#47『負の連鎖』
「っ!?パール!?大丈夫なの!!?」
「今は目の前のに集中!!絶対に倒す!!!」
『—―へぇ?本気か?正気じゃねぇな。おもしれえ。』
―――さてと、じゃあ言うが、「それを選べねぇ」人間が居るとしたら?
それは負の連鎖ってやつだ。古来、人間は社会性のある動物、知性のある動物として発展してきた。自然の摂理から逸脱した存在。天文学的にもあり得ない存在。
そんな人間が、今こうしてセメントとガラスの箱が並ぶ街で暮らしているのは、自然の摂理、いわば食物連鎖から逸脱した、もう1つの摂理。公平なんて存在しねぇ。あって無いようなものだ。その実に、俺達が居る。俺たちスズメウリ教会と、本能の街だ。
この街は、理性の街で位が低い、普通の生活をする事さえ出来ない人間達が集まった街さ。
そんな奴らに夢を抱いたり、お前らみたいに前に進む力があると思うか?答えは決まっている。
じゃあ、そいつらに誰が手を差し伸べてやれる?俺達だ。
「結局、弱い立場の人間を利用して、私達を巻き込んで復讐しようってだけってこと?」
『負の連鎖は既に根源を失い独り歩きしている。それはお前達が始めたものだ。人間が種族としてじゃなく、個人として連鎖を始めたのなら、それは決して終わらない。お前達も、いずれ呑まれる事になるんだ。だったら、皆を救える俺の教えに、何の反論があると?』
「こいつ、とっくに言ってる事全部破綻しているのにまだ言うのか」
「さっさと片付けよう。」
『そんな力が貴様らにあると?本気を出してるようだが、この俺にまだ1ミリたりとも触れられてないじゃねぇか』
「やっぱ頭を貫くしか無いみたいだね」
「でも―――」
「......ねぇ、パール、」
「—――え?」
クリスは突如、武器を畳みだした。そして、関節を解し出すとその場で構えた。
「—――この賭け、いや、1つだけ、策があると言ったら?」
「......!!――やるしか、ないみたいだね。」
クリスは触手を抑えるパールへと駆け出す。パールはクリスが背後まで近づいたのを感じると、そのまま触手の中へと飛び込んで行った。
『馬鹿かお前らは?—――あ?』
ダマスケナはクリスへ触手を伸ばす。だが、クリスを貫くはずの触手は、クリスの拳によって容易く砕かれてしまった。
『なんだテメェ!?バケモンかよ!!?』
「隙あり!!!!」
ダマスケナが動揺している間に、パールは懐へと潜り込む。ダマスケナは寸での所でパールの拳を回避すると、そのままパールを近付けさせまいと、更なる触手を伸ばす。
「くっ!!」
「パール、なるべく急いでね。」
「うん、わかってる」
『ほぉ?さてはそこの脳筋狙撃手は長持ちしねぇな?だったら』
ダマスケナはパールから距離を置きながら、倉庫の天井の穴から逃亡を図った。
「はぁ!?」
近付こうにも、絶えず伸びる触手が2人を襲う。
『こうすりゃ俺の勝ちだな。』
「卑怯だぞ!!降りて来い!!!!」
『悪人に卑怯も何もあるかばぁーか!!!!』
「くっ、」
「パール、」
「ん?」
パールが襲い来る触手を退けながら、クリスの方を向く。クリスの握り拳に、弾丸が握られていた。
「賭けって言うのは―――」
「—――っ!!うん!!!!」
パールは強く地面を蹴ると、そのまま脚部から出た爆風で跳び上がる。
「こういう事!!!!!!」
クリスはそれを逃さず、パールの足裏に向かって、弾丸を弾いた。
『—――なっ!?』
パールは弾丸の推進力と共に、一瞬にしてダマスケナへ、そして、彼よりも高い位置まで飛び上がる。
『ハッ、だったら空中でハチの巣にしてやるよ!!!』
ダマスケナは全ての触手をパールへ向けて放つ。だがその瞬間、ダマスケナの胸部に風穴が空いた。
「誰が1発だけだって言った?」
「これで――――」
パールは身を翻し、ダマスケナに向かって拳を振り下ろす。
「トドメだ――――!!!!!!」
肘の関節が鳴ると共に、勢い良く突き出た拳は、ダマスケナの頭部に当たると共に爆ぜ、貫き、彼を地面に強く叩き落とした。
パールはそのまま自由落下で地面に降りると、着地と共に爆風を放ち、ふんわりと降り立った。
クリスを襲っていた触手も砕け散り、そこには頭部を貫かれた生首が残った。
「っ!!はぁ...!はぁ......」
クリスの身体にはどっと疲れが襲い、クリスはその場でしゃがみこんだ。
「はぁ...ありがとう、クリス。信じてくれて」
「それは...はぁ.....こっちの台詞。」
『—―――』
パールは背伸びする。ふと、クリスが打ち抜いた片足だけ、身体の爆風が止んだのを感じた。
「—――ねぇ、クリス、」
「......?」
「私の身体、もう1発撃ってくんない?これ止まんなくてさ。」
「えぇ....いいよ。ほら」
クリスはその場に座り込んだまま、パールの胴体に向かって弾丸を撃ち込んだ。パールは大きく仰け反ると、身体の爆風が完全に収まり、肌も元の色へと戻った。
「よかった、収まんなかったらどうしようかと思ったよ。」
『—――見事だ。』
「っ!!」
クリスは咄嗟に畳んだ銃を再び組み立て、口だけの生首に向かって構えた。
『そう警戒すんなって。もう俺は戦闘不能だ。それより折角だ、続きを話させろ。』
「まだ言うか」
『そうじゃねぇって。戦う前に話したろ?エリナの事を』
「......」
生首は口だけになって尚、嬉々として話を続ける。
『お前ら、この街から出た事あるか?
理性の街からでも、本能の街からでもねぇ。「この区画」からだ。』
「......?」
〈スズメウリ教会、大聖堂〉
信徒は絶えず2人を襲う。珊瑚はカルサイトが少しでも少女に近付けるように援護しながら、自らもその隙を伺う。そして、カルサイトが再び心臓を叩く時、それは訪れる。
「今だ!!珊瑚!!!!」
『フッ―――人形はいくらでも居る。醜いのも、お気に入りのも。』
珊瑚が偶像の上に佇む少女に向かい、壁を蹴り跳び上がった次の瞬間、鈍い音と共に偶像の顔面が砕け、内側から得体のしれない巨大な手のようなものが珊瑚に迫った。
「なっ!?」
珊瑚は咄嗟に身を翻したが間に合わず、その身体を掴まれると、思いっきり壁に投げつけられた。
「うぐっ......」
「珊瑚!!!!」
「っ、気に、するな。念の為を思って中に防護服着てたんだ。致命にはなってねぇよ。だが......」
偶像はそのまま瓦礫となり、土埃が舞うと共に、中から巨大な影が姿を見せる。
そして、対峙していた信徒達は、一斉にそれに向かって歩み始め、影の中に吸収されて行った。
「—―――は?」
『ずっと同じこと繰り返しててもつまらない。キリが無い。もっと楽しい事する。折角だから、とびっきり面白くする。』
土埃が晴れると、巨大な影の輪郭がはっきりと見えてくる。
腹部を腕で貫き、それを連ねてひと纏まりに。そして、それらは黒く染まると、1頭の巨大な翼竜が姿を見せる。
「......あれは全部、テメェが生み出してたのか」
『私のペットたち。いっぱい死んだ。安らかに死んだ。許さない。安らかな死なんて有り得ない。彼らが素直に召されるなら、誰が私を眠らせてくれるの?』
少女は翼竜の背中に立つと、翼竜の全身を強引に糸で縛り付けた。
糸は翼竜の身体に食い込み、翼竜はそれに抗おうとするが、それでも糸は翼竜に更なる苦痛を与える。
『なんてね――結局独り芝居。』
To be continued.




