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[愛の形、孤独の形]Episode Crys&Pearl  作者: Emotional
3章『法ここに非ず』
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#51『メデューサの神殿』

〈理性の街南部、暁の館〉



「......皆、帰って来ないですね。」


「うん。」


窓の外を眺めながら、家族の帰りを待つ2人。ふと、正面の路地から見慣れない恰好の、同じ姿をした人が数人こちらへ向かって来るのが見えた。


「......誰――?」


「......隠れよう!」


2人は暁の部屋に跳び入ると、山積みになっている本の中に隠れた。

それと同時に、玄関の施錠が破壊され、何者かが中に侵入して来る音がした。

足音はためらいもなく無数に館に入って来ると、1人1人各部屋を手分けして捜索し始める。話し声はおろか、呼吸の音すらも無く、2人はただ恐怖に晒され続けていた。


そして、ついに暁の部屋のドアが開き、1人中に入って来た。そして、ついにその足音は2人の元へ近付き―――


「っ!!」


バシッ!と言う音と共に、山積みの本と共に、先程窓越しに見た人物がこちらへ倒れて来た。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ルピナスには指一本触れさせないから!!出てけ!!!!」


ライラは咄嗟に倒れて来た人物に怒涛の攻撃を浴びせる。その最中、真っ暗な部屋に窓から差し込む逆光で、もう1人の人影がある事に気付く。


「なっ!!くらえ!!!!」


ライラは咄嗟にその場にある本を手に取ると、次々とその影に投げつけながら、攻撃を繰り出す。

人影はその攻撃を必死に躱す。それと同時に、部屋はあっという間に散らかり、足の踏み場がどんどん無くなって行った。


「やべっ、」


「くらえ!!!!」


「っ!!ライラ!待って!!」


ルピナスがライラを止めるよりも早く、ライラは人影を思いっきり蹴り飛ばす。


「ぐっ!!!!」


人影はそのまま部屋の入口から、廊下まで突き飛ばされて行った。


「—――え?」


ようやく錯乱状態から戻ったライラが、ふと部屋の中から廊下を見ると、横たわっている暁が居た。


「お父さん!?ごめん!!気付かなくって!!!!」


2人が咄嗟に駆け寄ると、珊瑚は痛みに悶えながらもなんとか呼吸を整え、その場で起き上がる事は出来た。


「ハァ、気にすんな、謝んのはこっちの方だ。お前らを、置いてけぼりにしちまったんだからよ」


「今までどこに?それより、あの人達は何者ですか?」


「あー、ちょっと一呼吸置いてからでいいか?—―来てねぇな。よし」


珊瑚は館の周囲を警戒した後、客間に腰掛け、自身が名を偽っていた事、来歴、仲間の事を話した。


「お父さん、そんなすごい人だったの!?」


「そんな褒められたもんじゃねぇよ。んで、正体を明かした上でこのザマだ。そりゃあここも狙われると思ってな。だから帰って来たって訳だ。」


「あかつ――珊瑚、さん?」


「好きに呼んで良い。そんで、クリスとパールが、今頃あの高い塔に向かってる。もうすぐ片付くから、安心しろ。」


「—―そう、ですか。」


ルピナスは肩の力を少しだけ抜いた。それでも、心の隅に残る不安を拭いきれはしなかった。


「—―ちゃんと、帰ってきますよね?」


「...あぁ。」



〈理性の街、ペグマタイトタワー〉



「—―?やけに静かだね」


タワーに到着した2人は、路地の影から正面の入口を見渡す。

頂上の明かり以外疎らで、エントランスに限っては外からの光のみで中の様子がよく見えなかった。


「......そういえば、トリカさん達は?」


「街の方で、追っ手をなんとかしてくれてるみたい。なんか、よく大事な事任されちゃうね。」


「うーん...とりあえず、行ってみる?」


「そうだね。ここで待ってても仕方ないし」


2人は路地から出ると、正面から堂々とタワーに足を踏み入れる。すると、入って早々、見覚えのある後ろ姿があった。


「あれ?もしかし―――」


パールが言葉を発すると同時に異変に気付く。

目の前の男から発せられる不快な咀嚼音、床に飛散する紙の切れ端や液体。建物に入った瞬間から耳に入ったこれらの音が、この場所が私達の知る場所でない事を知らせる。


「—―何、してるの......?」


「ンん?」


男はようやくパールの声に気付いたのか、こちらへ振り返る。


「おやァ?モしかシテ、あの時の女の子かなァ?」


「......!?」


パールはそれを見るや否や、1歩後退った後完全に硬直してしまった。

半分溶けた頭部、そこから露出する核の様な文様。開きっぱなしの口と、先程まで咀嚼していたであろう口内の物体。


「久しブりだねェ!!少し見なイ間にすッカり頼レる顔付きになっテ、私は嬉しイヨ!」


「......」


パールは尚も動けず、それから目を逸らそうとする事すら出来なかった。


「ソうだ!!コこノ茶バ、アタらシいのが入っタンだ!!すごクおいしイカらキみもどうかナ?」


男は中指と小指が溶けた手で、ティーバックを雑に握ると、そのままパールの方へ真っ直ぐ歩み始めた。


「ホウら!コれ、普ツウに入れテモオいしインだけどね?そノまま食ベルともっトオいしインダよ!!」


「サぁ、召シ上が―――」


男がパールに接近しようと、窓からの光が差す方に脚を踏み入る時、パールの後方から鳴った銃声が、男の核を打ち抜いた。それだけでは留まらず、男の肉体がパールの方に倒れぬ様、クリスは胴体に向けて素早く数発撃ち込んだ。


「っ......!!うっ!!!」


男が倒れたのを見てようやく正気に戻ったのか、パールは激しい吐気に襲われ、その場に膝を着いた。


「—―ゲホッ、おえぇ.......」


クリスはパールに歩み寄ると、パールが落ち着くまで背中をさすった。


「......」


「—―落ち着いた?」


「......うん......ねぇ、クリス」


「知り合い、だったんだよね?ごめん」


「—―そうじゃない。」


パールは口元を拭うと、クリスの身体に寄り掛かった。


「......クリスは、クリスのままで、ずっと一緒に居てくれる?」


「—―勿論。」


「—―じゃあ、いい。早く行こ。」


パールは眉間を抑えた後立ち上がり、エレベーターの方へと向かった。



〈ペグマタイトタワー1階、エレベーター〉



「...ねぇ、クリス。」


「ん?」


「エレベーターって、もし行った先で誰かが待ち伏せしてたらって考えたら、危なくない?」


「—―そうだね。使い慣れてたから、あんまり考えられなかったけど、敵...なんだよね。」


「...でも、この高さを階段で行くのはちょっと―――」


そう言っている間に、突如としてエントランスのモニターが点灯し、砂嵐が流れる。


「ヒッ......ちょっとやめてくれるかなぁ!」


2人は咄嗟にエントランスへ向かうと、モニターに薄暗い部屋の中に立つ人影が映し出される。


『—―君達は、人造人間だね?』


「......だったら何さ」


『悪いが、この世界にあのお方が生み出した人造人間以外はいらない。消えてもらうよ。』


「ハッ、そんな事言って、数でしか私達に立ち向かえないくせに。お前もビビってるからモニター越しにしか喋れないんだろ!!なぁクリス!」


パールはモニターに映る彼に向かって思いっきり野次を飛ばしながら、クリスの方を向く。またクリスが、一点を見つめ硬直していた。


「もう!!」


パールが再びクリスの頭を軽くはたくと、クリスは我に返り、モニターから目を逸らした。


『そうではない。』


「聞こえてたのかよ......」


『私、いや、私達は、他の人造人間とは違う。「特別」なんだよ。だから、「より人間らしいやり方」で行きたい。準備が出来たら、エレベーターから昇って来ると良い。安心して欲しい。待ち伏せしないと約束するよ。』


「初対面で殺意むき出しの奴の言葉を、信用出来るとでも?」


パールは言葉を投げかけたが、その言葉を最後に、モニターはすんとも言わなくなった。


「チッ。――ん?」


パールは再びクリスの方を見る。クリスはずっとこちらを見ていたが、話は聞いていたようだ。


「—―ここに来る前、固まってたのって、あいつのせい?」


「あ...うん。ごめん。」


「っそ。じゃあ、アイツを殺せばいい。クリスが謝る必要は無い。でしょ?」


「—――うん」


パールはそう言うと、エレベーターの方へと歩みを進めようとする。だが、パールの右手首が、クリスによって掴まれる。


「ん?」


「......ねぇ、パール。」


「何?もしかして、アイツの事考えてるんじゃ」


「違う。—――少し、話したい」


  To be continued.

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