#50『Final Destination.』
—――この街には、司法が存在しない。
多数存在する集団を警護する者は点在するが、街全体を取り締まるものは無い。
故に、私は沢山の過ちを、見過ごしてしまった。
それなのに、今日と言う日までこの街が存続して来たのは、曲がりなりにも、個々が取引や契約と言う縛りで互いを結び、団結して来たからである。
ではもし、それらすら失われて行ったら?
例えば、自らを縛る者が、ある日突然最初から無かったかのように消えて無くなったら?
......人の歴史は争いの歴史。
私はあの時、黒い波を見た。私を繋ぎ留めていた彼らは飲まれ、私だけが残った。
失う恐怖は、誰よりも知っているつもりだ。
なら、どうして失う事に、これほどまでに負の感情が芽生えてしまうのか。
―――自らを留める鎖、触れていると安心する。それが失われる事が、心に穴を開ける事となる。
なら、もし最初から、繋がりなど無かったとしたら―――?
孤独に生きる者達よ、なぜ彼らは、そこに立っていられる......?
〈宵時、理性の街〉
「—――なぁ、俺ら、悪い夢見てる訳じゃねぇんだよな?」
カルサイトは街に戻って1番に、最悪の光景を目にする。
街行く人々は今まで通り、自分の生活を送っている。だが、その至る所に、人造人間の姿があった。
「なんで誰も疑問に思ってないんだ?同じ顔、同じ格好の奴がこんなにいたら普通気味悪がるだろ?」
「うーん...ねぇ、もしこれがエリナさんの仕掛けた事なら、彼らは迂闊に私達に手出しできないんじゃない?」
そう言ってる間に、人込みの中の何人かがこちらに気付いたのか、真っ直ぐとこちらへ向かって来る。
「......なぁ、街全体がこんなんばっかだと仮定して、どうやってあの塔まで行くんだ?」
「......へッ、そりゃあ、「本能の街」のやり方でだよ」
「—―はい?」
「っ!!」
トリカは真っ先に駆け出すと、パルクールで建物の屋根まで駆け上がり、残された4人に手招きした。
「なるほど!!」
続いてパールとクリスも、反対側の屋根に上る。
「なるほどって......まぁ、1対多数にはもう慣れたしな。やるか。」
カルサイトは身を低くすると、心の鼓動一つ鳴る間に、人込みの中に消えて行った。
「ったく、あんたらだけそんな荒業使えて羨ましいぜ。俺がヘイト買ってやるから、さっさと行きな!!」
人造人間達は残った珊瑚へと向かう。珊瑚は赤子の手をひねるが如く、容易くその場に居た人造人間達を自らの下へ集めると、いつの間にか人込みの向こう側へと抜け出して行った。
〈理性の街、ビル群〉
すっかり空には星が満ち――るかと思いきや、地上の明るさで月の光すら霞みそうな程、街並みが照らされた。そのおかげもあり、屋上は闇に覆われ、人の眼に着く事は無かった。
「本能の街からすら、星空が少し寂しく感じる位だ。久々に見たが目がチカチカしやがる」
トリカが屋上を飛び移り、真っ直ぐとタワーへ向かっていると突如、弾丸がトリカの背後を掠めた。
「っぶね!?そうだよな、そりゃあ持っててもおかしくねぇか。」
屋上を渡るトリカに、矢継ぎ早に鉛弾が飛んで来る。地上からだけでなく、何人かが先回りし、屋上から弾を飛ばして来た。
「ってか、狙い正確過ぎるだろ!本当に生き物なのか?ホムンクルスじゃなくてアンドロイドだろ!!」
トリカは分身を駆使して道を阻む人造人間を狙う。サイレンサーも無しに街中で何度も発砲してるおかげで、すっかり地上では民衆達がパニックを起こしていた。
「あれ、なんかの撮影?」
「いや、あれ本物だ!!なんで持ってんだアイツ!?」
「かっけぇ!!写真撮ろ!!」
―――訳が無かった。
「チッ、馬鹿どもが」
トリカは分身の内数体を路地に落とすと、地上に居る銃持ちを先に片付け、そのまま屋上に居る数人を囲い込み一掃した。
「ったく。なんで誰も逃げようとしねぇんだ?—――まぁ、住民の平和ボケは安全な街の証拠か。カルサイト達が頑張ってくれてたって事だな。」
トリカが倒した人造人間達を確認すると、次々と遺体が溶けて水溜まりになって行くのが見えた。
だが、安堵していたのも束の間、再び屋上に複数の人造人間が出て来た。
「ハァ、だよな。しゃーねぇ、ちょっと足止めしてやるか」
〈理性の街、商店街〉
「ねぇ、後ろから凄い足音するんだけど、気のせいじゃないよね!?」
「本能の街にあれだけ待ち構えてたからね。にしたって多いけ――――?」
クリスとパールは地上と屋上から同時に塔へと向かう。その道中、タワーを見つめた時、たった刹那見えた光景を、クリスは見逃さなかった。クリスが動揺し速度を落としたのに気付き、パールも速度を落とす。
「どうしたの?」
「—――」
クリスは塔のエントランスがあるであろう位置から、ゆっくりと視線を上に持って行く。最上階手前まで来たその時、ぱっとクリスの視界から、森羅万象の全てが真っ白となり消えた。
「っ――!?」
「クリス...?クリス!!」
前にも似たような出来事があった。だが、それだけじゃない。今。クリスの眼に映る世界。ずっと傍に居てくれる彼女すら存在しない。そんな世界に、クリスの頭の中は望まない世界への恐怖と絶望で埋め尽くされて行く。
「......クリス!!!!」
「っ!!?」
パールはクリスの頬に、思いっきり平手をぶつける。
クリスはしばらく思考を止めたが、目の前で必死に目を合わせてくれるパールに気付き、何とか我に返る。
次第に後方からの足音と、民衆の怒りの声が増えて行く。
「—――何見たのか知らないけど、私が居るんだから。貴方は私だけ見てて。分かった?」
「......うん。」
「...はぁ、今は話してらんないから、とりあえず後ろの奴ら撒くよ!」
「—―そうだね。」
2人は再び、高塔へと向かって駆け出した。
「おい!!どこ見て走ってんだ!!ってか危ねぇだろ!走るな!」
「ちょ、飲み物こぼしたんですけど!!最悪!」
「っ!!何今の!!ひったくり!?」
一度思考をリセットしたからか、先程より周りの声が鮮明に聞こえてくる。
「—――これ、人気のない所に誘き出すとかした方が良いかな?」
「うーん、でもそんなところこの街にあるかな――そうだ、パール、車道に出よう」
「はい!?」
「いいから、合わせて」
パールは戸惑いながらも、言われるがまま、正面にある広い車道へと跳び出す。
パールは結晶で大きく跳躍し、空中で屋上から飛び降りたクリスを抱えると、そのまま反対側の歩道に着地した。
「随分お洒落なこと考えたね」
「へへ、1回やってみたかったんだ。さっ、行こう!!」
人造人間達は2人に距離を放されたが、何を血迷ったのか車道に出る。赤信号と言う訳でもなく、右方向からやって来た車に次々と跳ねられ、交通は停滞した。幸い人の被害はあまり無く、結果として人造人間を足止めする事に成功した。
「ねぇ、なんか後ろの方さっきとは違ったうるささじゃない?」
「—―まぁ、ね。とりあえず、しばらくは追って来れないだろうからその隙に行こう!」
2人は人込みに紛れながら、タワーへと向かった。
その後も彼らは、目の前に立ちはだかる人造人間達を次々と薙ぎ倒し、確実にペグマタイトタワーへと距離を詰めていく。
そしてその後ろ、至る所で彼らの喧騒の巻き添えを食らう人々が後を絶たなかった。
「嘘だろ...?俺、人轢いちまったのか!?」
「死体が溶けてる!?気を付けろ!!酸とか毒とかが撒かれてる可能性があるぞ!!」
「え...?これもしかして、撮影じゃないのか?」
「マジ...嘘でしょ......?」
ようやく事の重大さに気付いた人々と、野次馬の一部が避難を始めた。
「ったく、デパートの時もそうだが、なんでこうも人って学ばねぇんだろうな。だから俺達が居るんだけどよ。――ただ、今はどっちかっつーと、脅かしてるのは俺らの方か?んにゃ、だからこそ、この街の奴らを、1回目覚めさせてやる必要があるかもな」
(屋内に居られますお客様は、速やかに屋外へ避難すると共に――――)
「こんな時、マーカサイトが居てくれたらってな。っせぇ!!頼ってばっかじゃいけねぇんだ。自分で何とかし――――」
「カルサイト!!ちょっと手伝え!!!」
「—―はぁ?」
カルサイトが声のした建物の屋上を見上げると、トリカの分身が屋上から人造人間を1人落として来た。
落下地点には子供がおり、カルサイトは咄嗟に跳び出すと、子供に当たる前に人造人間をバラバラにした。
「っぶねぇな!!おい!!気を付けろ!!!」
「あんたの周り、路地裏にも人造人間がうじゃうじゃ居やがる。地上任せても良いか?」
「藪から棒に―――ったく、人と人造人間いちいち見分けて切り刻むの苦手なんだがぁ!?」
「あんたを信頼してるからだ!頼んだぞ」
「っ......ハァ。今回だけだかんな!!!!」
To be continued.




