#35『性悪説』
〈工場跡、B3F〉
「—――はぁ、ハイになってる時は気にしてなかったが、ここってあれじゃねぇか。」
カルサイトは真っ暗な道を、懐中電灯1つで進む。まるで煙草が切れた喫煙者、身売りしてでも快楽を望む中毒者の禁断症状の如く、ストレスによる激しい頭痛に襲われながら。
「—――トリカと珊瑚は、一緒に逃げる選択を提示してきた。あの時俺が手を取っていたら、どんな未来が待っていたんだろうって。あいつらは、簡単に裏切ったりする質じゃねぇ。きっと何か事情があったんだ。俺らに追われなきゃなんなかった事情が。」
カルサイトは自分に言い聞かせるように、自身の混濁する思考と向き合いながら、瓦礫をかき分けて進む。やがて階段まで辿り着いたが、完全に錆びて各所が折れており、とても登れそうになかった。
「......まぁ、もう少しなら無茶しても―――」
(もうやめて!!!!)
「—――こんだけ広いんだ。他にもいくつかあんだろ。」
カルサイトは奥にある扉を開け、他の階段を探し始めた。
〈工場跡、地下通路〉
カルサイトが扉を開け、出た先はやたらと広い空間だった。
「—―だだっ広いだけでなんもねぇな。通路か?.....ハァ、身体に着いた煤が取れたら、少し暴れるか。」
〈工場跡、灼け落ちたエリア〉
『おしまい―――』
パールが大ぶりの攻撃を仕掛けた時、少女がその隙に付け入る。だが、そんな事は分かり切っており、パールに少女の糸が絡み、パールを吊り上げようとした時、糸に絡みついていたのは、パールの結晶だった。
『—―――?』
少女は結晶をその辺に投げると、再びパールへ無数の糸を伸ばす。気付けば少女はパールを囲うようにして沢山の分身を生み出しており、どれが本物なのか見当もつかなくなっていた。
『フッフッ—―――遊ぼう』』
パールに向かい、一斉に糸が伸びた時だった。パールの身体から、無数の結晶が爆ぜ、糸は結晶の爆風を受けると、焼き切れ断面から黒く染まった。
『『—―――――貴方も?』』
気付けばクリスは少女の見える場所から姿を消しており、何処からともなく弾丸が飛んで来るようになった。
『『—―移動してる?悟られないように?でも、貴方は一人になった。だから、貴方で遊び終わってからで十分。』』
「舐められたもんだね。まだぴんぴんしてるって言うのにさ!!」
パールは全身に結晶を纏いながら、分身を1つ1つ順番に片付けて行く。
『『—――――時間の無駄。早く家に帰って遊びたい。貴方も来る?』』
「ハッ、軽々しく敵に居場所をばらしていいのかよ!!」
『『—――饒舌。貴方はどうせ私に負ける。負けて私のコレクションになる。だから、貴方に知られた所でどうでもいい』』
互いに一歩も譲らない攻防が続く。やがて住人達が離れた場所から増援としてやって来ると、クリスは彼らが操られない様注意しながら、後方支援を求めた。
『『—――ん?あ、からす。』』
「なっ!!?こっち来ちゃダメ!!!」
「安心しな嬢ちゃん。本能の街にある武器はな、ナイフや拳銃だけじゃねぇんだよ!!」
分身の内の数人が増援の方へ向かうと、男達は一斉に銃口を構え、同時にトリガーを引いた。
『『!?』』
銃口から放たれたのは、弾丸では無く、高火力の炎だった。
分身は操作盤から燃焼すると、塵になり、その場には神子石が落ちた。
「神子石!?やっぱりあの教団の仲間だな!!お前ら!!容赦する必要はねぇ!やっちまえ!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
「あはは、ここの人達、結構こういう時ハイになるタイプ?」
「パール!!」
気付けば群衆の中にクリスも混ざっており、両手に火炎放射器を持っていた。
クリスとパールは背中合わせに構えると、味方の軍と同じ数まで増えた少女に向かって構えた。
「撃て!!!!」
〈工場跡、B1F〉
「なんか、あっさり上がって来れたな。まぁそれはそれで助かるが。」
カルサイトは天井に微かに開いた穴から差し込む光を頼りに進む。懐中電灯は1度水没したからか、階段を上る途中で点かなくなってしまった。
「—――ん?」
カルサイトは咄嗟に陰に隠れ気配を消す。そこには、攫われたブルーローズが倒れていた。
「—―――」
(何故ここだけ電気がある?そして何故ここに倒れている?—――どう見ても罠だな。どうしたものか。)
カルサイトはブルーローズの周辺を見渡す。だが、何処にも怪しい箇所は無く、ブルーローズにも糸が絡まっている訳でも無かった。
「—――?」
カルサイトは恐る恐る、ブルーローズへと近付く。だが、彼女に近付いても何もなく、彼女はただ、その場で気絶して倒れていた。
「なんだ?随分簡単だな?」
『でしょ』
「チッ、」
カルサイトは咄嗟に振り返り、その勢いで少女にナイフを振りかざした。
『—―貴方、どれだけ乱暴にしても壊れない。一番おもしろい。遊ぼう?』
「うるせぇ!!こっちはテメェに構ってる暇なんかねぇんだよ!!!」
『—――正直、この娘はどうでもいい。この娘を返してほしかったら、遊んで』
少女はブルーローズを回収すると、手元まで持って来た。
(クソが、プールに全身使っちまったせいで着火に時間がかかる。どうする?)
『—――――!?』
互いに睨み合っていると、何処からともなく光る結晶が飛んで来た。少女は咄嗟に後方へと下がったが、ブルーローズを縛っていた操作盤が粉々に砕けてしまい、ブルーローズは束縛から解き放たれた。
「あぁ?なんだ?」
カルサイトは振り返る。今居る位置から進めば、地上に出る階段があり、そこから誰かが降りて来る音がした。
「......出来れば、もう少しサプライズみたいな登場をしたかったんだけどな。」
「—――!?その声は!!」
階段を降りて来た男の声にははっきりと聞き覚えがあった。忘れるはずもない。彼は、カルサイトの後悔と自責の念そのものなのだから。
「......よぉ。元気してたか?カルサイト。」
「珊瑚—――」
『—――何が起こった?私のおもちゃは?壊された?誰のせい?』
珊瑚はカルサイトの隣に立つと、蒼く光る結晶を構えた。
「話は後だ。さっさと終わらせるぞ。」
「へッ、よく言うぜ。腕は鈍ってねぇんだろうな?」
「—―まぁ、ちょっとな。」
「そうかよ!」
2人は一斉に少女へと向かっていく。少女の伸ばす糸は珊瑚の振り回す結晶に触れると、触れた箇所から塵となって行った。
『この感じ、火とも違う。貴方、何者?』
「敵に名乗る名前なんざねぇよ。それが幼い少女だとしてもな!!」
珊瑚はカルサイトに伸びる糸まで華麗に裁くとあっと言う間に少女を間合いの内に入れるに至った。
『—―流石に相手が悪い。撤退。』
「逃がす訳ねぇだろうが!!!!」
カルサイトは少女の背後に回り、思いっきり拳を伸ばす。
『—――』
少女は逃亡する際、1羽だけ持っておいたカラスをカルサイトの前に投げた。
「ハッ、そんなんで止まるかよ!!」
「カルサイト!!罠だ!!!」
「は?」
珊瑚は咄嗟に少女へと針を伸ばしたが、刺さったのは少女の分身だった。
カルサイトが拳を思いっきり伸ばした瞬間、カルサイトの目の前に立ちふさがったカラスは翼竜の頭へと変化し、カルサイトの腕丸ごと、右肩まで噛み付いた。
「ぐッ!!!!???」
気付けば竜の頭は気絶した男に戻っており、少女の分身は文様付きの神子石となった。
「逃げられたか......はぁ、はぁ......」
「カルサイト、大丈夫か」
珊瑚はカルサイトに駆け寄る。
「俺の力は、お前も良く知ってんだろ。ちょいとグロテスクだから、治ってから戻る。」
「—―そうだったな。」
珊瑚は神子石を拾い上げると、その場を去ろうとする。
「待て、俺からの質問がまだ終わっちゃいねぇ」
「......」
「......お前らは何者なんだ、信じていいのか?」
To be continued.




