#49『イレギュラー』
〈スズメウリ教会、最奥〉
この街だけじゃない。この島の、息とし生ける全ての人間。お前らの言う身勝手な復讐も兼ねた、皆の箱舟みたいなもんだ。
島は大災害を境に、4つに分かたれた。だが、むしろそれが好都合となった。
そして、流石の俺達だけじゃ無理がある。そこで、触媒を使う事にした。
それが、「神子」だ。
生憎、ここの区画の秩序の神子は逃しちまった。が、他の3つは成功だ。
一つは孤独に永遠の闇に彷徨い、
一つは終わらない雨の中、後悔に苛まれ、
もう一つは、幸い元から弱みを持っていたのでな。握らせてもらったよ。
「—―!?じゃあ、他の区画は今――」
『—―――他の三つ成功したんなら、どうにかしてあの邪魔な結界を破り、この街を葬ろうと思っていた。だが、失敗した。』
「え?」
何者かは知らん。何が起こったのかまるで分らねぇが、北の区画と、西。神子に纏わり付いた呪いが、払われてしまった。
そして今、まさに最後の一つが、払われようとしている。こればっかりは計算外だ。ってな訳で、俺の計画は結局、何も知らないお前らの無計画なカチコミで全部ぶち壊し。やるじゃねぇか。
『だが、あくまで「俺の」はだ。』
「...どういう意味だ。」
『最初に話したエリナは、俺と同じ野望を抱いていた。』
あのバカでかい塔の地下二階。あのカプセルを見た。研究資料を見た。
『そのまま噛み砕いて言ってやろうか?「お前らは、用済みだ」って事だ。』
「—―は?」
『へッ、最後に言っておくぜ?いずれ、思い知る事になるだろうさ。お前達は、ちっぽけなんだってな。』
そう言うとダマスケナの首は穴に向かってコロコロと転がって行き、そのまま底の見えない深淵へと落ちて行った。
「おい!!クリス!!パール!!居るか!!!!」
それと同時に、倉庫の入口からトリカの声がした。
「あ、トリカさん!」
「こっちは終わったみたいです。」
「それどころじゃねぇんだ。体力残ってるか?」
「え?まぁ残ってるかと言われたらちょっと怪しいんですけど―――」
「じゃあちょっと来い。悪いが何が何でも動いてもらう」
「—―?」
二人は焦燥に駆られた様子のトリカに連れられ、大聖堂へと戻った。
〈数分前、スズメウリ教会、大聖堂〉
「—―終わった、んだよな?」
「あぁ。」
珊瑚は二つの裁縫針をケースにしまうと、立ち上がる。2人の前には、白いワンピースを着た4人、黒いワンピースを着た5人の幼い少女が、文様付きの大きな神子石を囲う様に倒れていた。いずれも、呼吸はしていなかった。
「にしても、随分静かだな。あの翼竜達も片付いた頃か?」
「馬鹿言え。こっちはまだ耳鳴りがひっでぇよ」
「カルサイト!!珊瑚!!!!」
二人の元にも、トリカがやって来る。トリカはバテた様子で、聖堂の入口にもたれかかりながら呼吸を整える。
「どうした?」
「......珊瑚、」
「ん?」
「......間に合わなかった。」
「...!?」
珊瑚はトリカの言葉に目を見開いた後、帽子を被り直し、キャンディーを口に咥えた。
「......カルサイト。」
「だからなんだってんだよ?」
「...話すしか、ねぇみてぇだな。」
二人は、二人が如何にしてお尋ね者になったのか、なぜ黙っていたのかを全て話した。
「—―――じゃあ、お前らは、口封じの為に?」
「あぁ。色々噛み合っちまったもんで、お前にはどうしても話せなかった。悪い。」
「...」
カルサイトは黙ったまま、聖堂の入口に立つ。
「......ったく、そんな事の為に、俺があんな恥かいたのか?子はいつか、巣立つもんだ。俺は別に、エリナの歯車じゃねぇ。いつだって、誰かのために動く事はあっても、その芯にはいつも自分が居た。何が正しいかってのは、自分が決める事だ。そうだろ?」
「—―へッ、杞憂で済んで助かったよ。」
「カルサイト!!」
三人がエリア前に戻ろうとした時、クリスとパール、そしてもう一人の分身も合流した。
「二人の回復、頼めるか?」
「あぁ?この石は万能じゃねぇんだぞ?それに加減も――――ハァ、そんな目で見んなよ。ったく」
カルサイトは小言を吐きながら、懐からもう一つの神子石を取り出すと、二人に一舜当てた。
「...!すごい!ちょっと触るだけで疲れが吹っ飛んだ!」
「カルサイトさん。これを体内に?」
「俺だから耐えれてるってだけだ。あと、これやるの今回だけだからな?」
「とりあえず、役者は揃ったか?」
五人は聖堂を後にして、エリア前に向かう。
「既にオーキッドが殲滅を始めてる。無論言うまでも無く、あの群れた人造人間は敵だ。っては、ちょっと妙な事があんだよな。」
「妙って?」
「エリナの手先なら、お前らやオーキッドまで狙う必要はねぇはずなんだ。だけど、あの人造人間は真っ先にオーキッドを狙っていた。」
「......本人に、直接聞くしかなさそうだな。」
そう言っている内に、エリア前付近まで戻って来た。住人達は既に翼竜との戦闘で疲弊しきっており、人造人間達はオーキッド一人で食い止められていた。
「あ!!遅いですわ!!早く加勢してくださいまし!!」
「来たか。カルサイト!!その石もうちょっと使わせてくんねぇ?ヒーラー居ないんだわ。ここ」
「—――ハァ、」
カルサイトはため息をつきながら真っ先に駆け出すと、人造人間達を切り伏せながら、後方に下がっている住人達を起こして回った。
「—――そんで、どうする?さっきみたいに誰か送り出すか?」
「......いや、全員で行こう。」
「はぁ?」
「へッ、うちの仲間舐めんなよ?さっきは翼竜相手とか言う外れ値なだけだ。人にも満たない粒ぞろい風情が、曲がりなりにも前を見て生きてるあいつらに叶うと思ってんのか?」
「...まぁ、そうだな。」
トリカはそう言うと、建物の屋上に立つ。
「「お前ら!!反逆の時は来た!!!!お前らが味わった不条理を!!こいつらに味わわせてやれ!!!!」」
「—――!!」
「勘違いすんじゃねぇ女ァ!!!!俺らは今の生活に満足してんだ!!!!それを守る為だったら戦ってやる!!!!」
「そうだそうだ!!この街の事は任せて、お前は前だけ見やがれってんだ!!!!」
「っ!!?」
意外な反応が帰って来て、少し戸惑いを見せたが、トリカはいつだってついて来てくれた仲間達に、笑みを零した。
「へッ、ちゃんとトリカって呼べ。んじゃあ、行くぞ!」
トリカ達は本能の街を出ると、理性の街へと足を踏み出した。
―――――
結局、何も出来なかった。成せなかったな。
全く、身の丈に合わない事は、するもんじゃないな。
すまない、ニゲラ。また、独りにしてしまうな。
後は――――頼んだぞ――――――――
To be continued.




