#57『ノアのガレオン船』
〈本能の街、スズメウリ教会跡前〉
「うぉぉぉぉぉぉらぁぁぁ!!!!」
大柄な男は近くの物置に向かい、思いっきり助走をつけると、鉄骨を4つ首の翼竜に向かって思いっきり投げつけた。
■〇※※◇▲〇※■◇〇▲!!!!???
放たれた鉄骨はその勢いのまま翼竜の胸部にある頭に直撃すると、そのまま翼竜は地面に墜落した。
「すげぇ......」
「やっぱプランツさんには敵わねぇな」
「言ってる場合か。仕留めた訳じゃねぇ。そこの嬢ちゃん!そいつらの相手は任す。」
「—―」
オーキッドは混乱する人造人間達を1人1人確実に葬りながら、プランツと呼ばれた男の方を見る。
プランツが起き上がろうとする翼竜に向かう姿を見て、オーキッドは振り返り、住人達の方を向く。
「皆様!!今のこいつらなら簡単に仕留められますわ!!ここが踏ん張りどころですのよ!!だから、頼みましたわ!!」
「「えぇ!?」」
オーキッドはそう言うと射撃を中断し、プランツの方に駆け寄った。
「......」
「今は、1人でも欠けるのは惜しいですわ。特に、貴方みたいな方を亡くすのは」
「...俺よりあいつらの方が重い。お前も、あいつらと同じ様に見ただけだ。」
「でしたら、わたくしは貴方の事を重く見させて貰いますわ。――ん?今わたくしの事重いって?」
プランツはオーキッドと背中合わせに構えながら、初めて笑みを零す。
「フッ、誤解だ。」
「えぇ。分かっていますわ!!」
――――!!◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×!!!!!!!
翼竜は体を起こし、路を完全に塞いでしまう程大きな翼を広げる。4つの内自由に動き回る3つ首が一斉に身体を反り、大きく口を開けた次の瞬間—――
「っ!!伏せて!!!!」
『◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×!!!!!!!!!!!!!』
「いっ―――――!!!!!!」
地面が割れ、近くにあった建物は崩落し、その風圧で皆吹き飛ばされてしまう。
轟音によって裂け、盛り上がった地面が運良く壁になり、プランツとオーキッドはその場をしのいだが、轟音が止んだ後も動けずに居た。
遥か後方に居た者達の内、声の届かなかった者は容赦なく、人造人間と共に吹き飛ばされ、建物の壁に強く身体を打ち付け、1人残らずその場に倒れてしまう。
そして、完全にそれらが止む頃、その場に残った皆が異変に気付いた。
「—――!?まさか、音が―――無い......!?」
「これは、まさか!?」
幸か不幸か、間一髪凌ぐ事の出来た者達の誰一人として、「音」のある世界にへばりつく事の出来た者達は居なかった。
「嘘でしょ.....!?鼓膜が破れたんですの!?このドレスには防音機能もあったんですのよ!?」
オーキッドが戸惑っていると、プランツはその肩を優しく叩いた。
プランツは何か言葉を発そうとしたが、お互いの状況を察し、避けた地面の隙間越しに翼竜の方を親指で指した。
オーキッドがその隙間から向こう側を覗くと、そこには俯き、一時的に動きが鈍くなっている翼竜が居た。
「...!!チャンスですわ!!」
オーキッドはプランツの方を向き、互いに頷くと、同時に盛り上がった地面を飛び越えた。
プランツは近くにあった大岩を掴み、そのまま担ぐと、翼竜の垂れた頭部に向けて投擲する。
岩は素直に翼竜の頭部に命中すると、砂埃となり地面に崩れ落ちる。
衝突と同時にオーキッドは頭部の内の1つに飛び掛かり、その脳天に拳を当てると、ありったけの弾丸を浴びせる。
「さっさと貫通しやがれですわ!!」
△▽〇※□×◎......!!
怯みが収まったのか、徐々に翼竜の首はのたうち回り始める。それに他の頭が気付いたのか、突如その動きはピタリと止まると、砂埃の中から、2つの首が姿を見せ、口を開く。
「うぉらぁ!!!」
その牙の1つがオーキッドに届く直前、再び岩石が翼竜の頭部を襲う。が、命中したのは1つのみで、オーキッドが岩石のぶつかる音でもう1つが迫っている事に気付くと、間一髪でオーキッドは翼竜の頭頂から飛び降りる事に成功する。
▽〇※□×◎■!!!!!
「あの構えは!」
「くっ、」
2人は翼竜に背を向けると、全速力で盛り上がった地面の方へと向かう。
『—――――――――』
『◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×!!!!!!!!!!!!!』
なんとか段差の後ろへと身を潜める事に成功し、再び街を轟音波が襲う。
再び訪れる静寂の中、オーキッドは立ち上がろうとしたが、翼竜の様子を見たプランツに肩を抑えられる。
「ここで待ってたらまたあいつがあれを撃って来ますわ!やるなら今しかないんですのよ!!?」
聞こえない事を分かっていながらも、オーキッドは必死にそれに抗おうとする。
プランツがオーキッドに再び地面の隙間を覗かせると、先程オーキッドがありったけの弾丸を浴びせ、凹ませたはずの頭部が、まるで最初からそんな事無かったかの様に再生していた。
「!?嘘でしょ......?」
「—―――」
2人は身を潜めたまま、再び首が垂れ無防備になった翼竜を睨む事しか出来ずに居た。
「このままじゃ......」
――――――
〈??????????〉
――――――
......
......
『起きて。』
(—―――?)
『起きて。』
(—――)
身体の感覚が無い。何にも触れられない、何も見えない。でも、聞こえる。
(――これは、夢?)
『...起きた?』
(......貴方は、誰?)
『—―――もう、誰でもない。私が誰か、貴方が誰かさえ、分からない。』
(......じゃあ、1つ聞いても良いですか?)
『うん。』
(――私の友達を、知りませんか?)
『—――――』
(...あっ、変な事聞きましたね。貴方は私の友達を知らないのに......)
『......貴方は、友達の所に行きたいの?』
(......はい。)
『どうして?貴方は、死んでなんかないのに。』
(—――だから、せめて最後に、目を覚ます前に、顔だけでも見たくって。)
『...貴方は、友達の事が大好きなんだね。いいよ、会わせてあげる。でも――――』
先程まで会話していた声が遠のいていく。それと同時に、朧げだった感覚が戻り、気付けば先程まであった「音」だけが、失われていた。
(......ここは?)
目覚めた場所は、知っているようで知らない場所。理性の街とよく似ている。
そして目の前には、1棟のビル。
(......ここって、もしかして)
目を覚ました彼女は周囲を見渡し、入れる場所がそこしか無いのに気付くと、そのビルへと足を踏み入れた。
〈?????、エントランス〉
(知ってる匂い......でも―――)
彼女はエントランスを見渡すと、真っ直ぐとエレベーターの方へと向かう。やはり、先程から人の気配が無い。
(えっと、結構高い立場の人でしたよね。じゃあ最上階—――本当に?うーん、とりあえず、入ってから考えましょう。)
彼女はエレベーターの△を押す。その時だった―――
(—――え?)
エレベーターの扉が開く。そこから、無かったはずの気配と共に、一人のぼやけた輪郭が降りて来た。
輪郭はこちらには見向きもせず、真っ直ぐと出口へ向かう。そして―――
(――さっきまで、1人も―――――)
彼女が輪郭を目で追った先、沢山の輪郭が、エントランスを満たしていた。
彼女にはそれが何なのか分からなかったが、直感でそれがどういう事なのか理解出来た。
(......時間は、限られてる。私が本当に目を覚ます前に、見つけないと。)
彼女はエレベーターが閉まる前に駆け込むと、最上階のボタンを押した。
〈???????、エレベーター内〉
(—――咄嗟に押したはいいけど......うん?)
マーカサイトは昇り続けるエレベーターの中、微かに胸騒ぎを覚える。
(......声?でも、私の耳は聞こえないはず―――)
(—――――)
(......!!)
確かに感じた。もうすぐそこだ。
(――待って、思ったより近い!?じゃあ!通り過ぎちゃ――待って、)
そう言っている間に、胸騒ぎの頂点が過ぎ、徐々に収まって行くのを感じた。
(今の――0階...?どうして?)
乗る前は、階層の数字など気にも留めていなかったが、確かに、今この瞬間から、数字は1,2,と数え始めた。
(――でも、確かに今過ぎた場所が一番近かった。エントランスとは違う―――引き返さないと。)
彼女はエレベーターの数字をもう一度押し、-9から9まである階層のうち、0を押した後、もう一度9を押した。だが、エレベーターは止まらない。そして、9を「押した」時、違和感に気付く。
(—――え?)
視線の先にある指先。それは徐々に、消え始めていた。
それも、それを眺めている間に、エレベーターの数字が1つ増えるだけの時間で、指先から手首まで。
(これじゃ、間に合わない―――くっ!!)
彼女はエレベーターのボタンの点灯が、未だに9階を示しているのに気付くと、やむを得ずと、エレベーターの扉に向かってぶつかる。だが、無論扉はびくともせず、向こう側へとすり抜ける事も無かった。
(......どうしよう。これじゃあ)
痛む頭を、無い手で撫でながら、その場で考え込む。その場で思いついたありとあらゆる手段を用いたが、すべて失敗に終わった。
(......どうして。私はただ、最後に一目.......)
そう嘆いている内に、最上階へと辿り着く。彼女の片足は既に根元まで消えており、扉が開くと共に、誤って最上階のフロアに向かって倒れてしまった。
(っ!!――待って、まだ諦めた訳じゃ―――――)
彼女は咄嗟に振り返り、命一杯まだ辛うじてある左手を伸ばす。だが、無慈悲にも扉は閉じ、下の階へと下がって行った。
(—―――っ!!)
あと少しで届いたかもしれない。最初から届く事なんて無かったのかもしれない。
(......なんで、階段使わなかったんだろう。—――なんで、もっと知ろうとしなかったんだろう。)
彼女はエレベーターの閉じた扉の前に座り直すと、扉に向かって頭を押し付けながら、左腕で思いっきり扉を叩いた。
(—――あの時、私が止められていれば、あの時、もっと早く、寄り添えていれば......)
彼女の頬に伝い始める、沢山の後悔。
(あぁ、やっぱり、駄目だなぁ、私—―――――)
いつしか、扉を叩く手は止み、彼女の肩は、震えていた。
To be continued.




