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[愛の形、孤独の形]Episode Crys&Pearl  作者: Emotional
3章『法ここに非ず』
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#39『傀儡となる苗床』

オーキッドは、ようやく本当に観念したカルサイトから、了承を得る事が出来た。そして、神子石の事、仲間の事、本能の街が襲撃を受けた事、全てを、カルサイトの口から聞き出した。


「本当に、貴方を倒すのには手間がかかりますわ。わたくしの高貴な膝まで貸してあげたと言うのに」


「...誰も貸せなんて頼んでねぇよ。」


ようやくオーキッドの膝から解放されたカルサイトは、気付けば服に染みていた水分も、砂浜に吸収され乾き切っていた。


「ハァ......言っとくが、しばらく自宅には帰れねぇ。だから、家事は自分でやれ。それと、馬鹿みてぇに散らかってるから、それが嫌なら諦めろ。冷蔵庫の中身は―――まぁ、好きにしろ。いいな?」


「ふふっ、わたくし、以前から屋敷で働かせていたメイドさん達の仕事ぶりに感激して、憧れてましたの!楽しみですわ!!」


「へッ、なんだそりゃ。そんで、どうする?」


「何がですの?」


立ち上がったカルサイトは、オーキッドの方へ振り向く。


「お前は、真実を知りたいんだろ?」


「えぇ。でも、貴方から聞いた者が全てではないんですの?」


「—――俺の仲間は、心が読めんだ。悪いがそいつから聞いちまった。お前、「本能の街の主」とお友達だってな。会った事あるのか?」


「...えぇ。この街に来てから、ずっと目立たない所に居たものですから、どこに居るのかは存じ上げておりませんが―――」


「......どんな見た目だった?」


「確か―――」


「—――――っ!」


オーキッドはカルサイトに耳打ちする。カルサイトはオーキッドからの言葉1つ1つを鮮明に脳裏に焼き付けると、自身の爪で平から出血するほど強く握り拳を作った。


「あら?もしかして、御存じなんですの?」


「...まぁ、腐れ縁みたいなもんだ。とりあえず、この街も、俺らも、お前も向かう先は同じだ。匿う条件、俺からももう1つ。」


「自分自身と仲間を守れ。そしたらおのずと真実が見えて来るだろうよ。」


カルサイトはそう言うと、オーキッドを置いてその場を後にした。



〈本能の街、医務室前〉



「......」


マーカサイトが療養室に入った後、クリスとパールも軽く検査を受け、医務室から出て来た。


「パール...」


「—――これから、どうするの?」


建物の壁に背中を預けながら、初めて死と言うものに触れた2人は、困惑していた。


「—――とにかく、今私達が出来るのは、仇を討つ事だ。そうすれば、ゾイサイトさんも安心して天に昇っていける...と思う。」


「......どうやって?」


「それは......」


「お前ら―――その、大丈夫か?」


2人が思い悩んでいると、カルサイトが墓地の方から戻って来た。墓地の前で会った時より、少し顔色が良くなっているようにも見える。


「カルサイト...心配なのは君の方だよ。」


「私達は仲間です。もし立ち止まってしまって、そこから前に進めなくなっているなら、私達が支えますから」


「—――ありがとな。」


カルサイトは、唯一正常に会話が可能な仲間を前に、少しだけ安堵する。それがどんな存在だろうと関係ない。彼らは、大切な仲間なのだから。


「—―ただ、今ぁ実はその、大して落ち込んで無くってよ。ハァ、」


「言ったそばから溜め息付いてるじゃないですか」


「ったく......お前ら、ショック療法って知ってるか?」


「ショック療法?」


2人は首をかしげる。


「あぁ。落ち込むことがあった時とか、感情が激しく動いた時に、別のそれに匹敵する出来事が起こると、最初に悩んでたことがどうでもよくなって来るみてぇなもんだ。...って、この例えちょっとマズかったな。忘れてくれ。」


「何かあったの?」


「あぁー、会いたいか?」


「ん?」


「あら?」


カルサイトが2人の返答を待つまでも無く、彼女は2人の前に姿を見せた。


「お久しぶりですわ!!」


「—――え?」


「あぁ、フードを被ってたら分かりませんわね。ほら、」


オーキッドはフードを取ると、パールに顔を見せる。フードの中から飛び出すドリルサイドテール、首元から覗く翡翠のネックレス。


「—――へ?」


「パール、知ってるの?」


「まぁ――ね。あ、あはは――――――」


「パールはこいつにシャンデリアをぶつけたからな。」


「カルサイトさんが結晶を投げてくださったおかげで助かりましたわ!!」


「やばい――今すぐ逃げたい――――」


パールは明らかに視線を外す。


「ご心配ありません!怒ってなんて居ませんし、むしろ今じゃアトラクションみたいで楽しかったんですもの!!」


「えぇ......」


「まぁ、こいつが今言ったショック療法ってやつだ。事情があって身を隠してるんだとよ。ただ、俺らに協力してくれるらしいから、これからは味方だ。」


「なるほど―――よろしくおねがいします」


クリスはモノクロの世界でも、彼女がただの女性ではないと察し、片膝を着いて首を垂れた。


「まぁ!うふふ!!でも、膝まで着かなくて結構よ、先程カルサイトが申し上げた通り、今は身分を偽っているんですもの。それに、金や身分なんかに縛られない友達と言うものにも興味がありますわ!!」


「クリス、こいつの名前はオーキッドだ。パールも仲良くしてやれ。そんじゃ、後でな。」


カルサイトはオーキッドを置いて、その場を去ろうとする。オーキッドがそれに気付くと、咄嗟に駆け出すカルサイトを追いかけて行った。


「—―なんか、凄く賑やかな人だね」


「これでも、一応敵だったんだけどね。...ん?でも、あの娘、あの神子石持ってたよね?どうしたんだろう?」


クリスは眠っているマーカサイトから預かった探知機を、走り去っていくオーキッドの方へと向ける。文様付きの神子石の反応は無く、代わりに文様の無い神子石の反応があった。


「—――持ってないみたい」


「そっか。じゃあ信じてもよさそうだね。」


気付けば2人も気分が紛れており、顔は前を向いていた。

ふと、路地裏の方を見ると、珊瑚がこちらへと手招きしていた。



〈本能の街、貨物倉庫群跡〉



珊瑚に連れられ着いた場所は、2人が倒れていた倉庫だった。

マーカサイトがやったであろう地面は未だに当時のままで、地層が露出した柱を倒せば、まれに文様神子石が落ちて来た。


「こんな事になってたんだ...」


「ちょっとグロいから、入り口で待ってな」


「グロい?」


珊瑚が2人を待機させ、倉庫の奥まで進むと、少し経ってから、珊瑚は小さく光るモノを持って来た。


「それは?」


「俺の知り合いの形見でな。ルピナスに使ったやつだ。これで敵の遺体から記憶を抜き取れば、何か情報を得られるんじゃないかって思ってな。」


「なるほど。それで、見たんですか?」


「あぁ。—――あんたらが集めてる、この文様神子石って代物。こいつは、「人間を傀儡にあの翼竜を生み出す」んだってよ」


「翼竜を――まさか!?」


「それだけじゃねぇ。傀儡ってのは要するに、この石が使用者を苗床に、やがて使用者を石の中に閉じ込め、それが卵の様に羽化する事で、翼竜が生まれるらしい」


2人はこれまでの事件を思い出す。取引現場で見たあの溶解した化け物、展望台で見た小型の翼竜、デパートで捕まえたはずの2人が、いつの間にか消え、そこに2つの神子石が残されていたのも、全て辻褄が合う。


「じゃあ、私達が持ってたの、結構危ないじゃ!?」


「あんたら、あの石何処に持ってる?」


「—―タワーの、地下室です」


「—――はぁ、大分マズいな。羽化するのは時間の問題だろうよ。まぁ、だからこそ、どの道元締めをシメねぇとな。」


「でも、どうするんです?」


「そうだ、あのドロマーって爺ちゃんに、沢山武器を作ってもらえば」


「生憎、神子石を採掘してたのは教会のある方だ。」


「じゃあ、発生源にもなってしまってる訳ですね―――」


「あぁ。だから、今の俺らに出来る事としたら、数の暴力で何とかするか、俺らが数十倍頑張るしかねぇな。」


「......何か、ある程度手間を省ける何かがあれば......」


「手間を省けるって、どんな?」


「例えば、教会を丸ごと爆破したりとか。」


「教会丸ごとって、どうやって?」


「私の結晶だけじゃ多分厳しいけど、なんかでっかい大砲とかあったらさ、奇襲を仕掛けられない?」


「急に知能が消し飛んだな。だが、悪くねぇ考えだ。」


「でしょ?」


珊瑚はパールの立案に、自分達が持っている資源を合わせて考える。


「あー...ん?そうだ、ちょっとドロマーに相談して来るわ。あんたらは準備しててくれ。やると決めたからには、徹底的にやるぞ。」


「え、本気?」


珊瑚は混乱気味のクリスを置いて、神子石工房の方へと戻って行った。


「うーん......」


「ねぇクリス、折角だし私達もなんかやってみない?」


「やってみるって?」


「例えば、私達の武器を上手く組み合わせて技を作ってみたりしたら、かっこよくない?ほら、デパートが水没した時みたいにさ」


「あぁ、あの時は確かに、結構かっこよかったかも」


「でしょ!!そうと決まれば―――そうだな。あっちの砂浜で色々やってみようよ!!」


「そうだね。」


クリスはスーツケース型に折り畳んである武器を組み立てながら、パールは結晶を補充しながら、砂浜の方へと向かって行った。


  To be continued.

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