#6『純粋無垢な輝きを』
〈翌日、ペグマタイトタワー〉
パールは暁と一緒に、バスでペグマタイトタワーに来ていた。
「俺が出る前に行ってた帰り方覚えてるか?」
「うん!大丈夫!」
「そうか。なんかあったら連絡するんだぞ。なる早で迎えに行くからな。」
「ありがと!じゃあ行ってくるね!」
「おうっ!」
暁はパールを送り出す。パールが建物に入り見えなくなったのを確認した後、暁は建物の天辺を一度眺め、そのままその場を去った。
〈ペグマタイトタワー、エントランス〉
「昨日来たばっかだけど、やっぱり広いねー......」
パールは高く吊るされた照明器具や、隅に配置された観葉植物にソファー、そして、最後に正面に見える受付に視線を移すと、そのまま真っ直ぐ受付の女性に話しかけに行った。
「こんにちは、パールです!」
「はい、パールさんですね。エリナ様から伺っております。あちらの席に座り、少々お待ちください。」
「はい!」
パールはウォーターサーバーの近くにある小洒落た椅子に掛ける。素直に姿勢を正して待っていると、少し大柄の男が、ウォーターサーバーにやって来た。パールにとっては見る者すべてが真新しく見えており、その全てが好奇心を奮い立たせる。男がカップにお湯を注ぎ終えると、それを眺めていたパールは口を開く。
「おじさん、この機械は?」
「おや、初めて見るかい?だったらほら、これに注いでみなさい。」
そう言うと男は紙コップをパールに差し出す。パールは男がやっていたことを見よう見まねでやってみると、空のカップは熱いお湯で満たされた。だが、パールは熱湯が入ったカップを手放したりはせず、その熱湯を軽く味見してみる。
「変な味だね」
「ハッハッハ、じゃあこれを入れてご覧」
男は次に、紙で出来た小さな袋を差し出す。パールがその袋の口を開け、熱湯に注ぐと、カップからレモンの甘酸っぱい香りが広がる。
「すごい!!」
「私はここに置いてあるレモンティーが大好きでね。そこのティーバック......と言うより、紅茶の素が色々ある中、レモンティーの素だけやたら多いのは、私のせいなんだ。この高い塔の片隅、この場所の経済を回しているのは、私と言っても過言じゃないかもしれないね。おっと失礼、冷めない内に召し上がれ―――」
男が長話をする横で、とっくにパールはそのレモンティーの味の虜になっていた。
「これすごくおいしい!!」
「それはよかった!私はよくここで嗜んでいるから、君もこの味が恋しくなったらいつでもおいで。」
「うん!!」
「待たせたね。パール君」
話がキリの良い所まで進んだ辺りで、エリナがエントランスに降りて来た。
「おや、新入りの友達作りの達人と呼ばれた私が、まさか先を越されてしまうとはね。」
「エリナさんじゃないですか!お疲れ様です!!いやー、やっぱり持つべきものは、ティーフレンドですよ。ハッハ。じゃあ、私はそろそろ行くとするよ。またね、えーっと......」
「私パール!よろしくね!」
「あぁ、またね、パール君!」
「まったね~!」
男とパールは互いに手を振ると、お互いの役割に戻った。
「さてと、新しい環境に来て慣れないところもあると思うが、皆今の人みたいに優しいから、安心してくれて構わないよ。さぁ、君の担当課を案内するよ。ついて来るといい。」
「はーい!」
そう言うと2人は、塔の地下へと向かった。
〈ペグマタイトタワー、地下1階〉
2人は壁に血管の様に細く長い照明器具が張り巡らされ、まるでこの階そのものが精密機械かの如く、色んな所からライトの点滅音や何かを動かす音が鳴り響く長い廊下を進む。
「ところで、君の持つ力について聞いてもいいかい?」
「えっとねぇ」
パールは立ち止まると、自身の手から結晶を1粒出し、それをエリナに見せる。
「これのこと?」
「あぁ。その石は、どんな事が出来るんだい。」
「ねぇねぇエリナさん、この建物って頑丈?」
「あぁ、まぁ銃弾を弾くくらいの硬度にはなっているが―――」
「そっか!よかった!」
パールはそう言うと、結晶を投擲した。結晶は地面にぶつかると、破裂音と共に2人を強い爆風が襲った。幸い火傷の一つもせずに済んだが、もう少し爆心地が近かったらどうなっていたか。
「おぉ......これは......」
「ごめんなさい!暁さんからは必要な時以外出すなと言われてたんですけど...」
「なぁに問題ない。私は見ての通り無傷だし、建物の床や壁も煤の跡が出来ただけだ。にしても強力な力だ。所で、君はこの力が怖くないのかい?」
「大丈夫!私この破裂効かないの!」
「それは凄いな!それに、今回の任務にも役立ちそうだ。」
「任務?」
「あぁ。早速だが今日から私の依頼をこなしてもらおうと思っている。君と一緒に任務に就く仲間を紹介したい所だが......生憎今はその任務の最中でな。現場に居るよ。今回はその援護を頼みたい。」
「なんか私、遅れてやってくるヒーローみたい!」
「ヒーローか。確かに、この街の人々を助ける内容が主だ。あながち間違いじゃないかもしれない。さて、そろそろ着くぞ。」
エリナは目の前に現れた自動ドアのロックを解除し、パールを中に招き入れた。
〈ペグマタイトタワー、地下1階、作戦室〉
「さて、早速任務の内容を説明しよう。」
エリナは街の地図が映し出されたモニターの埋め込まれているデスクを周り、反対側に立つと、モニターの黄色い印がある場所を指差した。
「ここには博物館があってね。ついさっき、ここに展示されているある骨格が、突如動き出したとの通報が入った。にわかには信じ難いが、仲間を向かわせたところ、本当に骨格が動き出し暴れているそうだ。撃破自体はそう難しくないが、館長がなるべく館内の物を、特に暴れてる骨格を傷付けるなとうるさくってね。少々手を焼いている最中だよ。」
「骨だけが独りでに動き出すなんて!魔法みたい!」
「ハハッ、なかなか面白い事件だよね。行けそうかい?」
「はい!......あ、そういえば。」
「どうかしたかい?」
「どうやって向かえば良いですかね......」
〈暁の館、1階、3番目の寝室〉
「......」
パールがペグマタイトタワーへ向かう一方で、クリスは寝室で考え事をしていた。
(大丈夫、研究所での私見たでしょ?この力があれば、楽勝だって!)
「...パール、本当に大丈夫かな......」
彼女だけが住む白黒の世界。そんな世界に、彼女は色を与えられる。その景色が、ずっと頭の中に残っている。
「それに―――」
「クーリスちゃん♪居る?」
クリスだけの静かな寝室に、台風の如くライラが訪れる。
「居た居た!暇してない?一緒に遊ぼうよ!」
「遊ぶって?」
「うーん、一緒に本読んだり、お絵描きしたり!ルピナスも居るよ!」
「まぁ、分かった。」
「よし!じゃあ一緒に来て!」
「あ、ちょっと、」
ライラはクリスの手を掴み、ルピナスの方へ戻って行った。
〈暁の館、客間〉
「ルピナス~!連れて来たよ~!」
ライラはクリスの手を引き、客間で待っていたルピナスの元へ着く。
「ライラさん...それと...」
ルピナスはクリスの方を見る。クリスは客間を見渡した後、ルピナスと目を合わせる。
「クリスさん、でしたよね。どうも。」
「あぁ――すまない、色の濃い薄いでしか見分けられなくて」
「その...もし何かお困りでしたら、私もお手伝いしますので」
「ありがとう」
「さてと、行こっか!」
ライラは客間に置いていたトートバッグを肩に掛けると、クリスの手を握る。
「行くって?」
「皆で出かけるの!クリスにも街の案内したげる!」
ルピナスも小さなショルダーバッグをぶら下げると、3人で外へと飛び出した。
To be continued.




