#46『ひとでなしの異物』
〈スズメウリ教会、エリア前〉
「はぁぁぁぁぁっ!!!!」
トリカとオーキッドは協力して、翼竜を確実に1体、また1体と減らして行く。だが、それと同じ速度でエリア内から翼竜が飛来し、迎え撃つ者達の行く道を阻んでいた。
「なんで私らの前に出て来る面倒事はこうも毎回数が多いんだ!!」
「トリカの姉貴!!危ない!!!!」
「あぁ?でりゃあ!!」
トリカは後ろを取られたが、流石の身軽な動きで華麗に翼竜の牙を避け、そのまま分身の脚と共に回し蹴りを食らわせた。
「はぁ、いつまでやんだ?これ。ってかこいつらそもそも元を断ったら死ぬのか?」
「とにかくやるしかないですわ!!」
始めは本能の街の住人が押していたが、それを上回る翼竜の物量で、すっかり劣勢になっていた。
「クソっ、今からどうしようにも間に合わねぇ。撤退したらこいつらを街に出しちまう。どうすりゃあ?」
—――――
「ん?なんだ?あんた」
「同じ顔が沢山?見ねぇ顔だな。あぶねぇからすっこんで―――」
「—――――は?」
本能の街の軍勢の後ろから、先陣に出る者達が居た。彼らは同じ顔、同じ髪型、同じ体格で、まるで1人の人間を大量にそのままコピーした様だった。
彼らは本能の街の人間を庇う様に、翼竜に向かって行く。その数は本能の街の人口を上回る数で、次々と翼竜に纏わり付くと、そのまま翼竜が動かなくなるまで押さえつけて行った。
「—――なんか知らねぇが、敵じゃねぇんだな?」
「お、おい。今なら俺達でも、翼竜を仕留められるんじゃないか?」
「おっしゃあ!!お前ら!!やるぞ!!!!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
「......っ」
疲労を忘れる程活気を取り戻し、再び翼竜へ向かう住人達。しかしその中で、トリカはただその後ろで佇み、そのまま膝から崩れ落ちた。
「嘘...だろ......まさか......間に合わなかったのか.........?」
〈スズメウリ教会、深部〉
薄暗い通路を進む。掃除する人が居ないのか、荒れ果て、壁に光が差し込む程の隙間が空き、少しジメっとしている。
「—―ねぇ、クリス」
「ん?」
「......いや、やっぱなんでもない」
「—―そっか」
2人が通路を抜けると、先程の景色とは打って変わってボロボロの布で覆われた路地に出た。
曇天の空、布の隙間から差し込む光。地面の砂でカラッとした空気。
そんな路地を抜けると、1つの廃倉庫の前に出た。
「......多分、ここが最奥。」
「—――クリス、」
「—―――考えてる事、わかる?」
「勿論...!」
パールは不敵な笑みを浮かべる。クリスは建物の壁をよじ登り、高い所に立つと、パールに向かって弾丸を1発放った。
「お邪魔―――」
「しまぁぁぁぁっす!!!!」
パールは結晶と共に弾丸を蹴り飛ばし、倉庫の扉ごと、倉庫の奥まで弾丸を飛ばした。
軌道上にあったものは全て木っ端微塵になり、倉庫の扉だった物は倉庫の最奥の壁で大きな音を立てると共に倒れた。だが、本来するはずの、倒れた際の音がしなかった。
クリスが高所から降りて来ると、2人は倉庫の中へと踏み入る。
よく見ると倉庫の奥に、大きな穴が開いているように見えた。
「誰も居ない?」
『元気な挨拶恐れ入るよ。』
「っ!」
2人は声のした穴に向かって構える。
『まぁそうビビんなって。少しくらい殺り合う前に話でもしようや。なぁ?』
「仲間の敵に聞く口なんて無い。」
『釣れないねぇ。じゃあ勝手に話させてもらうよ。俺はダマスケナ。このスズメウリ教会の教祖だ。』
ダマスケナは尚も穴の中から話す。
『1つだけ先に言わせてもらう。エリナはお前らの味方じゃない。』
「...?どういう事だ」
「クリス、きっと嘘だよ。敵の言う事なんか信じちゃダメだ」
『ほぉ?俺の話が信じられないか?知ってるか?人は信じたいものを信じる。それは同時に、目の前で起こった事を信じたくない時、それをこの世界のものでないとして、徹底的に排除する。同じものを信仰する奴が多くなる程、それはより強くなる。
群れって怖いよなぁ?すぐ異端異端って、俺らを迫害するんだから。エリナはそれを使い、お前らを異端として排除するだろう。』
「—――何が言いたい。」
『やっと聞いてくれるかぁ?俺の話。じゃあ、』
ダマスケナはそう言うと、穴の中からあっさりと姿を見せた。だが、それは想像していた姿をしていなかった。
人の頭部、書籍等の記録に乗っている神子の衣装の上部。その下に、神子石と似た光を放つ、植物の茎の様なものが連なり、絡み合い、穴の中から延びていた。
『続きは殺り合いながらにしようや。』
「っ!!」
クリスは咄嗟に発砲する。弾丸はしっかりと対象を貫き、対象に風穴を開けた。だが、すぐに再生し、そこから枝分かれする様に触手が生えて来た。
「はぁ!?」
『魔女は初めてか?精々俺を楽しませられるよう頑張んな』
ダマスケナは触手を2人目掛けて飛ばす。クリスは後方へと下がり、パールはクリスに触手が向かわない様に、結晶で触手を砕きながらダマスケナへと向かう。
『俺は紳士なもんでね。女性にはあんまり手を上げたくないんだが、その感じ。その必要は無さそうだな。』
結晶の破裂時の衝撃は、触手を砕くには十分な威力だった。だが、パールが結晶を弾く速度を上回る速度で、ダマスケナは2人へと触手を伸ばして行く。
『まぁ無駄話はこん位にして、教祖らしく教えを説いてやるよ。死後五分以内に収まるくらい砕いてやっから、よぉーく耳の穴かっぽじって聞けよ?』
俺の目的は、文明のリセットだ。ってか、破滅だ。
ありきたりだって?どうとでも言え。よく考えてみろ。今の時代、生物としての進化はさておき、文明の発展。これ以上何処へ向かえる?お前達は理性の街で、どんな暮らしを送って来た?...いや、なんでもない、今のは忘れろ。
(咳払い)、お前ら、人類を見てどう思った?この世界はもう、崩壊を始めている。例を出せば山ほどある。そんで、俺の計画はこうだ。お前ら、エリアの前でワイバーンを見ただろ。翼竜とか呼んでるアレだ。あれは文様神子石で、人の意思を経由してDNAに潜り込み、人をアレに変えたものだ。
「っ!!?」
『っしゃあ!想定通りの反応してくれて気持ちがいいよ。』
石をばら撒いていたのは、皆を翼竜にする為。言わばこれは俺らが目指す場所への、
「方舟の切符」さ。
緩やかな文明の崩壊程の生き地獄は無い。そんな世界で生きる位なら、1瞬で無に帰してやる方が救済になるだろ。
だから翼竜を増やした。
―――そうだ、おもしれ―こと教えてやる。ここに居る信徒たちは、正確にはまだ生きている。
テセウスの船って知ってるか?本質が変わらなければそれ以外がどう変わろうとそれであり続けるってやつだ。少なくとも俺はそう思う。なら、人が翼竜になるだけだ。家族や友人達とも、姿形が変わろうと好きに暮らしていけるぜ?
それに大きな翼だってある。これまでの人類とはまた違った発展をするかもな?
メリットはいっぱいある。なのにそれを断る意味があるか?
「—――それは、お前の言う文明の破滅と、何の変わりもない。私達は、今を生きているんだ。明日世界が滅ぼうと、その先が生き地獄しか待っていなくとも、そこでしか出来ない事だってある。それをお前1人の悪意で踏みにじられた人を、私達は見て来た。だったら今ここで、私達はお前を裁く!!」
『裁くかいそうかい!!じゃあお前らも俺達を異端呼ばわりする奴と同じだな!!』
「思想を持つのは勝手だし、誰がどんな事を想ってようと知った事じゃないよ。だけど、それを人に押し付けて、結局お前の言う事全て!お前に返って来るんだ!!」
―――じゃあこんなのはどうだ?人は脆い。すぐに死ぬ。大事な人を失った悲しみは戻らない。
たとえ長い旅路の果て、失ってしまった彼らと再開を果たしたとて、その傷は必ずお前の中に残る。
どんな幸福を味わったって、お前達の傷が癒える事は無い。
そんな傷を沢山背負ってまで得る幸福。それは本当に価値のあるものなのだろうか?
もし折れたら?全てが無駄になってしまうとしたら?
人はそれらに意味を持たせ、それすら幸福に変えようとする。勲章だなんだと讃美歌にする。
クソくらえだ。
上を見てみろ。俺達が苦しんでる間にも、天高く昇った奴らは、何してると思う?
『俺達はこの身体を得た時、確かにそれらを見た。』
どれだけ沢山の善行を積んだ者も、
凡夫であり続けたそこいらの人間達も、
結局皆向かう場所は同じ。
だが、苦しみだけが、不公平に連鎖し俺達に降りかかって来る。
それこそ、昇って行った奴らの尻拭いをしなきゃならねぇのは誰だ?そうだ俺達だ。
こんな事して何になる?
どうせいつかみんな死ぬんだ。お前達も、お前達の家族も仲間達も。
だったら、今こうして人として生きる事に何の意味がある?今のこの世界よりも、理想郷の方が遥かに楽しいぞ?
現代を生きる者達みたいに苦しむ必要なんか無い。後悔する前に死んでしまえば、背負うものなんか何もない。それに望むなら、俺達が連れて行ってあげられる。
「だから!!今を生きてるんだって!!言ってるだろうが!!!!」
「私達は、生まれてこの世界で、お互いの事をよく知った。生まれてから人が知を求めるのは、お前の言う理想郷へ『自分の』足で向かう為の準備だ。
確かにこの世界は、苦しい思いを背負う人たちが沢山居る。私達だってそうだ。だったら、その根源を絶つ為に尚更生きてやるんだって。
自分の脚で、自分のペースで。それを乱しているのがお前だ!!」
「分かったらさっさと―――」
『くたばれ!!!!」
パールが拳を強く握ると、全身が燃え盛るように輝きを帯びる。生成されるべき結晶が体内に蓄えられると、それらはパールの体温を上げ、身体の各所から激しい爆風を結晶に浴びせた。
To be continued.




