#27『白夜夢』
「実際に確信がある訳じゃないんですけど、分かるんです。妹は人懐っこくて、私もすごく可愛がっていました。ですが、半年程前から、幻覚でも見ているのか、妹の周りで立て続けに、現実離れした事が起こるようになって。例えば、動物が喋り出したり、物が勝手に浮いたり移動したり......とにかく色々で。私の方がおかしくなったんじゃないかって。」
少女は膝の上で体を休める翼竜を撫でながら、淡々と続ける。
「翼竜が現れたのは、妹が行方不明になってから。この子は家の庭から、地に伏しながら、窓をコンッコンッと鼻先で叩いていて。夜中に目が覚めて、コーヒーを淹れようとリビングに来た時に見つけて。それからこうしてずっと一緒に居るんです。翼のここにある模様は、翼竜を拾った時に穴が開いていて。断面が焼けていたので、多分......」
「そうだったんですね...」
「でもどうしよう?目の前に翼竜が居るのは確かで、どうにかしないといけないのは確かだし、」
「......なぁ、妹の事、もう少し聞かせてくれるか?」
「えぇ。構いません。...というか、貴方達は、泣き声の原因を探りに来たのでは?」
「まぁな。でも本筋はちょっとアングラな感じの案件だ。まさにその翼竜に関する。あー、とりあえず、事情は分かった。だから、もう少し話を聞いてから決める。さすがに悩ましい事例だ。」
「そうね。そうだ、入り口近くにあった自販機で何か飲み物買って来ようか?」
「じゃあ俺コーラ。」
「私はミルクティーお願いします」
「貴方も何か要る?喋りっぱなしも疲れるでしょうし、奢るわよ」
「あぁ、ではお言葉に甘えて。麦茶で大丈夫です。」
「分かった。じゃあ買って来るね」
ゾイサイトは懐から財布を取り出すと、カルサイトが勢い良く開けたドアを優しく閉め、一旦その場を後にした。
「えっと、何処まで話しましたっけ。あぁそうだ、妹の話でしたね。」
〈半年前—――〉
身の回りでおかしなことが起き始めたのは、妹が奇妙なネックレスを身に着け始めた時です。
奇妙な出来事の中には、命の危機に瀕する事もあって、妹からネックレスを取り上げようとしたり、外すように言ってもまるで聞く耳を持ってくれなくって。人懐っこかったあの妹は、その時からもう居ませんでした。どうしてこうなってしまったのかは、未だにつかめないでいます。もっと妹と向き合っていれば、悩みがあったのなら寄り添ってあげていたら......そして、堪忍袋の緒が切れた私は、結局力ずくの手段を取る事にしました。その結果、完全に妹には嫌われて、家を出て行ってしまって、それっきり。この翼竜は家に入れた時、私に訴えかけるように、ボロボロの身体を必死に起こして、私に向かって泣き声を上げていました。それこそ、先程貴方達が聞いたよりも、弱弱しい声で。
せめてあの時、妹が出て行ってしまう前に、いや、もっと前。妹が、あのネックレスに手を出す前に、私が何か出来ていたんじゃないかって。だから今は、こうしてこの子を懐に置いて、寄り添ってあげる事しか出来なくて。
『まさか、来ていたとはな。お前達が報告にあった奴らだな?』
〈天文台、エントランス〉
「ん?」
クリスとパールが声のした方を向くと、夜の闇に紛れる黒いスーツを纏った男が居た。
『まぁいい。お前らなど後でどうとでもなる。今は―――』
男が言い終える直前、ゾイサイトは瞬きする内に男の間合いに入ると、懐から取り出したトンファーで突き上げた。
だが、トンファーは空を切り、気付けば男はクリスとパールの背後に居た。
『別に今相手してやってもいいが、お前達にとっては都合が悪いのではないか?要るのだろう?あと2人。』
「クリス!パール!」
「—――分かってる!」
クリスは咄嗟にゾイサイトの後方まで下がろうとする。
『無駄だ。お前が狙撃手だな?』
クリスがゾイサイトの後方に位置する頃には、男はクリスの真後ろに居た。
「なっ!?」
「させるかっての!!」
男が自身の背後から消えたのをいち早く悟っていたパールは、クリスの近くに寄っていた。男がナイフをクリスに向けようとすると、パールは咄嗟に結晶を男の腕で破裂させ、クリスから男を離すと共にナイフを吹き飛ばした。
『小癪な真似を。』
男はもう片方の手で懐から銃を取り出すと、クリスへ向けた。
クリスは男に狙いを定めようとしたが、クリスが振り返った方に男は居なかった。
「なっ」
「クリス!!後ろ!!」
「私を忘れて貰っちゃ困るな!!」
ゾイサイトは男の持つ銃の銃口を真上へと向け、数発発砲すると、そのまま足掻こうとした男を蹴り飛ばした。
「2人共!私は2人を呼んで来る。任せて良い?」
「うん!」
「頼んだよ!」
『させると思うか?』
蹴り飛ばされた男はすぐに体勢を立て直すと、銃をゾイサイトに向けた。
「こっちの台詞!!」
パールはゾイサイトが男を蹴り飛ばすと同時に男に向かって間合いを詰めており、そのまま結晶を銃口に当て破裂させた。弾は軌道を逸れ、明後日の方向へと跳んで行った。
『チッ、』
パールは男と面と向かうと、そのまま四肢から結晶を飛ばしながら、男に物理攻撃を仕掛ける。だが、暗闇と一体化しているのもあり、攻撃が思うように当たらない。
「ちょこまかと――!」
『貰った。』
男がパールの隙に付け入り頭に銃口を向けた、その時だった。
ガタンッ!と言う轟音と共に、男は頭から突き飛ばされ、そのまま窓を突き抜け外まで飛ばされた。パールが振り向くと、銃口を向けるクリスの姿があった。
「っ、へへっ」
「決まったね。」
『くっ、クソぉっ』
呻き声が聞こえ、咄嗟にパールが割れた窓から外を見ると、男は頭を押さえながらこちらを睨みつけていた。クリスがパールの傍で再び銃口を向けると、男はそのまま地に伏した。
「2人とも無事か!!」
「うん。大して苦戦しなかった。」
「敵は何処に?」
「そこに倒れてる。ん?」
皆が2人の傍に駆け寄ると、地に伏した男が真っ黒に染まっており、それは遺灰の如く塵になって散って行くと、そこには神子石だけが残った。
「これは!?」
「......デパートの時、私達2つ拾ったわよね。確か。」
「もしかして―――――」
「—――あの、何があったんですか?」
5人が文様付きの神子石を見つめていると、建物の奥から少女が出て来た。
「......なぁ、こいつなんか言ってたか?」
「うん、まさか、来ていたとはな。って」
「......もしかしたら、あんたを狙ってたのかもな。」
「私—―ですか?」
「あぁ。しばらくここに来るのは控えた方が良いだろう。また似たようなのが来るかもしれんからな。」
「その、何があったのか聞いて良いですか?」
「......奥で話すか。」
カルサイトが割れた窓から外に出て、神子石を拾うと、再び奥の展望室へと戻った。
To be continued.




