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[愛の形、孤独の形]Episode Crys&Pearl  作者: Emotional
3章『法ここに非ず』
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#56『眼中にないもの』

『...いや、どの道その傷ではもう助かるまい。仰向けで浴びるギロチンの刃程、愚弄に当たるものは無いのだろう?』


「—――クソがっ......!」


『であれば―――』


リリーは振り返ると、クリスの方へと歩み始める。


「っ!やめろ......ぐっ!!」


パールはなんとか這ってでも、リリーをクリスの方へ行かせまいと必死にリリーを追う。


『やめておけ。痛むのだろう?苦しいのだろう?』


「黙—―れ!!!がはっ......」


パールが地面を這うその手に、リリーは管を1本伸ばし、容赦なく刃を突き刺した。


『「あの世」の信仰。それがあるのなら、君達が「人類」と共に歩むと決めたのなら。そこで会えるのだろう。であれば、君達のその肉体に、価値などあるのだろうか?違うか?』


リリーは歩みを止めず、クリスへと向かう。クリスは片腕を真っ直ぐと伸ばしたまま、微動だにしない。


「クリ......ス―――」


『—――「事切れた」か。安心しろ。すぐに君も送ってやる。』


リリーは1度振り向き動かなくなったパールを確認した後、刃を振りかぶる。


『—――さらばだ、同胞。いや、「時代を造った、英雄達」よ。』


「—――――」


クリスは尚も微動だにしない。そして、リリーが刃を振り下ろしたその瞬間—―――


「—――フッ、」


『っ!?』


俯いていたクリスの瞳は輝きを放ち、目標をしっかりと捉える。だが、それは目の前の危機では無かった。それどころか、危機など最初から無かったかのように、クリスの顔には汗の1滴も無く、不敵な笑みがあった。


刹那の間、その瞳から放たれたのは閃光だった。それはリリーの胸部から腹部にかけて大きな風穴を開けると、その光はパールの眼へと、収束して行った。


『—――』


光が収まる頃、リリーはあっさりとその場に膝を着き、2人はようやく、この質素な空間の中、再開を遂げた。


「っ!!パール!!」


「—――へへ、ちょっと無茶しちゃった」


クリスは地に伏すパールとしっかりと目が合うや否や、リリーの事など一切気に留めず、パールを懐に抱き寄せた。


「お腹が―――」


「大丈夫、たまたま刃が当たった瞬間に体内ではじけた結晶のおかげで、内臓までは傷ついて無いから。まぁ、動けないんだけどね。」


「...それ、全然大丈夫じゃないんじゃん。――ごめんね、遅れちゃって」


「そっちは本当に大丈夫だよ。こうして大成功したんだから。」


『—―――何故だ』


リリーは膝を着いたまま、振り返る事無く、背後の二人に問う。


『何故、私は敗れた?完璧だったはずだ。何もかも、君達の全てにおいて、私は上回っていたはずだ。それなのに――――』


「—―へへっ、ばぁーか。」


クリスに抱えられたパールは、そのままリリーの方を見て嘲笑う。


「パール、後は私に任せて。」

「...うん。さすがに口動かすだけでキツい」


「—―私達は、最初からあなたの事なんて一度も見ちゃいない。」


『—――――?』


「そして、資料に欠けがあったって言ってたな。」


『—―図ったのか?』


「いいや?でも結果的にそれが幸いしたみたいだね。そのおかげで貴方にトドメが刺せたんだから。」


『――そうか。人が古来よりこうして何度も壁を越え、今に至るまで発展を繰り返して来たのは...「仲間」が居たから――――?』


「それと、私からも言わせてもらうから。ばぁーか!!」


『—――?』


「ふぅ。貴方、苦しみとか痛みがあーだこーだ言ってたよね。って事は感情が無いの?」


『—―あぁ。感情は、文明の進歩を阻む壁。これは確かな事実だからな。』


「じゃあ、負の連鎖がなんで起こるのか知ってる?」


『.....っ!!君達、まさか、「嘘」を―――!』


「英雄だって偉人だって嘘をつく。社会性があって、感情があって。だから人類はここに生きているの。だから、貴方の言う事は全て根本から破綻している。改めて何度だって言うから。貴方みたいな馬鹿に人類が滅ぼせるなんて思わない事よ。」


『—――フッ、そうか―――――――』


リリーの身体が、少しずつ溶解し始める。その足元には、木っ端微塵に砕かれた結晶があった。


『—―――最後に、こんな馬鹿な私からの質問に、答えてくれないか?』


「—―――何?」


『愛とは、なんだ―――?』


「......」


『—―加賀知カイヤの資料にあった。「愛する息子」と。愛するとは、なんだ。』


リリーの身体は既に原形を失いかけており、何かするにもそう時間は残されていなかった。

2人は彼の問いに困惑したが、お互いに見つめ合い、頷いた後、クリスは上着を脱ぎ、パールの枕にすると、リリーの方へ歩み寄り、その頭を撫でた。


『......』


リリーの口は閉ざされ、声を発する事も無かったが、その眼は何処か優しかった。

彼の身体はそのまま地面に倒れると、跡形も無くなり、そこには澄んだ水溜まりだけが残った。


「—――ねぇ、クリス。」


「...何?」


「—―もしもう1人の人造人間が生まれてたら、私その子に妬いてたかな」


「......」


クリスは水溜まりに反射する自身の影と目を合わせながら、少しの沈黙の後口を開く。


「...分かんない。」


クリスは再びパールに歩み寄ると、その頭を膝に乗せた。


「断言してくれないんだね。」


「—――はぁ......ん。」


クリスはパールの口を閉ざすように、自らの唇を合わせた。

パールは突然の出来事に戸惑いもがこうとしたが、クリスにその手を掴まれると、そのまま全身の力を抜いた。


「—――私達は今こうして前を見て生きてるの。傷口が開くから無理に喋らない。分かってるクセに何度も言わせないで。」


「......だって、クリスの為なら何でも平気で出来ちゃうんだもん。」


「タイミング考えて。死んだら元も子もないでしょ?」


そんな話をしていると、エレベーターの扉が開く音がした。誰かがこちらへ向かって来る。

クリスが咄嗟に銃を構え、扉に向ける。そこから出て来たのは、エリナの秘書だった。


「—――」


クリスは片腕でパールの頭を覆い、秘書を睨みつける。

秘書は一切物怖じせず、その場で立ち止まった。


「...私に敵意はございません。上の階でエリナ様がお待ちです。」


「—――」


「パール様のお怪我については、こちらを」


秘書はそう言うと、クリスに医療キットを投げた。クリスはそれをキャッチすると、再び銃を向ける。


「...上の階でお待ちしております。」


秘書は一礼すると、扉を閉めた。再びエレベーターの開閉音が鳴り、人の気配は消えた。


「—―――」


「......行くしか無いみたいだね。」


「—――うん。」


クリスは銃を畳むと、パールと少し見つめ合い、気まずい時間が流れた。


「—――やさしくしてね?」

「—――痛み無いでしょ」


  To be continued.

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