#26『夜空を舞う宝石』
〈その日の夜、暁の館〉
「ただいま~」
「あ、おかえりなさい!」
2人が玄関の戸を開けると、ルピナスが迎えてくれた。
「ルピナス!目が覚めたのか」
「あはは、迷惑かけちゃいましたね。」
「ううん、むしろ、迷惑かけたのはこっちの方だから、気にしないで」
クリスは前と同じ笑みを浮かべるルピナスを見て安堵した。そのやや後ろで、パールは少し、複雑な心情を抱えていた。
「その...ごめん、誤解してた。」
「誤解?」
「ん?」
クリスとルピナスはきょとんとした顔でパールを見つめる。パールは我に返ると、なんでもないと言わんばかりにクリスの手を引き、自室へと戻って行った。
「うーん――あぁ!ふふっ♪」
ルピナスは部屋に戻って行く2人に微笑みかけた後、客間へと向かった。
〈ペグマタイトタワー地下1階、作戦室〉
「それで?どんな任務だ?」
銭湯から帰ったカルサイト、マーカサイト、ゾイサイトの3人は、作戦室でマーカサイトから任務の説明を受けていた。
「これから、街の外れにある天文台まで行きます。エリナさんによれば、そこでは夜な夜な、誰かの泣き声が聞こえるとの事で。その天文台はちょっとした有名な場所のようで、噂が回りだしてからは、心霊スポット扱い。余程のモノ好きしか立ち寄らなくなっているようです。」
「えぇ......ついにオカルト的な事まで受ける事になったの?」
「やけにはっきりと聞こえるみたいなので、多分霊的なあれと言うより、所謂ヒトコワ的なものだと思いますが」
「余計嫌だよ!」
「まぁ、とりあえず行ってみりゃ分かんだろ。クリスとパールはどうする?」
「元々今日は休みを取らせてましたし、流石に悪いと思って呼んで無かったんですが―――」
そう言っていた矢先、エレベーターの方から2人分の足音が聞こえて来た。
「あれ、噂をすれば。なんか多いね。こういうの」
「あれ?皆居る。何してたの?」
「あぁ、丁度これから任務でな。来るか?」
「どんな任務ですか?」
〈理性の街南西西部、天文台〉
「こんな所が―――」
木々に囲まれた山道を抜け、街中の光が届かない場所まで来た。森の中に佇むその場所は、当然と言えば当然、そこまで車も止まっておらず、営業しているかも怪しかった。
「ここ、もしかして天文台?」
「はい。どうやらここで、この時間帯になると泣き声がするとの事で。」
「えぇ!?事故物件!?」
「あはは、まぁそうなるわよね。私もさっきなった」
「とりあえず入るか。ふぇぇ、銭湯入ったからか余計肌寒く感じる。」
〈展望台、エントランス〉
「いらっしゃいませ。お越しいただきありがとうございます。」
「あの、エリナさんから頼まれて来ました。」
「あぁ!そうでしたか。では当展望台の案内も兼ねて、移動しながら説明していきますね。」
屋内はガラス張りの天井から差し込む月の光が中を照らし、足元のLEDライトと共に、ノスタルジックな雰囲気を醸し出している。
「こちらの屋根、晴れた日の夜はこうして、折り畳み式の屋根が開き、ガラス越しに星空を観測できるようになっています。夏場なんかはエアコンも効いておりますので、蚊や熱中症の心配も無く、安心して星空を眺める事が出来ます。」
「随分凝ってるんだな。そりゃ人気な訳だ。」
「ありがとうございます。ですがお伝えしていた通り、最近例の泣き声に困っておりまして。お客さんが沢山いらしていた時は、赤子連れの方も来られますし、そう気にならなかったのですが......」
そう言っていた矢先、早速声が聞こえて来た。
「っ、これか」
「ひえっ」
「はい。ですので、こちらの調査をお願いしたく。こうして見ていただける通り、赤子なんてどこにも居ないものですから」
「...とりあえず、マーカサイト、アレの出番だ。」
「はい!」
マーカサイトは探知機を構えると電源を入れ、ゆっくりと周囲に向けて行った。
「反応が合ったら合ったで怖いんだけど...」
「ありました!」
「えぇ......」
マーカサイトが指した先には、灯りの無い廊下があった。
「スタッフさん、あの奥って何があるんですか?」
「あぁ......やっぱりあちらですか。」
「ん?なんか知ってるのか?」
「知ってるも何も......この天文台、1人だけほぼ毎日来られる常連さんが居まして。夜間は大体ここを閉めるギリギリまであの先にある1室におられるんです。そして、あの方が来なかった日は、たまたまかもしれませんが、泣き声がピタリと止んでいて......」
「なるほどな。そんで、何があるんだ?」
「あそこには、天体望遠鏡が置かれたガラス張りの展望室が複数ありまして。このエントランスの様に、屋根が開閉し、普段はプラネタリウムを行っています。」
「なるほど。とりあえず行ってみよう。」
泣き声が再び聞こえ始める。それは廊下の奥へと進むにつれ、だんだんと大きくなって行った。だが、あるタイミングを境に、口を塞がれたかの様に、泣き声が曇ってしまった。
「曇った?」
「まぁ、見れば分かるか。」
「ん?そういやクリスとパールは?」
ゾイサイトが振り返ると、2人はガラスの天井から空を眺めていた。森に光が遮断されている分、街中では見えなかった小さな星も良く見える。
「へッ、元々休みって言ってたしな。好きにやらせてやれ。」
「それもそうですね」
「それはそれとして、仕事とプライベートのメリハリは付けろって言いたいが。まぁ、昼間あんな事があったんだ。目を瞑るとしよう。」
3人は廊下の一番奥まで辿り着くと、音を立てぬように静かに扉を開く。
「~♪ん?ひっ!?」
「っ......!!!!!!????」
カルサイトは目をかっ開いた。室内には長い三つ編みをぶら下げた少女。そして、その後ろに居るのは。見紛うはずも無く、姿形は小さけれども、そこに確かに、はっきりと実態を持った翼竜が居た。
「てめぇ!!そいつから離れろ!!!!」
カルサイトはドアを思いっきり開けると、室内に飛び入り、その場で構えた。
「待って!話を聞いて!!」
カルサイトは聞く耳を持たず、翼竜へ飛び掛かろうとする。だが、それは後方からの一声により止められた。
「待ってカルサイト!」
「あぁ?なんでだ!」
「よく見て」
カルサイトは改めて少女の方を向く。少女の後ろ、机の上に立つ翼竜は、少女の背に胴を隠し、怯えていた。
「ハァ、あのなぁ、幼体だからって油断してたら」
「そうじゃなくて、話くらい聞いたら?って」
「......ハァ、すまん、頭に血が上ってた。聞くくらいはしてやる。」
「はぁ......とりあえず、皆さんそちらのソファーに掛けてください。話すと......長くなるので。」
(潰れたような鳴き声)
「...!この声って」
「噂は聞いてます。この子が、その噂の正体。」
「なるほどね。とりあえず、カルサイトがキレてた理由を話しといた方が良さそうね。その翼竜は、本当に危険な存在なの。例えるなら、熊と同等かそれ以上に。私達は、それに関連する事象を収める仕事をしてる。だから、カルサイトは貴方の安全を確保するために、突っ込んで行ったって訳。」
「......」
「ちょっと、いつまでも拗ねてないでなんか言ったら?」
「っせぇ。」
「えっと、なんとなくは分かりました。でも、事情を話せば、納得していただけるのではないかと......」
「事情と言うのは?」
「この子、私の妹なんです。」
To be continued.




