#30『眠らぬ街と眠れぬ街』
〈理性の街、本能の街前〉
本能の街からの合図を受け取ったエリナは翌日、5人を本能の街へ向かわせた。
「—――なぁ、別に疑ってる訳じゃねぇけどよ、本当に正面から行くのか?」
≪あぁ。恐らく今なら、素直に入れてくれるはずだ。≫
「本当にそう上手く行くかねぇ。先月くらいにシノギだったカジノをあんな滅茶苦茶にしたってのに」
≪まぁ、もしもの時は、こちらから君達の事も見えている。逃げる体力は残しておいてくれ。≫
「はいはい。そういやずっと気になってたんだけどよ、多分物理的にこっち見てるよな?大気でぼやけたりしねぇのか?」
≪神子石製だ≫
「都合が良く簡潔で分かりやすい説明だこった。ハァ、行くぞ、お前ら」
カルサイトが先頭を行くと、4人はそれに続く形で、本能の街へと足を踏み入れた。
〈本能の街、商業エリア〉
入ってすぐは、人気のない建物群があり、それを抜けると、1本道に出た。そこにはひび割れた道路に沿って、両脇に商人らしき人物が並んでおり、道行く人達は、他所者達に冷たい視線を送った。
「—――ねぇ、私達今、敵地のど真ん中を歩いてるも同然よね?どうして襲ってこないのかしら」
「俺らはカチコミに来たんじゃねぇ。それに、下手に騒動起こして、後々なんかで困るのはこいつらなんだろ。だが、警戒しとくに越した事は無いからな。身を護る算段は整えておけ。」
この道は単純な1本道に見えて、横を見渡せばよく見ると、路地の向こうにまた違う道が見える。ここに建っている建物は、住居や公共施設の用途の他に、迷宮の様に侵入者を閉じ込める役割があるようにも見えた。
〈本能の街、居住エリア〉
1本道を抜けると、T字路に出た。
「どっちに行く?」
カルサイトは懐からペンを取り出すと、道路の上に立てた。そして指を離すと、それは左向きに倒れた。
「随分古典的ね。」
「ずっと悩んで決まんないよりはマシだ。それに、どっちが正しい道なのかなんて知る手掛かりは1つも無いしな。」
「まぁ、それもそっか」
一同は左の道を進む。そして、長い道に沿って進んで行くと、今度は十字路が現れた。
「私達、どの方角から来たっけ?」
「確か、今向いてる方角は北だと思います。」
「じゃあ、右だな。」
カルサイト達は東の方向に進むと、再び1本道が現れた。そして、それに沿って進むと、最初のT字路の、進まなかった方の道から戻って来てしまった。
「はぁ?」
「ったく、こんなとこで時間食ってる暇ねぇんだけどな。」
一同は再び来た道を進む。そして、十字路に着くと、今度は正面の道を進んだ。
「さすがにさっき通った道に出る事は無いはずだ。が、次ミスったらあそこ戻りそうだな......」
「ねぇカルサイト、私の結晶とか目印に出来ない?」
「さすがに危険物目印にすんのは色々危ねぇだろ......あー、だったら、」
カルサイトは懐からナイフを出すと、自身の指に切り傷を付けようとした。
「ちょっと!」
「冗談だよ悪かったって。」
カルサイトは、今度はその辺に落ちている石を拾うと、そこに目印を付けて置いた。
「これでどうだ?」
「まぁ、無いよりはマシね。」
一同は十字路の、既に通った道の脇に石を置くと、そのまま奥へと向かった。だが、思ったよりも遥かに早く、あっさりと十字路に戻って来てしまった。
「はぁ?じゃあどうしろってんだ」
「テメェら、こんな所で何してる?」
カルサイトが頭を抱えていると、路地裏からぞろぞろと、武器を持ったガラの悪い男が出て来た。
「その恰好、理性の街の奴らだな。どっから入り込んで来やがった!」
「ハァ、なぁ、奥へ行く方法教えてくんねぇか?こっちは呼ばれて来てんだ。」
「呼ばれて来ただぁ?誰にだ」
「さぁな。少なくとも、今お前らとやりあってる暇はない。」
「あんだとゴルァ!!おいお前ら!!見せしめだ。こいつらやっちまうぞ!!」
「代り映えしない景色に飽きてた所よ。いいわ。かかって来なさい」
「女1人に挑発されるなんざ随分と舐められたもんだなァ?!ぶっ殺してやる!!!」
男達は一斉にメリケンサックやバット片手に殴りかかる。だが次の瞬間、彼らは全員降り始めた小雨を正面から一身に受け、天を仰いでいた。
「なんだこの女—――強ぇ......」
「はぁ、女女って、やめてくれる?」
「くそっ、おい!!お前ら出て来い!!!」
男の内の一人が腹を抱えながら声を上げると、周りの建物の中から増援が現れた。
「チッ、やっぱここでやり合ったのはマズかったか。お前ら、気合入れるぞ。」
5人は一斉に背中合わせで構える。十字路の真ん中、敵に囲まれ睨み合う中、突然別の声が響いた。
「そこまでじゃ!!!!」
十字路の1方、声がした方を向くと、男達は道を開けた。そこから、1人のガタイの良い老人がやって来た。
「全く、こうなるって分かっとったからこっちに理性の住人を呼ぶのは反対したんじゃがの。」
「あんた、誰だ?」
「うちのモンが失礼したの。ワシはドロマー。そこのカルサイトからしたら叔父じゃな」
「—――は?」
カルサイトが目の前の老人の突拍子もない言葉に肩眉を上げていると、老人はマスクを取り素顔を見せた。
「—―はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」
「でかい声を出すな。とりあえず着いて来い。話はそれからじゃ。」
「叔父――?どういう事?」
「まぁその辺も着いてから話す。お嬢さんたちも上がって行きなさい。こんな荒れた街でも、そこそこ美味い茶が飲めるぞ」
一同はドロマーに連れられ、本能の街の鍛冶屋へと向かった。
〈本能の町中心部、ドロマーの神子石工房〉
「ハァーーー」
カルサイトは毒でも吐くかのように大きなため息を吐きながら、胡坐をかき頭を抱えていた。
「生きてたのかよ。」
「生きてた?」
「まぁ、その辺も含めてちゃんと話さんとな。ほれ、茶が出来たぞ。」
「わざわざどうも、いただきます。」
「確か、そちらはマーカサイトじゃったかな。カルサイトが世話になっとるよ。」
「いえいえ!むしろ彼には助けられてばかりなので」
「所で、そちらのお嬢さんたちは?」
「私パール!こっちはクリス!」
「私はゾイサイトです。」
「おい、簡単に名前を言うな。本能の街の中だぞ。」
「でも血縁者なんでしょ?」
「だからと言ってお前なぁ...」
「気にするでない。ワシに敵意は無いし、ワシが誰とも組みたがらんのは、お前も知っとるじゃろうて」
「ったく、んで?ここでなにしてんだよ?」
カルサイトはドロマーが差し出した茶を一気に飲み干すと、茶碗をそっと盆に置いた。
「毒は入ってねぇな。どうやら本当らしい」
「どんな確認の仕方よ。」
「とりあえず、質問に答えてやるとするかの。とその前に、主が探しとったのはお主じゃな?」
ドロマーはクリスとパールの方を向くと、建物越しに貨物倉庫の方を指差した。
「ここを出てあっちに行けば、お前達の目的の人に会えるぞ。ただし、来るのはその2人だけじゃと。」
「あぁ?なんかする気か?」
「何度も言わすながきんちょ。ワシはお前らに敵対する気は無い。」
「—――何かあれば、私が。」
「分かった。3人はここで待ってて」
「—―気を付けてね。」
クリスとパールは工房から出ると、貨物倉庫へと向かった。
To be continued.




