#54『遺書と止揚』
「くそっ...!!」
クリスは何度も、リリーの声がした方へ発砲する。1発だけ命中したもののやはり手応えが無い。
(どうして私だけ?)
『クリス、だったか。あの研究資料にあった名前と特徴からして、君はパールだね?』
「気安く名前を呼ぶな!!!」
『君達は、加賀知カイヤの顔すら見た事が無い。そうだろう?その程度の関係なのに、何故そこまで怒れる?』
「そうだとしても、私達は紛れもない家族だ!家族の事を馬鹿にされて怒らない奴が居る訳無いだろうが!!」
『ほう?まぁ良い。話を戻そう。』
リリーはパールの攻撃を避けるのを止め、立ち止まるとそのままパールの攻撃を躱し、パールの胸部に掌を当てた。
「—―――は?」
次の瞬間、リリーの手の平から、見覚えのある結晶が姿を見せる。文様付きの神子石とは違う。まきびしの様にトゲトゲした結晶。
「なっ!?」
パールは咄嗟に脚を破裂させ逃れようとしたが、結晶の破裂をもろに食らい、後方に大きく吹き飛ばされた。
「ぐっ!!?」
(なんで!?それに、痛い!!?)
『驚いたか。これが加賀知カイヤの、いや、透輝エリナの最高傑作だ。』
パールは何とか受け身を取り、再び構える。
リリーは再び掌を出すと、そこからパールと同様に結晶を生成してみせた。
『研究資料にあった人造人間は、元々加賀知カイヤにとって暇潰しの一環でしか無かったようだ。君達も同じ。だが、1人だけ例外の個体が居た。「カガチルチル」と呼ばれる個体』
クリスが再び発砲する。リリーはパールの目の前でその弾丸を長い髪で堂々と受け止める。だが、髪が焼けるどころか、表面にガラスのヒビの様なものが小さく出来るだけだった。
『「ルチル」はカイヤの息子だった、「加賀知ルチル」のクローン。よもや、人造人間よりも先に、クローンを造ってしまうとは。そしてそこから数日。突如街に現れた翼竜によって、ルチルは瀕死になった。これ以上ルチルが傷付かぬようにと、2人目が造られた。だが、失敗だったようだ。』
リリーの後頭部から管状のものが伸びる。それはリリーの髪に出来たヒビにミストのようなものを吹きかけると、そのヒビはみるみるうちに修復されて行った。
「はぁ...?」
『2人目の資料は、どこにも見当たらなかった。そして、この管はルチルのものを再現したものだ。そして―――』
リリーは片目を手で覆う。そして、クリスと目を合わせる。
「テメェ!!」
パールは爆風の推進力で再びリリーに接近する。だが、リリーを間合いに捉えた時、パールは目の前の光景に動揺を隠せなかった。
『今見せたように、何度も言うが私は最高傑作なんだ。』
覆い被さる手が髪に隠れた時、リリーの瞳には確かに、クリスとパールの瞳に宿る、銃のサイトが現れた。
リリーはパールをもう一度視界の中心に捉えるとパールを爆風丸ごと強引に突き飛ばした。
「ぐっ!!!?」
『だが、やはりこの力はあまり傑作とは呼べないな。効率が悪い。クリスの資料だけぞんざいに扱われていたのか、欠けていたのも頷ける。』
「黙れ.....っ.....」
パールは受け身を取る間も無く、部屋の壁に思いっきり衝突した。
その衝撃で、全身の連鎖的な破裂も止まってしまった。
『クリス。君にはパールの声が聞こえないのだろう?』
「......」
『どうする?君の相方は黙って君が私に処される様をそこで傍観する事しか出来ない様だ。まぁ、見えていないがな。』
「私の相棒にそれ以上何か言ったら、お前の全身に風穴を開けてやる!!」
パールは怯んだ体を無理矢理起こし、結晶を生成しながら構える。
『—――何度立ち上がろうと無駄だ。君達は、この外殻にヒビ1つ入れるので精一杯なのだろう?』
「......っ!!」
パールは再び結晶を握ると、結晶の連鎖を再開した。
―――――
落ち着け、クリス。冷静になれ。音は頼りにならない。声のする方に発砲した。
命中した感触があっても、それでも声色一つ変えない。恐らく、私の弾丸を正面から受け止められる何かがあるんだろう。
だったらどうする?—――闇雲に撃ったって、パールに当たる危険性がある。
パールは今どうしてるんだろう?—―いや、考えるまでも無く、苦戦している。聞きたくないけど、アイツの喋ってる事で分かる。
――――本当に、何も出来ないんだろうか?
―――――
パールは全速力でリリーと間合いを詰める。リリーは刹那、クリスの力を使いパールに拳を突き出す。だが、パールはそれを見切って躱し、そのままリリーに回し蹴りを食らわせる。
リリーは腕でその蹴りを受け止めると、そのままその手で結晶を作り、パールの足に当てる。
パールは回し蹴りの回転の勢いでそれを受け流し、そのままリリーの髪に結晶の破裂を当て、リリーの背後を取る。
(—―――見えた。)
パールはリリーが振り返る間も無く、そのままリリーに真っ直ぐ向かい、後頭部に一撃入れた。
リリーは振り返る勢いでパールを薙ぎ払おうとしたが、パールは同じ方向に回ると、もう1度後頭部に思いっきり拳をぶつける。
『っ―――!』
パールはそのままリリーに投げ飛ばされたが、次の瞬間、リリーを護っていたミストの勢いが弱まったのを感じた。
『—――ほう?面白い。ただ私より早くこの世に生を授かった訳では無かったか。』
「はぁ......そりゃどうも!!」
パールは何度もリリーへと向かう。その横で、クリスは思考を巡らせていた。
〈理性の街〉
「くらえ!化け物!!」
「はぁぁぁ!!!」
珊瑚が翼竜の位置を共有し、ライラとルピナスが翼竜を翻弄し、その隙をトリカとカルサイトが突く。
5人は少しずつでも、確実に1頭ずつ翼竜を倒して行っていた。
「...にしても、お前ら何モンなんだよ。馬鹿力持ってる奴と、どっから出してんのか分かんねぇやたら頑丈な糸を手みたいに使いやがる」
「あはは、実はこっちが知りたくて―――」
◎■※〇▼×△□◆△▽〇※□×!!!!!!!
「っ!?なんだ!!?」
一同は雄叫びのした方を向く。ビルの上から、対峙してきた翼竜とは遥かに大きさの格が違う、4つの頭を持つ翼竜が、本能の街の方へと飛び去って行くのが見えた。
「—――なぁ、俺ら幻覚見てる訳じゃねぇんだよな?」
「......あいつが来た方向、タワーのある方だぞ。まさか―――」
「考えてる場合じゃねぇ。オーキッド達で勝てるとは思えねぇ!!急ぐぞ!!!!」
5人は本能の街へと向かおうとした。だがいつの間にか、無数の人造人間が道を塞いでいた。
「チッ、悪いがよぉ、そうやってまとまってくれてた方が―――」
「待て、カルサイト。アイツと対峙するなら、あんたの体力は温存したい。」
そう言うとトリカはカルサイトの前に出る。そして、髪に飾っていた結晶をばら撒くと、分身を全て実体化させた。
「トリカ、お前の方こそ温存するべきじゃねぇのか?」
「はぁ、まぁ、私ら全員体力を残しておくのが一番いいんだが、そうも言ってられねぇだろ?」
そう揉めている内に、いつの間にか後方からも人造人間が押し寄せて来た。
「—――あの、私達がやりましょうか?」
「んぁ?」
そう言って前に出たのは、ルピナスとライラだった。
To be continued.




