#40『渡り取り根付く者』
〈数日後―――早朝、本能の街、砂浜〉
ここ数日間は、特に襲撃も無く、着々と教会に向けての準備が進められていた。
クリスとパールは早朝に目が覚め、皆を起こさぬように砂浜まで来ていた。
「なんか、懐かしいね。」
「懐かしい?」
「時間帯は真逆だけど、私達こうして向かい合ったでしょ?」
「—―そうだね。」
2人は砂浜で互いに距離を取った後、向かい合って武器を構えた。
「さてと、それで――どうしよっか」
「とりあえず―――あの岩に試す?」
パールは結晶を数個宙に投げる。そして自らも跳躍し、クリスに足裏を向けると、
クリスは射線にパールの足裏と結晶が重なったタイミングで発砲した。
パールは結晶と弾丸によって勢いよく射出され、岩に向かって一直線に接近すると、懐に蓄えた結晶を撒きながら、岩に向かって蓄えた結晶を全てぶつけた。
結晶は轟音を放ちながら岩を木っ端微塵に砕いたが、尚もパールは勢いを失わず、そのまま海に真っ逆様に落ちて行った。
「あちゃー...」
数秒後、パールが海から上がって来ると、服の水分を絞りながら戻って来た。
「これ、なんか惜しいんだよねぇ...」
「だね。何が足りないんだろ――」
「おーい、」
「「ん?」」
突如、街の方から声がした。振り返ると、雑に伸ばした髪を腕に巻き、眠い目を擦りながらトリカがこちらに来ていた。
「ったく、早朝に何やってんだ?」
「あぁ、聞こえてましたか。すみません」
「すみませんじゃねぇよ、私だけじゃなくって街に居る大体半分が起きちまった。んで、何してたん―――」
トリカは視界が冴えて来ると、クリスの持っている武器が目に留まる。
「おい、随分懐かしいもん持ってんな。」
「懐かしい?」
「そいつは私が現役の頃に持ってたモンだ。とおりであんたらが来てからやけに耳に馴染む音がするなって思ったんだよ。にしても、よく使えるな。並の人間なら1発撃つだけで肩が外れて銃ごとどっか吹っ飛んでっちまうのに」
「えぇ、そんな危ないものだったの...?」
「私、一時的に身体能力を上げる事が出来るんです。パールは、破裂して高温の爆風を出す結晶を使えて。私達で何か出来ないかって、ここ数日こうして砂浜で色々やってました」
「へぇ、ちょっと見せてみろ。」
そう言うと、トリカは少し2人から離れ、手首に付けていたヘアゴムで髪を結ぶと、2人に向かって構えた。
「—―え?」
「ん?何か変か?」
「いえ、丸腰でやるんですか?」
クリスとパールは戸惑いながらも、武器を構える。
「あぁ。もしかして、私が大人しく当たってやると思ってんのか?」
「でも、私達のこれ、結構広範囲だし、痛いと思うんだけど―――」
「「当たったら」の話だろ?いいから来なよ。もう日が昇り始めてるな、じゃあどんだけ連射して街の奴ら起こしたって気にしやしねぇだろ」
「—――じゃあ、行くよ、パール。」
「うん!」
クリスが後退すると共にパールが前に出ると、トリカとの間合いを詰める。尚も微動だにせず構えるトリカに、パールが結晶を思いっきりぶつけると共にクリスがトリカを打ち抜く。
意外な事に、あれだけトリカはあっさり結晶の破裂を浴び、吹き飛ばされた。
「えっ?」
「ぐぁっ!!」
「—――?」
サイト越しに覗いていたクリスも困惑する。だが、再びサイトを覗くと共に、クリスの心拍は急激に上昇した。
「!?パール!!右に避けて!!!」
「えぇ?」
パールが左後ろへ振り返ると、そこには片手をポケットに突っ込みながら、カランビットナイフを掲げ振り下ろそうとするトリカが居た。
「っ!!」
パールは振り下ろされるナイフを避けると共に死角に回り込み結晶をぶつける。奇妙な事に、再び結晶はトリカに命中する。そして、吹き飛ばされたトリカ越しに異変に気付く。
「え......?」
吹き飛ばされ宙を舞うトリカ越しに、最初に吹き飛ばされたトリカが横たわったままになっているのが見えた。
「特別に大ヒントをやるよ。」
声の主は正面からではなく、真後ろから響く。パールが後ろを振り向くと同時に結晶を投げると、そこには3人のトリカが居た。
「えぇ!?」
3人のトリカの内、2人が結晶の破裂を受け飛ばされる。もう1人は結晶を楽々躱すと、パールに向かって回し蹴りを繰り出した。
そのタイミングでクリスはパールの視界によって集中線を纏う様に定まった標的に向かって発砲すると、トリカを弾丸が貫くと、トリカはその場で倒れ、パールの足元に結晶が転がった。
「結晶—――神子石!」
今度は背後からの足音に気付く。パールが振り返ると、そこには更にもう1人トリカがおり、トリカはパールの周囲を旋回し始めた。
「っ!!」
パールはトリカを視界の中心に捉えながら、トリカに迫ろうとする。だが、打ち抜いたはずのトリカがパールの脚を掴み、足を取られたパールはその場に伏しそうになった。
「なっ!?」
パールは咄嗟に目の前の地面に結晶を投げつけ、それを回避すると同時に、懐からいくつか蓄えていた結晶を取り出し、風圧に乗ったまま足を掴むトリカに向かってぶつけた。トリカはなんとかパールの脚の拘束を解くと同時にそれを回避すると、いつの間にか複数体旋回していたトリカ達に混ざる。
「ほら、当ててみろ」
「くそ!!」
パールは足元に沢山の結晶を叩きつけようとする。だが、掲げたその手を背後から掴まれてしまった。
「邪魔!!」
パールは掴まれた手を伝う様に反対側から振り返り、それと同時にトリカの顔面に肘を命中させる。
トリカは仰け反りよろめいたかに思うと、そのまま旋回する沢山のトリカの中に消えて行った。
「はぁ...!?」
「なるほど、少し分かって来たぞ?」
パールが再び声のした方を向くと、旋回するトリカの奥に、ただ佇みじっとこちらをみつめるトリカの姿を見る。パールは咄嗟にその方向へと駆け出したが、迂回するトリカの内の1人がパールの腕を掴んだ。
パールは拳を構え、こちらの顔面へと思いっきり突き出そうとしている拳に向かってもう片方の手で結晶を当てると、トリカは迂回する群れに戻って行った。
だが、その渦に近付き過ぎたのか、トリカの内の1人が迂回しながら脚を伸ばして来た。
「しまった!?」
クリスは先程から狙いを定めようとするが、迂回するトリカに色付く視界を阻まれ上手く狙いが定まらない。パールは咄嗟に結晶を指先から生成し飛ばしたが、結晶越しにトリカの蹴りを貰ってしまった。
「ぐっ!!」
「パール!!」
「あんた、もう少し効率よく動けるんじゃねぇか?例えば――」
迂回する渦の中から、今度は複数のトリカが、追い打ちを掛けようと全方位から一斉に襲い掛かる。
パールは突き飛ばされる身体を咄嗟にねじり、その勢いでまずは背後のトリカに結晶をぶつけると、その風圧で慣性を相殺した。
次に、ねじった身体の勢いをそのまま回転する勢いに切り替えると、今度は左方から来るトリカに回し蹴りと共に結晶を喰らわせる。
「—――?」
パールは少し、以前の戦い方とは違う感覚に陥る。
「っ―――狙いが定まらない......!壁越しには見えるのに!」
音に頼ろうにも、自ら距離を放している且つ、渦に内側の音が遮断され、クリスは完全に狙う相手が定まらなかった。
To be continued.




