#32『楽園の鼠を食らう蛇』
〈数年前—――理性の街〉
息子が生まれる直前、ニゲラはどこかへ消えた。俺はそいつの素性を知らないし、なんで消えたかも分かんねぇ。トリカから聞くには、「本能側の住人」だったらしいがな。
そんで、そこからだったか。カイヤが研究室に籠った切り、出て来なくなったのは。
まぁ、研究者と言うのは忙しいもんだ。ルチルは俺が預かっていた。カイヤが何しでかしてるかも知らずに。
〈数ヶ月後—――〉
カイヤの実験が一区切りしたらしく、息子と一緒に出掛けてった。
―――事故に遭った。ルチルは即死だったよ。それと、娘はもう一人いてな、セレナってんだが、今は理性の街の病院で寝たきりだ。同じ道を志し、カイヤ程までは届かなくとも、熱意が合って愛嬌もある研究者だったよ。
―――――
嫌な予感はしていた。事故の知らせを聞いて駆け付けた頃には、カイヤの姿は無く、連絡も取れなくなっていた。
「何があったんですか?」
「—――あんたら、人造人間だろ?「クローン」って知ってるか?」
「クローン?」
「—――この世界の、息とし生ける全ての生物。例えば人間なんかは、皆違う「遺伝子」を持ってる。これが、俺ら1人1人を区別出来る所以でもあるな。俺らはこれがあるからこそ、この世界で文明を築き、ここまで発展してきた。クローンってのは、「全く同じ遺伝子、特徴を持つ生き物」だ。」
「—――もしかして」
あぁ。ルチルのクローン。それが、カイヤの研究だった。正確には、元々ルチルのDNAを入れるつもりは無かっただろう。あの事故以来、完全にカイヤは狂ってしまった。
それだけじゃない。キメラなんかも生んでたよ。名前を「加賀知メア」と言う。
「キメラ――何の生き物を混ぜたんですか?」
「—――あんたら、見た事あるか?」
暁はスマホを取り出すと、2人に、建物の窓から撮った翼竜の写真を見せた。
「なっ!!?これって!?」
「見た事、あんだな。この翼竜には俺達も接敵した事がある。」
「ちょっと待ってください。翼竜が敵?」
「—――今、あんたらが追ってるのは、俺らじゃない。俺らの中に潜んでいた、化け物だ。...まぁ、先に昔話を終わらせさせてくれ。」
メアは翼竜と人造人間のキメラだ。ルチルの友達だってよ。まぁ、生まれちまったもんは仕方ない。あいつらが生まれて来た事を罪とするなら、それはカイヤを止められなかった俺の罪だ。
だから、それを背負う事にした。なのによ、メアは死亡、ルチルは行方不明だ。
「待って、頭パンクしそう―――」
「それもそうだな。私なんか飲み物買って来るわ。なんか嫌いなもんあるか?」
「いえ、特に何も。」
「私も!」
「そうかい、育ちが良くって助かるよ。おっと、私の娘たちだったな。」
トリカは調子良くステップを刻みながら、スクラップの山を飛び降りて行った。
「はぁ......」
「とりあえず、話は見えてきました。」
「カイヤは故人だ。そして、カイヤの研究資料は今エリナの手の中だ。これがどういう意味か分かるな?」
「—――――なっ!!!??」
「まぁ、やってるだろうな。そんでこんだけ年月経ってんだ。研究資料を回収する前に、既に辿り着いちまってる可能性もある。」
暁は咥えていたキャンディーを噛み砕くと、残った棒を紙で包みもう片方のポケットにしまった。
「だから、もしかしたら最悪の未来が待ってるかもしれない。」
「人間ではなく、人造人間の街になる未来がな。」
「「......」」
「あっ、別にあんたらの存在を否定してる訳じゃねぇよ!?」
「そうなったら、確かに最悪の未来になるだろうな。」
そうこう言ってる内に、トリカがクリスとパールの分まで飲み物を買って戻って来た。
「俺のはねぇのか?」
「ハッ、四六時中キャンディー舐めてる奴にジュース飲ませると思うか?ほらよ」
トリカは珊瑚に天然水のボトルを手渡した。
「へッ、そう来ると思ったぜ」
「さてと、こっからは私からでいいな?」
「あぁ。」
「あぁそうだ、因みにあっちで話してるドロマーは、今タワーに残ってる神子石の道具全部作った奴だ。私らが追われる身になった時、監視の目を縫って一緒に来てくれてな。おかげで色々助かってるよ。」
「そんで、本題に入ろうか。あんたらに、エリナをぶん殴る手伝いをしてもらいたい。」
「—―それって、理性の街を、裏切れと?」
「まぁそうなるな。でも安心しろ。この街はもう何年もこのままだし、エリナがあの計画を実行するまではどの道理性の街も本能の街も、大して変わんねぇよ。あれが始まったら全部終わりだからな」
「—――どうする?クリス」
「—―――――パール、とりあえずせーので言おう?」
「そうだね。せーの!」
「「賛成!!」」
「どの道、ライラとルピナスも、救い出さなくちゃいけない。」
「あー、あの2人なら大丈夫だと思うぜ」
「え?」
「さっき昔話で話した翼竜、倒したのライラだからな。」
「えぇ!?」
「なんか、貴方の話を聞いてると絵本の中みたいな話が沢山出てきますね」
「だろ!こいつ変なとこでそういうの持ってんだよ!」
「なんでトリカが自慢げなんだよ」
「とりあえずあんたらの意思は分かった。だったら、私らも全力でサポートする。これからは正式に仲間だし、家族だ!」
「トリカ!!!襲撃だ!!!!」
皆が倉庫の入口を見ると、先程まで居た大柄な男が叫んでいた。
「どうした!!」
「あの石を持った奴らが、大勢襲って来てるぞ!!!!」
「あぁん!!!!??」
「クリス、」
「うん、行こう!」
2人はスクラップの山を滑り降りると、倉庫の入口へと駆けて行った。
珊瑚とトリカも顔を見合わせると、スクラップの山を下りた。
〈本能の街、居住エリア付近〉
「これ、本能の街の奴らにとっても、あの石は敵だって事で良いんだよな?」
カルサイト達は襲撃の報をいち早く受け、現場に駆け付けていた。
(事情はまだ分かりませんが、とりあえず目の前の奴らを片ずけましょう!!)
「ったく、にしても数が多い――!本能の街の連中がこっち側で居てくれるにしたって、さすがに限度があるわ。街1個を襲撃してて、そこに居るほぼ半数がこっちに来てるってのに、なんで相手も減らない訳!?」
カルサイトとゾイサイトは、本能の街のゴロツキと共に、文様付きの神子石を持った集団の対処に当たる。1人1人が神子石を持っているのもあり、ゴロツキ達は苦戦を強いられていた。
「これじゃ埒が明かないわ!!」
「クソが!!」
「皆!!無事??!」
「ん?あぁ、ちょっと手貸してくれ!!」
少し遅れて現場に着いたパールは、咄嗟に押され気味の群れに飛び掛かると、修道服に似た格好の目標達に向かって一斉に結晶を浴びせた。
「くらえっ!!!!」
「「ぎぁぁぁっ!!!!」」
目標は破裂した結晶の破片を一斉に受けると、急所に食らった者から塵となり神子石に飲み込まれて行った。
「どういう事だこりゃ!?人間が石に吸い込まれちまった!?」
「へッ、こういう時テロリストが居ると話が早くて助かるよっ!!」
「それ褒めてる?よっと」
「冗談言ってる場合じゃないよ!って、パール!危ない!!!」
ゾイサイトが叫ぶ頃には、敵の1人がパールに向かって刃を伸ばしていた。だが、ゾイサイトの声で咄嗟にパールが敵を視界に収めると、そこに1筋の屈折が生まれる。
(クリスさんも!!)
≪この状況、積極的に複数まとめて貫きたいが、私は後方支援に徹する。≫
「あぁ。バックが居るだけで安心感が段違いだ。お前ら!!気合い入れろ!!!!」
「「うぉぉぉぉぉ!!!!」」
どんなに睨み合っていても、敵の敵は味方。この瞬間だけは、皆手を取り合い、完璧な連携で、少しずつ的勢力を押して行った。
「くっ、一時退却だ!!あんなのが居るなんて聞いてねぇぞ!?」
鶴の一声で、敵は一斉に引いて行く。彼らは自分達の縄張りを、何とか守り切る事に成功した。
To be continued.




