#33『福音を掻き鳴らす』
〈数刻前、ドロマーの神子石工房〉
ドロマーは3人に、ペグマタイトタワーで、神子石の道具を造っていた事、約20年前の事件で、珊瑚とトリカと共に逃げていた事、そして今、文様付きの神子石の出所が、とある宗教である事を話した。
「宗教って......どうりであんだけ理性の街に浸透しちまった訳だ。」
「そう言えば、私達全員で来ちゃいましたけど、今頃何か起きてしまったらマズいのでは?」
「あぁ、それなら大丈夫らしいぜ?どういう根拠でそう言ってるのかは知らねぇが、エリナになんか策があるんだとよ。」
「策ですか――なんでしょう?」
「事情は知らんが、とりあえず、ワシら本能の街の住人が、お主らの敵でない事は確かじゃよ。」
「なるほど。じゃあ取り敢えず、その宗教を潰す事から考える?」
「潰すつったって、宗教と言われても、どのくらいの規模感なのか分からねぇ内は、下手に動けねぇんじゃねぇか?」
「それもそうですね...」
そう話していた矢先、襲撃の報が入った。
〈数刻後、本能の街、居住エリア付近〉
襲撃が終わってから、3人は神子石の宗教についてクリスとパールに共有した。戦いの中で、本能の街の住人は、5人と共通の敵を見つけたからか、はたまた助けてくれた恩か、冷たい眼差しを送る事は無くなった。
「おい、あんたら。」
「ん?」
「さっきは悪かった。最近あいつらからの被害が酷くってよ。追っ払ってくれた事、感謝する。」
「礼は全部片付いてからに取っておけ。」
「—―なぁ、名前教えてくれよ。」
「......俺がカルサイト。そんでこっちがゾイサイト、そこに居るのがパールで、向こうの建物の陰にマーカサイト。そっから覗いてるのがクリスだ。」
「へッ、そうか。覚えておくよ。なんかあったら言いな。俺らで良ければ助けになるぜ!」
そう言うと腕に包帯を巻いた男は、路地裏に駆けて行った。
「—――そういえば、あのジジィの言ってる事が本当なら、珊瑚とトリカも、この街に居るんだよな?」
「そういえばクリスさん、さっきまで何をしていたんですか?」
「—――まぁ、色々。詳しくは話せない。」
「そうですか......」
マーカサイトはクリスの心を読もうとしたが、共に戦ってきた仲間の信頼を失う真似は出来ないという結論に至った。
「おい!!こっちでライヴやるぞ!!あんたらもどうだい?」
男が駆けて行った路地から、また違う男が出て来た。
「ライヴ?なんでヴ?」
「そこかよ......んで、ライヴって?」
「あんたらの知ってるライブと一緒だ。なぁに、こんな寂れた街だからってしっとりしたのじゃなくって、ドカンとでかいのやるから見応えはあるぜ!きっと度肝抜かれる」
「ふーん?」
「まぁ、時間なら少し余裕が出来ましたし、寄って行きます?」
いつの間にか、クリスとマーカサイトが下に降りて来ていた。
「ハァ、分かったよ。だが、俺はそういうのにはうるさいからな?もし雑にBPM500とか1000とか盛りまくったEDMとかだったら暴れるからな?」
〈本能の街南部、ライブステージ〉
『≪皆ー!!元気ーー??≫』
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「うるっせっ!」
一同は会場に着くや否や、歓声で鼓膜を突き破られそうになった。
『≪いいねぇ!!戦いの後だってのに、意外と元気そうじゃん!!じゃあ、初っ端からぶち上ってもいいんだよねぇ!!!?≫』
「「当たり前だろうが!!」」
「「その為に来てんだ!!」」
『≪アハハ!相変わらず威勢が良い返事!じゃあ早速行くよ!!ワン、トゥー、スリー、フォー!!≫』
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」
ツインテールに黒のメッシュが入った女性は、ステージで観客を虜にする。
「あいつはブルーローズって名乗ってる。」
「名乗ってる?」
「元々捨て子でな。消極的ネグレクトだ。捨てられたのは親の経済的な理由。愛情込められて育ったもんで、なんとかもう1度、親の元へと還りたい。そんな思いで、こうしてステージに立ってんだ。つっても、捨てられたのがこの街だ。俺達に出来るのは、あの娘が幼い時から好きだった、あのギターと歌を、全力で磨いてやる事さ。」
「へぇー、あれ、思ったより良い人達?」
「どうしてもあの子みたいな事情を持つ奴らが集まるもんで、理性の街への憎悪や負の感情で、偏見凝り固まっちまっててな。だからさっき、あんたらを俺らの仲間が襲ったんだ。」
「なるほど。まぁ、これに関してはこっちの責任だな。事が片付いたら、俺らも取り合ってみるよ。」
「そう上手く収まるかねぇ。だが、その心意気、嫌いじゃないぜ」
気付けば5人も、ステージに立つ偶像と、観客の熱気に感化され、結局最後まで彼女の演奏と歌を聴いていた。
〈1時間後—――ライブステージ〉
『≪皆ー!!来てくれてありがとうー!!次のライヴも楽しみにしてて!!≫』
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
観客は皆、余韻を残したまま、会場から順に去って行く。皆満足した顔をしており、5人もその場を去った。
―――――
『あれ、欲しい。』
『さすがにあれだけ注目される人物ですよ?まずいのでは?』
『—――じゃあ、手伝って』
ブルーローズはギターを掃除し、会場を片付けていると、後ろからの気配にふと振り返る。
『......気のせい?まぁ、今日はいつも以上に声援も大きかったし、スピーカーもそれだけ上げてたからね。耳鳴りかな』
『気のせいじゃ、無いよ。』
『え?』
「おいてめぇ!!ローズちゃんに何してる!!」
『......』
『—――!!』
ブルーローズの前に現れた少女は、操作盤の様なものをカチカチと鳴らす。すると、ブルーローズはその場に倒れ、少女と共にステージセットの上まで浮き上がった。
「チッ、おい!!ローズちゃんが危ないぞ!!誰か!!!」
『—―うるさい。』
「ぐがっ!?」
増援を呼んだ男は、少女が伸ばす糸に吊られると、少女の目の前まで移動させられ、少女は男の目をじっと見つめた。
『—――不細工。』
「はぁ―?がっ!!?」
男は少女の操る糸から逃れようと足掻く。男はみるみる内に肉体が黒く染まり、気付けばその容姿はカラスの様な姿に変わっていた。
『不細工でも、使える。遊ぶだけ遊んで、ポイしても、これなら誰も怒らない。命なんて、こんなもの。』
「あいつか!!ローズちゃん!!今助けるからな!!!」
住人達は先程まで居た会場にぞろぞろと集まって来ると、銃を取り出した。
『—――フッ』
〈本能の街中央部〉
「おい!!あんた!!!!」
「っせぇな、耳鳴りしてるからもうちょい小さく喋ってくれ。今度はなんだ。」
本能の街の地形を把握しようと、1人でうろついていたカルサイトは、焦燥に駆られた男に呼び止められた。
「助けてくれ!!ローズちゃんが攫われそうになってる!!!!」
「—――あぁ!?」
カルサイトはマーカサイトに連絡しながら、全力で駆けライブステージへと戻った。
To be continued.




