#36『跳び火に還る魂』
珊瑚は歩みを止める。振り返る事無く口を開く。
「—――どんな選択をして、その先にどんな未来があったって、今、本能の街とあんたらは互いに誤解を解けた。あんたらがこの街に来てくれたからだ。違うか?」
「......そうかよ。じゃあ、なんで追われる身になったんだ?俺は、お前を捕らえなきゃいけねぇのか?」
「...さぁな?少なくとも、それを話せるのは今じゃねぇ。」
「はぁ?」
珊瑚は振り返ると、カルサイトと目を合わせる。
「あんたは、全てを捨ててでも、それを知る覚悟があるか?」
「—――あぁ?」
「無ぇなら、まだあんたはこっちに来るべきじゃねぇ。」
珊瑚はそう言うと、その場を去った。
〈工場跡、焼け落ちたエリア〉
「あいつら、消えた......?」
「一体なんだったんだ?」
「そうだ!ローズちゃんは!?」
「それならここに居る。」
カルサイトはローズを抱えながら、工場跡の中から出て来た。
「おぉ!!兄弟!!この恩は絶対忘れねぇ!!」
「......」
カルサイトは浮かない顔をしていた。久方ぶりの再開、決して素直に喜べるものでは無かった。
「カルサイトさん、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、大丈夫だ。とりあえず戻るぞ。大分遠くまで来ちまっ―――!?」
「どうしたの?」
カルサイトは嫌な予感が背筋を伝う。
「—――なぁ、なんで敵は、わざわざこいつを拉致してまで、こんな所に俺らをおびき出したと思う?しかも、こいつは大した目的じゃねぇとしたら?」
「—――!?」
3人は咄嗟に駆け出すと、全速力で中央部へと戻った。
〈本能の街中央部〉
「ゾイサイト!!マーカサイト!!!」
カルサイトが中央部に戻ると、住人達が地に伏していた。
「き、兄弟、やられちまった、すまねぇ......」
「俺の仲間がどこ行ったか知らねぇか!?」
「あぁ、さっき、倉庫の方に走ってくのなら見たぞ―――――」
「—――クリス、パール、こいつらを医務室に連れてけ。俺はあいつらを探してくる」
「う、うん、わかっ―――」
「「「—――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!」」」
突如、本能の街全体に響く轟音。それにはどこか聞き覚えがあり、カルサイトは焦燥に駆られながら、脳内で必死にそれらを否定し、南東の方へと向かった。
〈本能の街、中央部南東方面、貨物倉庫群跡〉
轟音は倉庫群に近付くと共に大きくなり、それは地震を起こす程だった。
次第にそれが弱まって行くのを感じると、カルサイトは音の止まぬ内にその元を辿る。
「頼む!間に合え!!!!」
カルサイトは貨物倉庫の中に、1つだけ門が閉じた倉庫を見つける。
「—――チッ、」
カルサイトは微かに倉庫の扉に隙間を開けると、そこに向かって思いっきり回し蹴りを喰らわせた。
「マーカサイト!!ゾイサイト!!」
カルサイトが扉を蹴破ると、倉庫の中は地割れを起こし、地層が露出していた。それは地面から突き出た槍の様で、それは倉庫の中央に向かって広がっている様だった。
「っ!!」
カルサイトが石柱の如き地層を砕きながら、中央へと向かう。途中、倒した石柱のいくつかから、文様付きの神子石が落ちて来た。
「これは―――くっ!!」
カルサイトは中央に向かうに連れ、破壊速度が落ちて行く柱をなんとか砕き分けながら中央へと向かう。
そして、ついに中心へと辿り着き、ドーム状になった地層を蹴り飛ばすと、そこには――――――
「っ―――――」
確かに、ゾイサイトとマーカサイトが居た。2人共そこに倒れており、カルサイトは咄嗟に邪魔な地面をどかして、2人に自身の神子石を当てた。
「.........」
カルサイトは膝から崩れ落ちた。幸い、マーカサイトは、鼓膜と喉への重傷のみで、命に別状は無いように見えた。だが、ゾイサイトの方は、脈が完全に止まっており、カルサイトは自身の持つ神子石よりも遥かに強い、自身の胸部に埋め込まれた神子石を、自らの手を胸に突き刺し取り出した。
「頼む――頼むって、なぁ!!!」
カルサイトはゾイサイトに、自身の神子石を当てた。だが、意識はおろか、傷が再生する事も無かった。
ゾイサイトの背中には、大きな切り傷が、同じ方向に3つ出来ており、下向きになっている左肩から先には、何もなかった。
「っ!!!!が"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ"!!!!!!!!!!」
その叫びは、クリスとパールの耳にも入っていた。カルサイトは精一杯叫んだ。それ以外、何も出来なかったからだ。
〈数刻前—――ライブステージ〉
2人が意識の無い住人達を運ぶ手伝いをしていた時、ゾイサイトは物陰からこちらを覗く存在に気付く。
「!?」
ゾイサイトが目を合わせると、影から見ていた男は咄嗟に逃げ出した。
「待て!!!」
ゾイサイトは抱えていた住人をそっと降ろすと、男が居た路地へと真っ直ぐ駆けた。
そばに居たマーカサイトも、ゾイサイトの後を追いかけて行った。
〈本能の街中央部南東方面、貨物倉庫群跡〉
「ゾイサイトさん!待ってください!!」
「敵は1人よ!それに、もしかしたらずっと前から隠れてたかもしれない。下手に帰すとロクな事にならないわ!!」
ゾイサイトは男を確実に追いかけると、やがて貨物倉庫が並ぶエリアに追い詰める。男はそのうちの1つに入ると、ゾイサイトも倉庫の中へと飛び込んで行った。
「深追いは良くないです!!」
そう言ったのも束の間、マーカサイトが倉庫の中に入った途端、倉庫の扉が勢い良く締まる。倉庫は屋根に穴が開いている訳でも無く、窓も無い為、2人は真っ暗闇に閉じ込められた。
「しまった!?」
「だから言ったじゃないですか!!」
ゾイサイトは咄嗟に倉庫の門に向かって真っ直ぐ駆け出すと、左手に持ったトンファーを思いっきり扉に打ち付けた。だが、不思議な事に、本来あるはずの扉から、トンファーがぶつかる音が返って来なかった。
「—――え?」
ゾイサイトは次に、自身の身体の感覚が可笑しい事に気付く。
「私、左腕が麻痺して—――え?」
ゾイサイトは左腕に触れる。だが、触れようとした右手は空を掴んだ。おかしい。麻痺しているのなら、左肩からぶら下がっているはず。
ゾイサイトは恐る恐る、自身の左肩に触れた。
「っ!!!!???」
「ゾイサイトさん!!気を付け―――」
マーカサイトが探知機の電源を付け、倉庫内の敵の場所を探ろうとした時だった。
「え!?」
マーカサイトが見たレーダーには、正面に1つの反応と、6つの遥かに大きな反応があった。
ガタン!!
突如、倉庫の電源が点く。そこには、背中を掻き切られ、左腕を失い倒れた、ゾイサイトの姿があった。
To be continued.




