#48『マリオネットの慟哭』
〈スズメウリ教会、エリア前〉
「......」
次々と片付けられて行く翼竜達。尚もその場で座り込み、脱力したように天を仰ぐトリカ。
そんなトリカに気付いたのか、オーキッドが駆け寄って来た。
「トリカさん?」
「—――」
反応が無い。気絶しているのだろうか。
「......もう!!」
オーキッドは手の平を掲げると、そのまま思いっきりトリカの頬に向かって振り下ろした。
パァン!と言う子気味の良い音が響くと共に、トリカは我に返る。
「—――オーキッド、だったか。」
「叩いてしまったのは後で詫びますわ。ですが、ここは少なくとも戦場ですのよ?この場において、自分の命より大切なものがございまして?」
「...そうだな。だが、どうしたもんか......」
「クリスさんとパールさんから軽く事情は聞きましたわ。もしや、彼らがそうなんですの?」
「あぁ。間違えもしない。私があの時、あの場所で見たそのものだ。クソが。」
「—――始末、しますの?」
「そこなんだよな......あぁもう!!難しい事考えんのは苦手なんだよ!!ったく、とりあえず、こいつらが私らを始末しに来たと言う前提で、今珊瑚らを手伝いに行けば、この数の人造人間に自ら囲まれる事になる。消耗しちまってる私らが、この数を仕留め切れるかどうかだ...」
「課題が多いですわね...ところで、クリスさんとパールさんも「そう」なんですわよね?」
「んぁ?」
「彼ら、見るからに普通の人ではありませんでしたわ。彼らは違いますの?」
「あぁ、そう言う事か。あの2人を造ったのはトリカじゃねぇ。私の娘だ。って、その話は長くなるから後な?んで?あの2人がどうした」
「でしたら、どうして目の前に居る彼らは、パールさん達みたいな力でなく、ああいった人海戦術を取っているんですの?」
「—―――ん?」
〈スズメウリ教会、大聖堂〉
聖堂の割れたガラスが跡形も無くなり、窓枠のみが残る程の咆哮を上げる。
鼓膜を破りかねない音圧と共に、全身の骨が砕けた翼竜が2人に襲い来る。
「クソが、このデカさじゃとても核を叩けねぇ...どうすりゃいいってんだ!」
少女は尚も不敵な笑みを浮かべる。口元が動いているようだが、何と言っているのかまるで聞き取れない。
「何とか隙を見て叩き込んではいるが、再生力と硬さが段違い過ぎる。頼む、早く終わってくれ――」
絶えず響く叫び声。仲間達が駆けつけてくれることを願い、隙を伺う。
カルサイトが翼竜の脚を切断しようとした途端、翼竜は一瞬にして身を翻し、カルサイトの視界を尻尾が覆った。
「チッ、」
カルサイトはそのまま弾き飛ばされ、聖堂の壁を突き抜けた。
「カルサイト!!!!くそっ、どうすりゃいいんだ」
「っ――――」
カルサイトは隣の建物の壁に全身を打ち付けられた。流石の再生力を以てしても、カルサイトの視界はぼやけ、全身が麻痺してしまった。
「—――?」
カルサイトはふと、目の前の景色が目まぐるしく変化して行くのを感じる。
「......へッ、久々に見たぜ、走馬灯。珊瑚が1人で戦ってるってのに、さっさと起き上がれっての。それとも何か?あの翼竜を倒す方法を見れるってのか?」
(その石の力にも限度がある。命が惜しいならさっさと出て来い。)
カジノの記憶。オーキッドを助けた。
「って、直近過ぎるだろ。もっと他に無いのか?」
(—――私と、来るといい。)
(君達は―――を――――――――か?)
「......昔過ぎだろ。って、何を俺にツッコんでるんだ俺は。そんな暇があったら身体を起こしやがれってんだ。」
(珊瑚とトリカがお尋ね者になった、とかな。何があったかは知らんが――)
(とりあえず、本能の街の連中は―――――)
(ゾイサイトが―――――――――――――――)
―――――――――――
(お前は間違ってない。だからもうこの話はこれっきりだ。いいな?)
「......」
走馬灯はやがて砂嵐の様になり、少し経つとその中から1つだけ、目の前に映し出される。
(その...あの時は、ちょっと言い過ぎたわ。私も悪かった。)
「......馬鹿が。結局一番背負い込んじまってんのはお前の方じゃねぇかよ。勝手に俺の荷物を重そうに背負って。」
(—―――貴方は、優し過ぎるのよ。冷静で居たいならもう少し、裁判官みたいなイメージで)
「......?いつの記憶だ?」
(でも、正直それに助けられてるわ。だから、お互い頑張りましょ?結構、いいチームになれるんじゃないかしら、私達。)
「—――今思えば、お前は俺の事何も知らないままだったな。優しさか......」
カルサイトの記憶。その中に、再びいくつかの景色が浮かぶ。
そして、ふと気づくと、視界が元の景色を映し、次第に耳をつんざく轟音が戻って来た。
「......ひっでぇ事思いついちまった。まぁ、これしかねぇよな。」
カルサイトはゆっくりと窓枠に近付くと、珊瑚が必死に翼竜の攻撃を躱しているのが見えた。
「さてと、やるか。」
カルサイトは珊瑚が翼竜を惹きつけている間に、翼竜の背後に回った。翼竜は少女と感覚を共有しているのか、翼竜の上に立つ少女の眼に、涙があった。
「—――っ!!!!」
カルサイトは翼竜の尻尾に触れぬ様、翼竜の腹部へと向かう。そして、翼竜が足を地面に着くと同時に、翼竜の脚に思いっきり掴みかかった。
『—――?』
少女は珊瑚を追いながら、ふとカルサイトを突き飛ばした方を向く。そして、既にカルサイトがそこから離れているのと、翼竜の足元に違和感があるのを感じた。
カルサイトは自身の胸部を軽く傷付けると、露出した体内の結晶を翼竜に当てた。
『!!!??』
途端、翼竜は少女と共に焦り始めたのか、珊瑚を追うのを止め、その場でのたうち回り始めた。
「...!!カルサイト?」
「......言ってしまえば、テメェらは生き地獄を味わってんだろ?だったら、すぐに楽にしてやるよ。」
カルサイトの神子石の力。それは、持ち主に絶大な再生力をもたらす。だが、それはカルサイト以外にはとても制御できぬ力であり、容易く過剰回復によって生物を殺めかねない力でもある。
暴れまわっていた翼竜は次第に動きが鈍くなると、そのまま倒れ、全身の至る所が膨れ上がりそのままはじけた。
『—――――』
カルサイトは翼竜だったモノを全身に浴びると、そのまま起き上がった。
「はぁ、ったく。面倒くせぇことしやがる。」
「カルサイト、大丈夫なのか?」
「へッ、俺の回復力はお前もよく知ってんだろ?」
『—――――』
少女は翼竜がただの水溜まりになった後、その場に座り込み動かなくなっていた。
「......」
珊瑚はそれに気づくと、懐から裁縫針を取り出す。
「何するんだ?」
「この針は記憶を抜き取れんだ。答え合わせしなくていいか?」
「—――趣味わりぃな。なんか嫌な事でもあったのか?」
「まぁな。」
珊瑚は針を少女の額に当てる。針は次第に白く輝き始めるが、次第にその輝きに、黒いもやが覆い被さる。
「—――?なんだ?」
「どうした?」
「いや、まさかな......」
珊瑚は懐からもう1つ針を取り出す。その針を少女の額に当てると、もやは少女へと戻り、もう1つの針を黒く染めた。
「こいつは......」
―――
都合良く鳴る、それでいてその扱いに抵抗を示さない。そんな風に育てられてしまった。
頼れる人なんて居ない。そう言った事柄に関して意思を持っても表現できない。
誰も私を、人として見る事なんて無い。
ようやく分かった。
ならどうして、この不条理に、公平と言うものは手を差し伸べてくれないのか。
それは私が声を上げない。上げられないから。
負の連鎖は、いつも私の中で完結する。
あぁ、私も、あの娘と同じ家に、生まれられたらな。
ねぇ、ルピナス。
To be continued.




