#37『慟哭は黙する者に奏でられる』
「っ―――!!!??」
マーカサイトは咄嗟に、ゾイサイトに向かって駆け寄る。何度声を掛けようと返事が無い。それでも、マーカサイトはゾイサイトを呼び続けた。
『ヒッヒッヒ、こんなに上手く行くなんて思わなかったよ。』
「っ―――――」
明かりの点いた倉庫。2人の周辺の大きな反応は、翼竜だった。そして、その内の1頭の鉤爪と口者には血痕があり、返り血である事は考えずとも分かった。そして、6頭の翼竜を指揮する様に、先程までローブを纏っていた男が現れる。
『こいつらは中々賢くってね。貴様らが対峙した事のある失敗作とは訳が違うのだよ。』
「—――――」
マーカサイトは絶えずゾイサイトを救う方法を考える。彼女の思考には、もはや敵陣の真ん中であると言う事さえ無かった。
『—――ハッ、拍子抜けだ。まさかこの程度で心が折れたか?こんな奴に手下がやられていたと知ったら、教主様は屈辱だろうな。やれ。』
男は手ぶりで翼竜に指示を出すと、翼竜はゆっくりとマーカサイトへ接近して行った。
「—―――――」
―――――
「っーーーーーーー」
マーカサイトは命一杯空気を蓄える。胸が張り裂けそうになろうとも、そんな痛みを感じる余裕すら、マーカサイトには無い。翼竜がマーカサイトの頭に、牙を剝きかけたその時だった。
「「「「「—―――――――――――――――――!!!!!!!!!!」」」」」
『っ!?』
刹那の出来事だった。マーカサイトは床に落ちた自分のメガホンに向かって、思いっきり慟哭をぶつけた。過去の不条理、後悔、己の無力さ。あらゆる負の感情を、思いっきり拡声器に向けてぶつけた。
メガホンは慟哭を何倍にも増幅させると、それは強力な音の波を生み出し、メガホンと地面の間にある空洞に閉じ込められた波は、次第に地面にヒビを入れる。そして、貯められた衝撃が一気に解放されると、地殻変動を起こす程の地震が起こった。
『っそが!!』
男は地面から伸びる槍をなんとか躱して行く。だが、自らが招いたこの空間は、男からまず聴覚を奪うと、男の片腕を壁まで持ち上げ、そのまま切断した。次に高台が割れ男が落ちると、その先にはまた槍が伸び、男の腹部を貫いた。
『っ!!!!』
男は終わらぬ痛みに悶え苦しみながら、ゆっくりと奥まで突き抜ける槍にもたれ、事切れた。
〈数刻後―――本能の街入口〉
≪カルサイトか、任務の様子はどうだ?≫
「—――とりあえず、本能の街の連中は、文様付きの神子石を目の敵にしていた。真の敵は、正体不明の宗教団体らしい。それで、襲撃にも遭った。」
≪—――なるほど、他には?≫
「......ゾイサイトが、殉職した。マーカサイトは負傷、命に別状は無い。」
≪—――≫
エリナは通話越し故に伝わらなかったが、空いた間でなんとなく、カルサイトがどんな顔しているのかが伝わった。
≪—――分かった。ご冥福を祈るとしよう。≫
「—――そんで、俺らはもう少し本能の街に残る。目的が合致したとなれば、心強い味方だが、負傷者が多い。だから、ひとまず事が落ち着くまでは、戻れないと言っておく。多分、全部片すまでな。」
≪――そうだな。≫
「...切るぞ。」
≪あぁ。健闘を祈る。≫
〈ペグマタイトタワー最上階〉
エリナは電話を切ると、窓の外を眺めた。ゾイサイトが入って来た時の事は、今でもよく覚えている。
彼女はカルサイトの指導の下、ひたむきに頑張る真っ直ぐな人だった。
ある事件を境に、少しカルサイトに強く当たるようになった気もしたが、なんだかんだ言って、2人の連携は抜群だった。
「ゾイサイト―――君の事は、決して忘れない。」
『意外にも、部下想いのいい主なんだなぁ?理性の街の主は』
「—――」
エリナは聞き慣れない声に顔を強張らせる。エレベーターの音を聞き逃したか?
エリナは懐から拳銃を取り出すと、振り返ると共に侵入者へと向けた。
『まぁまぁそう緊張すんなって。俺はお前を殺しに来たんじゃあ無い。取引しに来たんだ。』
「...その恰好、カルサイトが言っていた宗教団体だな?」
『っへぇ?認知して頂いているなんて光栄だなぁ。俺の名はダマスケナ。スズメウリ教会の教祖だ。』
「...教祖が何の用だ」
『おいおい、そんなに警戒すんなって。だから取引しに来たって言ったろ?』
「......」
『取引の内容はこうだ。本能の街を一緒に滅ぼそう。そしたら本能の街はお前にやる。』
「......受けると思ってるのか?」
『ハッ、安心しろよ。本能の街を亡ぼしたら、俺らは大人しく自首するし、文様神子石をばら撒くのもやめる。どうだ?悪くねぇだろ』
「—―何が狙いだ」
『釣れないな。じゃあこんなのはどうだ?』
ダマスケナが指を鳴らすと、ダマスケナの背後から、人間の遺体が投げ落とされた。
「—――!?」
『こいつは、ここに来る途中に見つけたもんだ。あんたのだろ?』
その遺体は表面から溶け始めており、服は裂かれ着用しておらず、本来人間にあるはずの、性別の概念が存在しなかった。
『あとよぉ?俺は地下も見たぜぇ?そう、地下の"2階"だ。』
「—――っ!!」
『だぁら身構えんなって。取引つってんだろ?』
「......それを受けて、私に何の利益がある。」
『お前には目的があるはずだ。何年も何年も叶えようと必死に努力して、最近やっと掴みかけていたものが。その最後の障壁を、壊す手伝いをしてやるってんだ。どうだ?』
「—――――」
『ヒッ、まぁ、返事は態度で示してくれりゃあ良い。この場で口から吐かせるのは、お前の尊厳にもかかわる事だからな。じゃあ、伝えたぜ?』
ダマスケナはそう言うと、エレベーターをすり抜けて行った。
〈本能の街、墓地〉
「その.....すまねぇな。この街には遺体を遠くまで運ぶ技術なんて無くってな。こうするしかなかった。安心しろ。親族が墓参りに来たら、素直に案内するよう伝えておくからよ。」
「—――あぁ。」
カルサイトは墓の前で数分間立ち尽くした後、墓地を出た。すると、クリスとパールに出くわした。
「カルサイト―――」
「......お前らが気にする事じゃねぇ。俺が間に合わなかっただけだ。......それと、出来ればしばらく1人にしてくれ。海辺で空気吸って来る。」
「......」
2人はカルサイトが街の中に消えて行くのを見届けた後、ゾイサイトの墓へ御参りに行った。
〈本能の街、防波堤〉
カルサイトは本能の街を彷徨う内に、水平線のよく見える、晴れた景色の防波堤へと辿り着く。
「......っ!!」
カルサイトは近くにあった小石を握り締める。そして、石が手の平に刺し傷を作ると、カルサイトは思いっきりその意思を海に投げつけた。
「馬鹿が!!何を守るってぇ?何をぶちのめすってぇ?ぶちのめしたのは誰だ!!俺じゃねぇか!!!!」
カルサイトの脳は、ありとあらゆる感情が混濁しており、まともな言葉すら出て来なかった。
カルサイトが頭を掻きながら自身に腹を立てていると、防波堤の入口から、子気味の良いハイヒールの音が響いて来た。
「こんな所で1人で居たら、風邪引きますわよ?」
カルサイトは頭を掻く手をピタリと止めると、ゆっくりとその腕を膝に乗せた。
「—――ほっといてくれ。」
「感心しませんわね。わたくしと対等に渡り合える強いお方が、こんな所でむしゃくしゃして。」
「—――あぁ?」
カルサイトはゆっくりと振り返る。そして、目線だけで話しかけて来た女性の方を見ると、そこにはフードを被り、出会った時とは真逆の目立たない恰好をした、オーキッドが居た。
カルサイトは衝撃のあまり、そのまま足を踏み外し、海へと落下して行った。
「まぁ、――」
To be continued.




