Episode:【RoP】中編
※この話には、以下の描写が含まれます
『いじめによる精神崩壊、身体の欠損』
〈学校、校門前〉
「ここが現場か――」
「はい。この学校には調理科があるようで、学校の方から聞いた話では、行方不明となっている生徒は、あそこの新校舎に通っていた生徒だそうです。それと―――」
カルサイトとマーカサイトが現場に到着すると、現場はとっくに閑散としており、人っ子一人の気配も無かった。
「ん?どうした?」
「その生徒の担任と、母親が殺害されていまして。それを見た生徒もいるそうです。大分ショッキングな現場で、精神的に深い傷を負った方もいらっしゃるようで―――」
「事情は知らねぇが、とりあえずほっといたらロクな事にならないのは確かだな。やるぞ。」
「待ってください!今回は新人さんも来るとの事で」
マーカサイトがそう言った矢先、学校を囲う柵の角から、校門に向かって駆けて来る女性の姿があった。
「ごめんなさい!!遅れました!!!!」
「いや、これくらいだったら遅刻には入らねぇ。むしろ、これから入ろうとしてた所だ。」
「はい!じゃあ、やりながら覚えて行きましょうか」
「にしても、初の任務が殺人鬼の鎮圧って――大丈夫か?」
「安心して!これでも、腕には自信があるのよ?」
「そうか。じゃあお手並み拝見って所だな。」
3人は校舎へと足を踏み入れる。ゾイサイトは今でも、そして、カルサイトも、後悔しているのだろうか?
〈学校新校舎1階、正面玄関。〉
「うわっ、」
校舎に入り、まず3人に降りかかったのは酷い悪臭だった。血液と腐敗した肉。そして、何かが焦げ付く臭い。
「嘘でしょ......?」
「あの、まだ話は終わっていなくってですね―――」
「ん?まだなんかあったのか?」
「実は――――その、私達の組織、残っているのが私達だけなんです。」
「—――は?」
「全員、ここで。この事件の対応中に、行方不明に――――」
「.....俺らの組織、珊瑚とトリカが抜けた後何人居た?」
「8人です.....ゾイサイトさん含めて」
「じゃあ、5人殺ったかもしれない奴とこれから対峙するって事!?」
「はい――ですので、注意して進みましょう」
「—―そうだな。固まって動くぞ。全員、お互いから目を離すんじゃねぇぞ。」
3人は固まると、3階を目指した。
〈学校新校舎2階廊下〉
3人が2階へと移動すると早速、血痕が大量に残っているのが見えた。
「なっ!?」
一同が血痕のある場所に近付く。カルサイトが、血痕を辿り教室を覗くと、そこには人間の剝製のようなものが、まるで授業を受けているかのように、整列された椅子に座らせられていた。
「—――お前らは見なくていい。」
「どういう事?」
「—―とにかく見るな。」
「—――まぁ、分かったわよ。」
カルサイトは2人が教室の中を見てしまわぬように、来た道を戻ると、3階へと上がった。
〈学校新校舎3階〉
3階は特に血痕など見当たらなかったが、ロッカーやその上に乗っていた荷物が床に散乱していた。旧校舎まで来ると、カルサイトは死角になっている角等を先行しながら、2人の安全を確保する。そして、玄関から正反対の位置にある音楽室まで来たところで、下の階から異音がした。
「この音—――料理か?」
「何かを切る音ですか?」
「ひえっ、ちょっと、怖いんですけど......」
「—――降りるぞ。」
カルサイトはマーカサイトと怯えるゾイサイトを連れ、2階へと向かった。
〈学校旧校舎2階、実習室前〉
「っ―――」
カルサイトが2階へと戻ると、再び血痕が現れた。
「......」
「カルサイト?どうかしました?」
「—―ハァ、なぁ、変な事聞くぞ?」
「急に何?」
「良いから聞け。お前ら、人の死体見た事あるか?」
「...まぁ、祖母の死体ならあるわね。」
「カルサイトさんと、解剖直前のモノなら見た事があります。」
「—――じゃあ、他殺体は?」
「—――!?もしかして、」
「シーっ、声が大きい。—――まぁ、察せ。」
「嘘でしょ......」
「仕事柄、こういうのを見る事になるんだ。だが、入門にしちゃちとこれはキツいな。どかして来るからちょっと待ってろ。」
「あ、ちょっと!」
カルサイトは階段の手すりを滑り降りると、教師と思われる無惨な亡骸を、近くの教室まで運んだ。
「全く、固まって動こうって言ったじゃない。ただでさえうちの人達が5人もやられてるんでしょ?」
「まぁまぁ、あの人は確かに当たりが強いですけど、ああ見えてちゃんと私達の事を見てくれてる良い人なんですよ」
「はぁ、まぁ、貴方達とは初対面だし、貴方達を知るのはまだまだこれからね。」
「どかして来たぞ。」
そんな話をしている内に、下の階からカルサイトの声がした。そして、下の階に降りて早々、廊下の突き当りから少し手前、オレンジ色の灯りが見えた。
カルサイトは降りて来た2人に向かって、人差し指を口に当ててみせた。
「それで、どうするの?」
「......ちょっと覗いたんだが、お前らは外に出てろ。」
「はぁ?何言ってるの!危険な任務なのよ!?」
「あぁ。だからこそお前らは出てろって話だ。」
「納得行く訳ないでしょ!!なんで固まって動いてると思ってるの!?」
「—――カルサイトさん、何か勝算があるんですか?」
「—――なんとなくな。後は―――」
「なによ。」
「2人とも、校舎の窓や入口、隙間と言う隙間、全部塞いてから出てくれ。」
「どういう事?」
「まぁ、いずれ分かる事だ。」
「分かりました!」
「マーカサイトさん!?はぁ、一応聞いてあげるけど、死んでも知らないんだからね!!」
「安心しろ、俺は結構しぶといからな。」
「はぁ、なにそれ。」
ゾイサイトは文句を言いながらも、1階へと戻る。マーカサイトはカルサイトと目を合わせると頷き、新校舎へと向かった。
「ハァ......すげぇ新人が来たな。まぁ、説明がめんどくさくなった俺のせいだが。さてと、やるか。マーカサイトなら、多分あれ見ても辛うじて大丈夫なはずだ。」
カルサイトは自身に喝を入れると、準備室から実習室へと入って行った。
〈学校旧校舎2階、実習室。〉
「—――先生、次はどうしたら良いですか?」
「っ!?」
カルサイトは目の前の景色に目を疑う。カルサイトの目の前、コンロで生徒の1人が調理をしており、その正面で、実習の教師であろう人物が、生徒に調理を教えていた。閑散とした校舎、行方不明となっていた生徒。この街に、警察は居ない。カルサイト達の組織のみが、この街を守っている。だが、仲間はここで、殺られたのだろう。だから、これの目撃者なんて居ない。
「ん?」
教師がこちらに気付くと、手でSOSのサインを出す。だが、生徒はそれを知っていたのか、その手を切り落とした。教師はその場に落ちた手と、断面から噴き出る血液を見て、失神し倒れた。
生徒は火を止めると、振り返らずに口を開く。
「ヘッヘッヘッヘ、6人目だ。」
「......」
「なぁ、お前はどうだ?俺をどう思う?可哀想だと思うか?」
「—―生憎、俺は口喧嘩は苦手でな。こっちでやろうぜ」
カルサイトは懐からナイフを取り出すと、生徒に向けた。
「—―――ハハハハッ!お前は綺麗事ぶつけてくる他の奴とは違うんだなァ!!いいぜェ、やってやるよ!!!!」
生徒は持っていた加熱されたフライパンを投げつけた。カルサイトは近くにあったコンロに火を点けると、咄嗟に屈み、フライパンはコンロにぶつかりその火を消した。
カルサイトは調理台の陰をすばやく移動しながら生徒に近付くと、生徒の項を狙った。
だが、生徒はそれを察知したのか、咄嗟に背後に向かって振り向きながら包丁で薙ぎ払った。
カルサイトもまた咄嗟に後方に下がると、斬りかかる生徒に対してナイフで応戦した。
「どうしたァ!!ビビってんのかァ?散々人の事さす覚悟があんなら堂々と来やがれ!!!」
「......」
カルサイトはコンロを次々と着火すると、生徒を誘導し、生徒の暴れる手足でコンロの火を消させる。
「別に、お前が年下だから容赦してやってるだけだ。」
「あ"ぁ"!!!!???」
生徒はあっさりと怒り狂い、近くにあった包丁研ぎを投げつける。カルサイトがそれを躱すと同時に、飛んで来た包丁研ぎの死角から、生徒は包丁を突き立てる。カルサイトは躱そうとしたが、左腕に縦に切り傷が付いた。
「ぐっ!!!」
「ギャハハハハ!!!もっと泣け!!!苦しめ!!!お前達が俺にそうさせたみたいになぁ!!!!」
「あぁ...?何が見えてんだテメェ......?」
「うるせぇ!!!!俺の事を知ろうなんて微塵も考えなかったくせに!!!!今更同情ヅラすんじゃねぇ!!!!!!」
生徒の攻撃の勢いが再び増す。彼は近くにあるものを、片っ端からカルサイトに投げ飛ばしながら、カルサイトの逃げ場を塞ごうとする。カルサイトは準備室の反対側、もう一つの実習室に来ると、そちら側でも、コンロの火を点ける。
「火事でも狙ってんのかァ?無駄だ!!ここのスプリンクラーはまだ動くんだからなァ!!」
カルサイトは調理台越しに生徒と対峙する。生徒は調理台の下にあるフライパンをもう片方の手に持つと、カルサイトのナイフを弾き飛ばそうと振り回した。
「......」
(正面から見ると、全身真っ赤な返り血に染まってる。それどころか、眼球も赤くなってやがる。何故そんなに動ける?痛くてたまらないはずだろうが。)
カルサイトは冷静に攻撃を捌きながら、準備室に戻ると、入り口の扉を蹴破った。
「チッ、ちょこまかと!!!!テメェみたいに安全圏から一方的に物言う奴嫌いなんだよ!!!!」
(—――まるで想像上の俺か、違う誰かと別の話をしているみてぇだ。なんなんだ?)
広い所に出たのが裏目に出たか、生徒はカルサイトの逃げ道を塞がんとするばかりに、カルサイトの正面に回り込んでくる。
(クソッ、2人共間に合ってくれ!!!)
カルサイトが旧校舎の教室側に駆け出そうとした時、マーカサイトの声が響く。
(カルサイトさん!!塞ぎ終えました!!私達は外に出てます!!!!)
「へッ、よくやった!」
カルサイトはそのまま回り込もうとした生徒の肩を跳び箱代わりに飛び越えると、そのまま新校舎へ向かって駆け出した。
「あぁ~あ、正々堂々向かって来てくれるんだったら、俺のとっておきをお見舞いするだけで済んだんだけどよぉ。テメェも結局!!最初から切れる事が分かってた蜘蛛の糸じゃねぇかァ!!!!!」
生徒は障害物となるものに真正面からぶつかりながら、カルサイトを追いかける。
「へッ、なるほどな。どうりて3階が散らかってた訳だ!ん?でもそれなら普通1階に逃げるよな?なんでだ?...いや、今は考えてる場合じゃねぇ。少しでも長く時間が欲しい。「建物中の臭いが、別のナニカに置き換わる」くらいの時間が。」
カルサイトは新校舎から1階まで階段を飛び降りると、生徒の死角に入った。
「どこ行った!!—――いや、テメェ馬鹿じゃねぇな?上だろ!!」
生徒の足音が遠くなって行く。カルサイトは足音が聞こえなくなったのを確認すると、玄関の陰から出て来た。
「引っかかったなァ!!!!」
「っ!!」
カルサイトは咄嗟に不意打ちを躱す。だが、カルサイトの目の前には、切り傷が出来ていた腕が本来ならありえない角度で視界の真ん中に映っていた。
「クソッ!!」
「ハハハハハ!!!!!投げるからこうなるんだ!!卑怯な手を使うからこうなるんだ!!!!人を陥れる免罪符。案外簡単に作れるんだぜェ?これ以上破綻しない、破綻した倫理を押し付ければ良いだけなんだからなァ!!!!!!」
カルサイトは今まで、ここまでの負傷をした事が無かった。片腕が切り落とされる程の。だからこそ、普通の人間と同じく、死を覚悟した。
「っ!!!!」
「死ね!!!!あの世で俺にして来た事を悔いながらなァ!!!!」
生徒はカルサイトに刃を振り下ろす。
(クソが......ハッ、やっぱ人の真似なんざするもんじゃねぇな。でもよぉ姉貴、まだ死にたくねぇんだよ―――)
(別に、不愛想なら不愛想で良いんじゃない?)
(—――は?)
(だから、それも個性でしょ?誰にでも笑って余裕を見せてられるのが私と珊瑚。だったら、君みたいに怒りを堂々とぶつけられる、真っ直ぐなのも私は良いと思うよ?それに、そんな人、私の知り得る中じゃ君くらいなんだもん。皆嘘つきばっか。そう思わない?)
(—――走馬灯か?なんで今こんなのが―――――感情?俺は、別にそんなのじゃなくって、あんたみてぇになりたかったって――――――そうか、大事なのは、自分である事を忘れない事なのか?ハッ、なんで今なんだよ。—――だが、確かに悪くねぇ。そう言われてみりゃ、変に気取るより、こっちの方がやりやすいし、楽しいかもな。)
「......あ、やっと笑えたぜ。なるほど、こうやるんだな。」
カルサイトは階段に倒れかかったが、地面を蹴り階段を上がると、振り下ろされた刃の負傷を足の指先に留めた。
「お前、向き合って欲しいんだよな。いいぜ。だったら俺を捕まえてみろよ。望むモノがあるんだったら、自分でつかみ取ってみろ」
「テメェに何が分かる!!!死にぞこないが喋んなァ!!!!!」
カルサイトは生徒が追って来るのを華麗に躱して行く。心なしか、それとも体の3%~6%の重量を失ったからか、先程よりも体が軽い。カルサイトは校内に血液を撒きながら、生徒から逃れる。カルサイトの神子石の力は、血液の再生を容易く行うと共に、少しずつではあるが、腕の細胞を構築して行く。やがて2階が真っ赤に染まると、カルサイトはどこかへ身を隠した。
「どこ行ったァ!!!出て来ぉい!!!!」
(――さてと、とりあえず、どんな殺人鬼であれ、動機や事情は知っておくべきだよな?—―――――まぁ、粗方予想は着くがな。後はそれの確証が欲しい。となると―――)
カルサイトは新校舎の3階から、実習室の方を向く。
(あいつに追われながらだと、ロクに探索も出来ねぇからな。忍び込もう。)
カルサイトは足音をなるべく抑えながら、旧校舎の階段へと向かった。
To be continued.




