#44『テセウスの箱舟』
「え....?」
「ってことは、エリナの、養子って事!?」
「—――そういや、話してなかったな。俺も、死んだ姉貴も、エリナの下で育ったんだ。で、俺はエリナに育ててもらった恩があるし、あいつが悪人だなんて思っちゃいねぇ。それに―――それに―――――ハァ、まぁそうか。そうだよな。これに関しては仕方ねぇこった。俺が駄々こねてもどうしようもねぇ。」
カルサイトは割り切れたかのように、背を向ける。
「—――だが、少なくとも、いつか話してもらうからな。俺はお前達を、まだ――ずっと、仲間だと思ってんだから。」
カルサイトはそう言うと、その場を後にした。
「良かったの?話さなくって」
「......なぁ、あんたらはどう思う?」
「どうって......意見するも何も、私達はそのものですから」
「ハッ、それもそうだな!バカな事聞いた。」
先程の空気と打って変わって、トリカは隣の珊瑚と同じくヘラヘラと笑ってみせた。
「じゃあ、私らが思ってるまんまで良いんだな?」
「思ってる?」
「たとえ人造人間だろうと、あんたらは家族だ。生まれちまった無垢で尊い命。そんで、エリナが生み出そうとしてる奴は家族じゃねぇからぶっ殺す。エリナの思想マシマシのろくでもない禁忌。言わば忌み子だ!」
「おうおう、随分血気盛んだな。」
「珊瑚、そう言うあんたも腹括れ。ってか、娘の大事な遺産を悪用されてんだ。だったら親の私らが黙ってる訳ねぇだろ?なぁ!」
そう言うとトリカは、珊瑚の肩に肘を乗せる。
「あぁ、そうか。ったく、なんで忘れてたんだ。」
「まぁ無理もない。全部あんたの周りで起こった事なんだから。ショックがデカいと人間って感覚が可笑しくなるんだ。んじゃ、夕方街の北西部集合な。正面突破すんぞー」
トリカは流れるように島の中央部へと戻って行った。
「なんか、台風みたいな人」
「へッ、あの勢いがあるからこそ、助けられてんだけどな。」
「そうだあかつ―――珊瑚さん、キャンディー1つ貰ってもいい?」
「あ、私もー!」
「なんだ急に、構わねぇが。ソーダ味しかねぇぞ?」
「良いの良いの!」
「そうかぁ?じゃあ、ほれ」
〈夕暮れ、本能の街北西部、スズメウリ教会本部入口〉
支度は万全、各々のツケを払わせる為、彼らはここに集う。理性の街側からも、教会を囲う様にして。
全員が位置に着くとトリカの分身が物陰から、堂々と正面の通りに出て来た。
予想通り、標的達は私達が攻めて来る事を想定しており、一斉にトリカに向かって、建物の陰から銃口を向けた。
「—――」
トリカはサイトの反射した光に向かって指で挑発する。案外狙撃手達は素直に挑発に乗り、トリカに向けて一斉に引き金を引いた。
「見えましたわ!!」
トリカが弾丸を一身に受けると同時、オーキッドは建物の屋根から跳び出すと、狙撃手達の顔が引っ込む前に、それら全てを腕に備わった機関銃で打ち抜き払ってみせた。
オーキッドが華麗に着地すると、クリスとパールが敵が残っていないか探る。幸い、オーキッドの弾丸、或いはそれにより生まれた瓦礫によって片付けられたようだ。
「もう居ないよ!」
「っしゃあ!!お前ら!!やるぞ!!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
教会のエリア一体を囲う様に身を潜めていた住人達が、一斉に陰から跳び出す。鶴の一声と共に、開戦を告げる雄叫びが上がる。
彼らが一斉にエリアへの侵入を試みたその時だった。
(((人ならざる共鳴する雄叫び)))!!!!!!
「あぁ!?なんだ!?」
「っ!!テメェら!!下がれ!!!!」
カルサイトは聞き覚えのある咆哮に胸騒ぎを覚え、咄嗟に声を上げる。
予感は的中し、教会へ立ち入らんとした彼らの前に突如、翼竜の群れが飛来した。
群れは教会を守るように立ちはだかると、そのまま住人達へと襲い掛かってきた。
「はぁ...?なんだありゃあ!!?」
「あれは――!?」
「チッ、やっぱ居るだろうよ。テメェら!!怯むんじゃねぇぞ!!絶対に一人で相手するな!!数で掛かれ!!!!」
「お、おう。やべぇ、前の変な人形使う奴見てタダ者じゃねぇって思ってたが...まさかこんなの従えてるなんてな...」
「なんかワクワクしてきたぜ!!ゲームか御伽話みてぇな事が目の前で起きてやがるなんてよぉ!!」
「「うおっしゃあ!やるぞぉぉぉぉ!!!!」」
カルサイトの冷静な指揮と共に、住人達は勇敢に翼竜へ向かう。彼らも神子石を用いた武器を持っており、相手にとって不足は無かった。
「—――って、勢いに任せて行ったが、ここの奴らが筋肉バカばっかで助かったよ。」
「ハハハッ、面白れぇだろこいつら。にしても改めて思うが、私らが今から相手すんのはただもんじゃねぇんだな。」
「私達が、ずっと追って来たもの。クリス!」
「うん、」
「ったく、居過ぎだっつーの。クリス、パール、カルサイト、珊瑚。私とオーキッドが道を開ける。エリアの広さ的に、こいつらが隠れてたスペースが大部分を占めてるから、そこまで中はこんなのばっかじゃ無さそうだ。行けるな?」
多くは語らない。4人は共に頷くと、一斉に武器を構えた。
「オーキッド!!ちょっと手伝え!!」
「承知ですわ!!」
正面の通路には3頭。オーキッドが弾丸を浴びせると、甲殻の表面が欠け、翼膜が破れたが、怯むのみですぐに再生した。
「なぁクリス、アイツに似た溶けてる奴って何でトドメ刺せたんだ?」
「えっと、パールと視線を合わせた時に、あの翼竜には色が付かなくて、ただその中に、あの神子石の文様が見えたので、それを打ち抜いたら、倒せました。」
「なるほどな―――あー、でもその方法だと頼りきりになっちまうな。どの辺にあったか分かるか?」
「確か、頭部の中心に。」
「なんだ普通に生き物と一緒じゃねぇか。トリカ!!オーキッド!!頭の中心を狙え!!その中に核がある!!!!」
「あぁ!?」
「えぇ!!?」
2人は咄嗟に距離を取ると、トリカに向かって翼竜が突っ込んでくる。トリカは自分に向かって口を開いた翼竜の鼻先に思いっきり回し蹴りを喰らわせると、今度はそれによって首を曲げた翼竜の頭にオーキッドが飛び掛かる。オーキッドは翼竜の鼻先を掴み頭に乗ると、もう片方の手にある機関銃を、翼竜の脳天に打ち付けた。
「これでどうですの!!!!」
(激しく呻き怒り狂う鳴き声)
翼竜はオーキッドを振り払おうとその場で暴れまわる。他の翼竜にぶつかろうと、翼竜が転倒しようと、絶対に手を離さないようにしがみつく。
「かの父上あってこその私の力!甘く見ないでくださいまし!!!」
機関銃は回転速度を上げる。翼竜の脳天から何度もそれを貫かんとする弾丸は、再生する速度を上回り、さながらドリルの様に翼竜の頭部に上から風穴を開けると、翼竜はその場で脱力し動かなくなった。
「ん?うわぁ!!」
オーキッドが腕を引っ込め、翼竜の絶命を確認し、翼竜の頭から降りると、翼竜の身体が溶け出している事に気付く。
「もぉ、せっかくの新しいドレスが台無しですわ!!」
「お嬢ちゃん、なんともないのか?」
「え?えぇ、まぁ。」
オーキッドは手に着いた翼竜だったモノを払う。特に有害なものでは無く、黒い液体はやがてただの水溜まりの様に澄んで行った。
「もうちょい早く教えてくんねぇ?」
「すまんすまん。すっかり忘れてた。」
「ってか、これなら倒す勢いでそのまま抜けてった方が良いな。私らは苦戦してる仲間のサポートに回るわ。」
そう言うと、トリカはオーキッドを連れて、他の翼竜へと向かって行った。
「......」
「ん?どうしたの?珊瑚」
「—――んぁ、いや、なんでもねぇ。いくぞ」
「—――?」
To be continued.




