#52『巣立つ鳥』
長いようで短いようで、ここまで2人は、紆余曲折あろうと、行動を共にして来た。
家族でも、血は繋がってない。でも、今なら何となく、お互いに分かり合えている気がする。
「準備が出来たらって言ってたし。信じるつもりは無いけど。私達、本能の街に行ってからずっと休めてなかったでしょ?」
「...そうだね。カルサイトさんのおかげで"体力は"そこまで疲れてないけど。」
「心はどうだろう。って事。」
2人はエントランスから少し進んだ、エレベーター前の室内で椅子に腰掛ける。
「......確かに。でもカルサイト達、今頑張ってるから。私達ももう少し―――」
「......椅子、ちょっと隣に来て。」
「えっ?うん」
パールはパイプ椅子をクリスの隣に置き座る。すると、クリスに肩を掴まれ、そのまま膝に倒された。パールは咄嗟の事で理解できず、なすがままに仰向けになった。
クリスはそんなパールと目を合わせ、微笑む。
「ダマスケナ...だったっけ?あいつの言ってた事...なんか頭に残っててさ。思い返してみたら、悔しいけど......ちょっと思い当たる所があって......癪だけど。別にあいつの全てを肯定する訳じゃないよ?」
「......大丈夫。続けて?」
「誰かがやってるからとかさ、周りがどう思うかって。私達、この世界に生まれてからさ。ずっと誰かの言いなりになってたよね。」
「—―そうだね。少しは自由に出来る事もあったけど、ずっと一緒に居て......何してたっけ?」
「そこなの。普通の人って、ああ言う時何するのかな?本を読む?ご飯食べる?—―まぁ、何が言いたいかって言うと......」
クリスはそこで、言葉に詰まってしまった。クリスが眼を泳がせ、そのまま視線を外に置こうとすると、パールはクリスの頬に手を当てた。
「—―?」
「難しい事考え過ぎ。でしょ?お互いに。生きる事、目的を果たす事。色んな事に必死で、常に思考がそればっかりになっちゃって。もし、それがなかったら、私達、今頃どうしてたのかな。」
「...パールって、凄いよね。あの時喧嘩して、あっさり仲直りして。それからずっと、ビックリするくらい、考える事が一緒になってって。でも、私より体力あるし、身体も頑丈で、いっつも引っ張ってもらってる」
「そんな事無いってば。私が暴走しちゃったりとかしても、そんな私を止めてくれたり、今こうしてるみたいに、私が独りぼっちにならないように、一緒に居てくれるでしょ?」
「勿論。それでさ、考えたんだ。もっと、お互いを知りたい。自分の事も、パールの事も。そして、2人でこの世界の事、もっと知りたいって。」
「—――」
2人は、この世界に生まれ、今に至るまでを思い起こす。
博物館、デパート、商店街でシェアしたコロッケ。初めてお互い見つめ合ったあの時まで。
「.....ねぇ、クリス?」
「なに?」
「—―展望台で話した事、覚えてる?」
「......もちろん。」
〈数週間前、展望台エントランス。〉
疲労のせいか、任務の事をあっという間に忘れ、居心地の良いソファーに腰掛けた2人は、空を見上げる。月が窓から顔を出し、星はその光に遮られあまり見えなかった。
「—―あんまり星、見えないね。」
「...そうだね。」
頭の中にはいくつか話の種があったが、今は肩を並べて、ただ穏やかに、星空に想いを馳せていた。
「—――月の光で隠れてる星達、それを隠す月......。少し、似てる」
「......ん?」
「あっ、いや、なんでもない......」
「—―ちょっとだけ、分かる気がする。」
「え?」
「詩的な表現って、恥ずかしいからあんまりしたくないんだけど。それでも、なんとなく―――」
「そんな事無いよ。私は素敵だと思う。聞かせて?」
「えぇ?—―まぁ、もやもやしたままよりマシか。」
パールは月に向かって、指をさす。
「—―――クリスってさ、私と目が合ってる時だけ見えるんでしょ?」
「そうだね。普段は色盲なんだけど、なんでだろう?」
「—――月って、なんで光ってるのかな。太陽の光の反射とか、それ抜きで。」
「うーん......」
「私ね?こう思うんだ。地球の人達、と言うか、地球そのものが、この星空のどれか1つ。もしかしたら全部かも。それらに見惚れちゃって、そのままどっか行っちゃうかもしれない。そしたら、皆凍って死んじゃう。だから、そうならない様に、月が光ってくれてるんじゃないかなって。」
「......!」
「月も地球も、両想いで、ただ、ちょっともどかしい感じ。だから、いっぱい嫉妬しちゃって、月はこうして、星たちを隠してるんだって。」
〈ペグマタイトタワー〉
「......私、妬いてるの。クリスが、アイツに取られないかって」
「—――」
クリスは目を瞑り、「アイツ」の事を思い起こす。それと同時に、パールへの想いを浮かべる。
それはやがて決意となり、クリスの眼は、より意志を感じられるものとなった。
「じゃあ、私はパールに妬く。」
「え?」
「だって、私を他の人から守る為に、そいつら見てばっかで、私の事見てくれなくなっちゃうから」
「っ!」
パールは瞳を輝かせる。互いに、思いは1つの様だ。
「ぷっ、アハハハ!!なにそれ!そんな訳ないじゃん!!...っても、言い切れないか。そうだね。私もう、クリスの事しか見ないから!」
「ふふっ、私も、パールの事だけ見ててあげるから。ふぅ。なんかちょっと、ってか凄いすっきりした!行こっか。」
「うん。アイツの事、ボコボコにしてやるんだから!」
2人は椅子を元の位置に戻すと、エレベーターへと向かった。
〈理性の街〉
「ハァ...ったく、体力が無限だからって疲れねぇわけじゃねぇんだぞ...」
付近の人造人間を一掃したカルサイトとトリカは、屋上で束の間の休息を取っていた。
「まぁでも、嬉しいよ。かつての仲間と、こうしてまた肩を並べて戦えるのは。」
「へッ、お前は昔の歴戦の兵士か」
「一回言ってみたかったんだよ。」
「おい、あれって......」
「あん時のバケモンだよな?」
「嘘だろ!!?あれも撮影じゃなかったってのか!?」
「チッ、こっちは今休んで―――ん?今バケモンっつったか!?」
2人は咄嗟に屋上を飛び移り、悲鳴が上がり始めた方へと向かう。だが、そうしている内に、違う方角からも、同様の悲鳴が上がり始めた。
「どうなってやがる......?」
「おい!!2人共!!」
地上から珊瑚の声がした。2人は建物の窓枠やパイプを伝って地上へ降りる。
珊瑚の方へと向かうと、珊瑚は2人の少女を連れていた。
「ん?その2人は?」
「あぁ?珊瑚テメー!!」
「はぁ......なると思った。浮気なんかしてねぇし、こいつらは養子だ。親が居ないんでな。」
「あっ、珊瑚さんの言ってる事は本当です。私はルピナスって言います。」
「私ライラ!」
「ほぉ?まぁ似てねぇし信じてやらァ弁解は終わってからでも出来るからなぁ。で?」
「あぁそうだった。街中翼竜で溢れかえってやがる。既に怪我人も出てるし、俺は一旦この街で住んでた家からこいつら連れ出して、合流したって訳だ。」
「もしかして、人手が足りてないんですか?」
「だったら私達もやれるよ!!」
「......あぁ?」
To be continued.




