#31『The Rebirth of Paradise.』
〈本能の街、倉庫跡〉
「......」
クリスとパールは、警戒しながらも、足並みを揃え倉庫の中へと入る。倉庫の屋根は風化し一部が欠けており、そこから外の光が差し込む。2人が中に入り最初に目に留まったのは、布が被さったスクラップの山と、その脇に寄り掛かる大柄な男だった。
「君が私達に用があるって?」
大柄な男は目を瞑ると、スクラップの山の上を指差した。2人が目で追うとそこには、腕を支柱に手に顎を置き、山の上に鎮座しこちらを覗く女性の姿があった。
「よォ、あんたらが噂のがきんちょか」
女性は真っ白な髪を自分の身長よりも長く伸ばしており、前髪は雑にぱつんと切られていた。
「貴方は?」
「まぁ私が名乗ってやってもいいが、あんたの後ろに居る奴から聞いたが早ぇんじゃねぇか?」
2人は咄嗟に後ろを振り向く。そこに居た人物に、度肝を抜かれないはずが無かった。
「なっ!?」
「暁、さん!?」
「......よぉ。」
倉庫の門の陰から出て来た暁は、数日ぶりの再開に、浮かない顔で現れた。
「どういう事?数日家に帰って無かったのってもしかして」
「—―あぁ。ここに居たんだ。正確には、ここに戻って来ていた。」
「戻って来ていた?」
「—――まぁ、色々あったんだよ。そんで驚いてる所悪いが、あそこに居るのはあんたらの祖母だ。」
「—――へ?」
「つまり、俺のパートナーだな。名前をトリカと言う。」
「—―俺は少し外しておく。」
「あぁ。」
大柄な男は倉庫の闇に向かうと、そのまま姿を消した。
「さってっと、」
トリカは長い髪を雑にまとめて結び、スクラップの山から華麗に下りて来る。
暁はトリカの隣に立つと、再び口を開く。
「あんたらをここに呼んだのは、あんたらを説得する為だ。」
「説得?」
「......なぁ、俺らと来る気は無いか?」
「え?」
暁の顔は晴れぬままだった。暁はポケットからキャンディーを取り出すと、それを思いっきり頬張った。
「別にこれは強制じゃねぇし、これに賛同したって何か変わる訳じゃねぇ。ただ、あんたらがどうしたいかが知りたいだけだ。」
「えっと、それって、本能の街で暮らすって事?」
「んにゃ、理性の街にある家に、色々残して来ちまったからな。ライラとルピナスも居るし。要するに、あんたらには俺らの諜報員になってもらいたい。」
「諜報員?」
「あぁ。と言うのも、あんたらが追ってる神子石とは別件でだ。」
「ちょっと待ってください、情報量が多すぎます。順を追ってください」
「—―――それもそうだな。ちょっと焦り過ぎた。」
「良かったらあの上使うか?結構広いし、意外と居心地良いんだぜ?登れたらの話だけどな」
「あぁ。全部話すには立ったままはキツいしな」
4人は勢い良くスクラップの山を駆け上がると、それぞれ光の差す位置に腰掛けた。
「そんで、最初から話すか。こいつは、あんたらがあの高塔に入るずっと前、もう20年近く前の話だ。」
〈二十数年前—――ペグマタイトタワー〉
本能の街が出来る前、俺とトリカは、あんたらと同じく、街の治安を守ってるメンバーだった。
組織名は、「RoP」
Rebirth of Paradise.(楽園の再生)の略だ。
多分今頃鍛冶工房で長話に付き合わされてるカルサイトとマーカサイトも、当時のメンバーだった。
そんでもう1人居てな。カルサイトの姉だ、名は「アラレ」。なんか、ここらの周りは、やたらカルサイトと縁があったな。まぁそれは一旦置いとく。
ある日、街で起きてる事件事故がやたら多くなった。そんで、俺らは手分けしてそれらを対応する事になった。
大きな間違いだった。まぁ、任務が任務だ。そりゃあ死ぬかもしれないなんて場面山ほどあるだろうさ。
アラレが、事件対応に当たってる中、殉職した。
カルサイトは膝から崩れ落ちたよ。だが、そのまま辞めたりはしなかった。現にあっちに居るしな。
ただでさえ人員が足りねぇってのに、募集しようにも訓練施設がある訳でも無く。扱ってる案件が案件だしな。それに―――
あの文様付きの石が見つかったのが、アラレが死ぬ直前だったんだからよ。
そんである日の事だ。地下にある武器庫――多分わかるよな?そこに、隠しエレベーターがあった。
んで、俺とトリカは、好奇心でそれに乗ってみたんだ。軽い気持ちでやったことが、まさかこんな事になるなんて、誰も思わんだろうよ。
降りたのは地下2階。扉を開けて、目の前に出て来たのは―――
沢山の培養カプセルと、その中に満ちる液体。そして、その中に浮かぶ神子石。
「それって!?」
「—――あぁ。」
俺らは人の気配を察し、身を潜めながら奥へと進んだ。そこには、エリナと、知らない老人が居た。
陰に隠れて、2人の会話を聞いてみた時、最初に聞いたのは、
『人間を造って欲しい。』
だった。
―――まぁ、察しが付くだろうな。理性の街の奴らは、少し平和ボケしてる所もある。取り締まるのは俺らしか居ない。なら、どうやって人員を増やすか、どうやって治安維持の効率化を図るか。
やっちゃいけない選択。それを1度選んでしまったのなら、もう後戻りは出来ない。
完全に気配を消してたつもりだったんだけどな。どういう訳か、エリナには『見える』らしい。
『誰だ!!』
当時若かった俺らは、説得できる相手だと思っていた。当然そんな訳ねぇのによ。
倫理と言う言葉を、培養カプセルに閉じ込めてホルマリン漬けにでもする奴らだ。
俺らは晴れて追われる身。馬鹿だぜ、エリナは。下の名前を変えただけで簡単に騙されてやがった。
「名前?」
「—――暁ってのは偽名だ。加賀知珊瑚、これが本当の名前だ。」
俺らはRoPを抜け、カルサイトとマーカサイトにも追われる事になった。当然真実は闇の中。俺らは、あの権力に抗い、真に楽園を再生出来る日を待ってる。
―――そんで、まだだ。俺らは、エリナがあんなことをしてるのを黙って見てる訳にはいかねぇ。
って事で取った手段が、この街だ。
「私がこの街の主。珊瑚と一緒に、私らと同じくどん底に立たされた奴らを沢山募った。」
思ったより沢山居てよ。気付いたら、理性の街を事実上半分乗っ取る事に成功しちまった。これが本能の街が出来たきっかけだ。
なんやかんやあり、俺らの間に、「加賀知セレナ」「加賀知カイヤ」が生まれた。カイヤはあんたらの主。母親だ。
まぁ、若気の至りってやつだ。
「深堀りしないで。恥ずい。」
すまん。
んで、流石に我が娘達に、こんな場所で、貧しい生活を差せるのは酷いと思った。だから、名前を偽り、コソコソと理性の街で暮らし始めた。
2人共頭が良くってな。あんたらが知っての通り、ちょいとばかり名の知れた生物学者だ。
名が知れちまったっつった方が良いか?まぁ、親が娘の出世を素直に喜ばねぇでどうすんだって話だし、それは一旦置いておく。
そんで、完全に想定外の連鎖はこっからだ。
「カイヤは「胡蝶ニゲラ」って言う奴と結ばれ、「加賀知ルチル」が生まれた」
To be continued.




