#42『粉骨砕身』
〈本能の街、貨物倉庫群跡〉
トリカの分身は中に何もない倉庫に入ると、奥で立ち止まった。
「ハァ。そういやお前、俺の声は本人には伝わってねぇんだよな。個々が独立して、それでいてトリカの支持を一方的に受けそれに従う。だが、多少なりともお前らに意思はある。喋れねぇから、それを表に出すのは難しいってな。」
「—――」
トリカは微笑むと、カルサイトの方に振り返り、口を開く。
「人って言うのは、ずっと変わらず、その人のままで居続ける事は出来ない。私も、君も。そうだろう?」
「—――は?」
カルサイトは聞き耳を立てながら、目を見開いた。
「—―あぁ、そうだな。そうだよな、そりゃあ喋れるようになってても不思議じゃねぇか。......ん?じゃあ、今のお前はどっちの意思で喋ってんだ?」
「どっちだと思う?』
「ハァ......ったく、これじゃあ罵詈雑言浴びせてすっきりしようにも気ぃ狂うじゃねぇか......」
「懐かしいな。私達と"殴り合って"ストレス発散してたのを覚えている。』
「......じゃあ、お前らはお前ら1体1体の意思で喋ってんだな?」
「トリカが君にどんな感情を抱いているのかは私達も知らない。でも、だからこそ、昔と同じように、こうして君と"殴り合う"ことは出来る。』
カルサイトは懐からナイフを取り出し構える。トリカもまた、カランビットナイフを握ると、低く構えた。
「お互い不死身、手加減無しだ。』
トリカがコインを1枚弾く。コインが地面に落ち、子気味の良い音を奏でると共に、お互いに一瞬にして間合いを詰めた。
「「はぁぁぁぁぁ!!!!」』
カルサイトがトリカの刃に向かって思いっきりナイフを振りかざす。鍔迫り合いに持ち込まんとした刃は、カランビットナイフが指を軸として回転すると共に空を斬り、トリカの刃はそのままカルサイトの頭部へと向かう。
カルサイトは逆手に持っていたナイフの向きを強引に返すと共に、迫る刃へと再びナイフを振りかざした。
だが、ナイフの刃先はトリカのナイフの持ち手に当たり、トリカはカルサイトの刃の勢いを流しながら、その場で回転すると共に再びカルサイトの頭部へと向けた。
「馬鹿が!!」
カルサイトは再びナイフを逆手に持つと、トリカの手首に思いっきりナイフを突き立てた。
「なっ!?」
だが、ナイフが刺さったにも関わらず、トリカの腕は留まる事を知らず、その傷口を開くと共にカルサイトに向かって強引に拳を当てた。
カルサイトはなんとか拳を首だけで回避したが、ナイフを引き抜くのに少し手間取ってしまい、トリカから一方的に攻撃を仕掛けられる事となった。
なんとかかすり傷を負いながらもナイフを取り返したカルサイトは、トリカの攻撃を避けながらナイフを鞘に納めると、拳だけでトリカと渡り合った。
「いいのか?折角でかい傷を負わせたのに』
「お前の手数からして、こっちのが都合が良いんでな。」
「ハッ、君も成長したんだな。』
「っせぇ!!!!」
2人は傍から見たら目にも留まらぬ速さで渡り合う。トリカが一瞬の隙を突きナイフをカルサイトの首に向け振り下ろした時だった。
「!?』
カルサイトの首元には、パールからいくつか受け取っていた結晶の内の1つが隠されており、トリカは咄嗟に伸ばす腕を止めたが、手首をカルサイトに掴まれてしまった。
「へッ、」
カルサイトはそのままトリカの背中に回り、背負い投げる。
投げられたトリカが地面に衝突する瞬間、トリカはもう片方の手で懐から拳銃を取り出すと、カルサイトの首元にあった結晶に向かって発砲した。
「っ―――!!」
結晶は弾丸で破裂すると共に、トリカを間合いの外へと吹き飛ばし、カルサイトは破片で傷を負った。
トリカは少し離れた所で体勢を立て直すと、拳銃を放り投げた。
「テメェ!!銃は卑怯だろうが!!」
「悪い悪い、持ってたの忘れてた。もう捨てたし、お互いに負傷したから、これでおあいこだろ?」
「ハァ、」
「分かった分かった。じゃあ私も丸腰でやってやるよ」
カルサイトは体に刺さった破片を抜くと、そのままトリカへと詰める。
拳と拳、腕と腕、脚と脚。受け流す事無く、今度はお互いの力を正面からぶつけ合う。
再生力ではトリカの方が劣るが、それでも1歩も譲る事は無かった。
「どうした?もう体力の限界か?』
「ハッ、そんなもんねぇのは、お前が一番知ってんだろ?」
「その割には、火だるまになってた時はハイになってたように見えたが?』
「あぁん!!!??」
「あの時は君にしては珍しく理性的で無いにしたって、普段よりも調子が良かったんじゃねぇか?あれを今のお前がやれたら、最強になれると思うが?』
「だったら――やってやるよ!!!!」
カルサイトは心拍と体温を上げると共に、トリカに更なる猛攻を仕掛け、1撃命中させることに成功する。だが、勢い余り、トリカからの反撃を許してしまう。
「もっとだ!視界がぼやけ、耳鳴りがしても、意識を研ぎ澄ませろ!!その力を、頭に使え。その身体を動かしてるのはなんだ!』
「っ!!はぁぁぁぁぁ!!!!!」
カルサイトはハイになりかけた一瞬の隙を突かれながらも、だんだんとその動きが鋭く、苛烈を極めて行く。そしてトリカのつけ入る隙が無くなって行くと、カルサイトの攻撃がトリカに連続して当たるようになって行った。
「君は何をしに私に挑んできた?そうだ、自らの不足に怒り悔いた為だ!だったら尚更遠慮はいらない!!憎しみを!怒りを!!それらを糧にして進む力を!!』
トリカの分身は久方ぶりに会った友人の目まぐるしい成長を喜ぶと共に、カルサイトのトドメとなる1撃を受け、遥か後方へと突き飛ばされた。
トリカは壁に背中を打ちつけると共に、その場に倒れる。
「はぁ......はぁ......っ!!おえぇ......ゲホッゴホッ.........」
カルサイトは一息つくと、その瞬間に蓄積された疲れがどっと身体を襲った。カルサイトが口元を拭い、トリカに歩み寄ると、トリカは膝を着きカルサイトと目を合わせた。
パァン!パァン!!
突如、倉庫の入口からクラップ音が鳴る。2人が入口の方へ振り返ると、そこには本人と思われるトリカが居た。
「...フッ、久しぶりにやり合えて楽しかったよ。またな』
分身はそう言うと、結晶となり地面に転がった。
「相変わらず、あんたの再生力には敵わねぇな。カルサイト」
「へッ...よく言うぜ。お前の方こそ、随分強くなったみてぇじゃねぇか。」
カルサイトはその場に転がる結晶と、分身が投げ捨てた拳銃をトリカに手渡す。
「んで、少しは紛れたか?」
「まぁな。昔の事で色々ぐちゃぐちゃしてたのが、どうでもよくなるくらいにはな。」
「へぇ、私らに何があったのか聞かなくっていいのか?」
「聞いても答えねぇだろ。それに、別に俺自身はお前らを敵視してる訳じゃねぇし、今詰める理由が無いからな。」
「そうか。んで、どうする?」
カルサイトは背伸びをすると、倉庫の外に出る。
「そりゃあ向かう先は1つだろ。」
「そうだな。」
「明日、仲間達を全員集める。やられたんなら、返しをすんのが本能の街のスジってもんだ。んじゃ、そういうこって」
トリカはそう言うと、手を振りながら背を向け路地裏に消えて行った。
「......」
(仇は討つ。そこで見てな、ゾイサイト。)
To be continued.




