#55『秩序とは』
〈理性の街〉
「...確かにお前らの腕はさっき見させて貰ったが、流石にこいつら全員はキツいだろ?」
「はい。ですので―――その、囮になってもらえます?」
「—―まずは聞こうか?」
「えっと、まずは皆さんで、さっきあの大きいのが飛んで行った方に道を開けてください。その後は、私達がなんとかします。」
「正直、大分賭けだね。でも何もしないよりはマシでしょ?」
ルピナスが糸を束ねながら、本能の街の方を指差す。
「賭けかよ......でも、それしかねぇか。」
「—――大丈夫なのか?」
カルサイトとトリカは納得し、正面に向かって構えたが、珊瑚は今だ心の隅にもやが残っていた。
「父さん。」
ライラは振り返ると、珊瑚と目を合わせ、力強い目線を送る。
「もう、大丈夫だから。父さんは前だけ見てて!」
「っ―――。」
珊瑚はその瞳を見て安堵し、皆と同様に構える。
「ふぅ―――ライラ、だったか?同時に斬り込むぞ。」
「うん!」
カルサイトとライラは、トリカの両側に立ち構える。そして―――
「「「っ!!はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」
人造人間の波に真っ直ぐ突っ込んで行くと、そのままその陣に大きな風穴を開けた。
「皆さん!!行ってください!!!!」
ライラとルピナスは本能の街に向かう一同から外れ、ライラは群れを誘導する。
それと同時にルピナスは建物の屋上へと昇り、そのまま街の中へと消えて行った。
「ほーら!こっちだよ!!」
カルサイトは一瞬だけ振り返り、2人の無事を確認すると、かつての仲間と共に全速力で本能の街へと向かった。
〈本能の街〉
「もう!!どんだけ居やがりますの!!」
本能の街ではオーキッドが率先して人造人間を殲滅し、住人達は代わる代わる彼女のサポートをしながら、確実に敵数を減らして行っていた。
「オーキッドさん!後ろ!!」
「—――え?」
振り返ったのも束の間、そこにはどこから拾って来たのか、ガラス片を片手にオーキッドの首元まで迫る人造人間が居た。
「っ――!!」
「うおらァ”!!!」
「!?」
オーキッドが片腕の銃口を背後に回す間もなく、今度は何処からともなく飛んで来た鉄パイプが真っ直ぐと人造人間の胴体を貫き、そのまま鉄パイプは建物の壁に突き刺さった。
オーキッドが鉄パイプの飛んで来た方を見ると、そこには鉄骨を抱え豪快に振り回す、大柄な男が居た。
「!!感謝致しますわ!たくましいお方~!!」
「俺らは全員仲間だ!それに今は目の前だけ見ていろ!!」
「—―えぇ!」
◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×!!!!!!!
「あぁん!?」
その余りにも大きな轟音に、その場に居た皆動きを止める。
轟音の元は突敵の群れの後方から飛来すると、そのまま教会の方へと飛び去ろうとした。
「—――夢を見てるんじゃ、無いんですわよね...?」
「なんか知らんが、放っておいて良い事なんて1つも無いだろうな。」
その巨体に4つの頭。複数の翼竜が合体したようなその姿から、人造人間達も混乱し、どちらを注視するべきか判断が出来なくなっていた。
〈理性の街、ペグマタイトタワー、162階〉
......
真っ白な世界は、瞼を閉じた時よりも、モノクロの世界に居る時よりも、その者の神経を削いでゆく。
......
少なくとも、失われたのは視覚と聴覚のみ。
この身体に触れるもの、地面、空気、自らの手に握られた武器。
五感のいずれかが衰える、或いは失われる時、他の感覚が研ぎ澄まされると言う。
(動きは追える。パールの事も。だけど―――いや、思い出せクリス。今まで、どうやって困難を乗り越えて来たか。待つんだ。必ずチャンスは訪れる。—――そうだ、)
クリスは武器を一度畳むと、片腕の袖を捲り、その腕を前に伸ばした。
(—――よく伝わって来る。)
―――――
「はぁ......はぁ......」
パールはクリスを横目に、装甲が剥がれたのを好機と捉え、何度もリリーへと向かって行く。確実に先程よりもその髪越しに、リリーに数回打撃を入れる事に成功する。だが、それと同時に、パールの体力も、消耗していっていた。
『君達の努力、信念、それら全てを尊重しよう。人類が皆そうで無かったように。だからこそ、「失敗から学び」、それを必ず生かす事の出来る。私達は、人類の上位互換のなのだ。何故人類が衰退して行くのか。何故人は死を恐れるのか。私達ならば、それらの疑問に応えられる。もし私達を認めてくれるのであれば、君達にも私達の造る本当の楽園を"見せてあげられる"』
「人がちょっと手を緩めたからってごちゃごちゃと。私はこうしてここに立ってんだろうが。それにクリスも居る。知ってるか?そうやって余裕ぶっこいて負けると、人類の中じゃ一生の恥なんだぜ?」
『あぁ。どこかで誰かが言っていた。知恵の実を食べた二人の人間が、生まれたままの姿で居る事を恥じ、その場にあった葉で局部を隠した。人類の発展は、その恥と言う「感情」から始まったとも言う。』
『だが実際はどうだ?その感情によって、今人類は、どうなった?』
「あーもう、いちいち長話しやがって。とっととくたばれ!!」
パールがありったけの結晶と共に、リリーへ飛び掛かったその時だった。
『—―――そう、その負の感情によって―――』
「っ―――」
気付けば、リリーの左手はパールの腹部に伸び、パールはそこから延びる半透明のモノによって、貫かれていた。
そして、リリーの手首には、先刻破壊した管が巻き付いていた。
『滅びるんだ。』
リリーが腕を勢いよく引っ込めると、パールはその場で全身の力が抜け、床に落下し倒れた。
「ぐはっ!!!??」
『出血は初めてか?その頑丈な身体を活かすまでも無かったらしいな。』
「くっ――――」
パールはその場で悶える。これまでとは比べ物にならない痛みに。そして、それらを少しずつ、冷たい感触が埋め尽くしてゆく。
『痛いと言う感情。苦しいという感情。私達には無いものだ。人が発展するに当たって、これらの感情は、その都度阻んできたのだろう。だが、そんなものも存在しない。そして、今君にトドメを刺すこの刃の様に、私達に死など――――』
『訪れない。』
To be continued.




