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#25『飛ぶ鳥落つる豪濫』

「おい、どうなってんだよこれ!?」


「私に聞かれても困るって!水道が逆流し過ぎて壊れたとか!?」


「とにかく上に昇りましょう!!」


一同は全速力で階段を駆け上がる。尚も波は勢いを増し、留まる事を知らない。



〈デパート、駐車場〉



『えー、こちら中継。現在、原因不明の浸水事故が発生しており、窓や非常口なんかも、開ける事が難しくなっている模様です。』


「そんな事あるか?魔法じゃあるまいし」

「なぁ、屋根の上、なんか居ないか?」

「本当だ。あれ誰だ?」


デパートの周辺には既に報道陣や救助のヘリが迂回しており、中の様子を映している模様。


『......目障りだな。』


『片してしまいましょう。』


屋根の上、2人の内1人が片手を上げ、神子石を掲げると、そのまま地に振り下ろす。

曇り空はより分厚くなり、雨が降り始める。だがそれは、文字通りの槍の雨とも言える程のものだった。


『建物には当てるなよ。』


『分かっている。あくまで結界の様なものだ。対して厚くせずとも、この量なら視界を塞ぐのには十分だ。所で、どっちがいい?』


『どっちとは?』


『水圧と溺死。』



〈デパート4階〉



ついに4階まで波が押し寄せて来た。客は全員パニック状態。マーカサイトの声以外、まともに連携も取れやしない。


「チッ、どうする?」


「......策はある。」


「すまん、なんて言ったんだ?」


(策はある。だそうです。)


「わり、そこの奴らがうっさくてよ。気持ちは分かるがな。」


そうしている間にも。呼吸が出来る場所が少しずつ無くなって行く客の中には何人か失神した者もおり、もう時間は残されていないようだ。


(策というのは?)


「...チャンスは1回だけだ。それと、この屋内が完全に水で満たされる必要がある。」


(えぇ!?)


「......まぁ、それしかなさそうだな。よし、賭けてやる。」


カルサイトは同意すると、水が満ちるまで体力を温存し、肺になるべく酸素を送り込んだ。


「お前ら、気合入れろよ。出れなかったらなんて考えるな。いいな?」


「えぇ。」


満ちた。隙間やくぼみにすら空気はない。一同が一斉に潜ると、クリスが4人を誘導する。そして、3階から屋根のガラスが見える位置に来ると、クリスは上を向き背中を丸め、脱力した。


(それで、策と言うのは?)


(......)


クリスの視線に、パールは察したのか、クリスの上まで移動し、膝を曲げクリスに足裏を向けた。


(私が皆と会った時、持っていた銃覚えてますか?)


(あぁ、あれな。俺ら誰一人あの銃の反動を抑える事が出来ねぇから、倉庫番してた奴だ。そういやお前、あの銃の反動を受け切ってたよな。どうやったんだ?)


(あんまり息が持たないから、なるべく手短に頼める?)


(それもそうか。とりあえず、2人に任せる。)


(パール、)


(大丈夫、ちゃんと伝わってるから。)


クリスは懐から、弾丸を2発取り出すと、パールの足裏に向けた。


(それは、あの銃の弾ですか?)


(たまたま持ってて良かった。銃は無いけど、これがあれば十分。行くよ、パール。)


(うん!)


パールは足裏に結晶を1つ置く。


(危ないから皆は離れてて)


3人が階段の裏に移動したのを確認すると、クリスとパールは目を合わせる。そして、クリスはパールの足裏に狙いを定めると、弾丸を手から離した瞬間に、素早く裏側を強く弾いてみせた。


弾丸の先端は平たく、パールの足裏の結晶に命中すると、そのまま破裂の勢いを乗せ、パールは一瞬にして屋根まで持ち上がる。


「一か八か!!!!ダメ押しだ!!!!!!」


パールは左手の指の間に結晶を挟むと、屋根の硝子を蹴り上げると共に結晶で殴ってみせた。


バキッ!!!!


『なっ!?』


一筋の閃光、共に鳴る破砕音。潜ってそう時間は経っていないが、地上の空気がとても有難く思える。


『バカな!?この建物はダイヤより硬くしたんだぞ!?』


「......雨の音がうっさいからか水が耳に入ってっからか分かんないけど、」


パールは高く跳んだまま屋根の上に立つ2人組を視界に捉える。


「お前らが敵で良いんだな?」


『おい、どうすんだ』


「デートを台無しにされた恨み!!晴らさせてもらうぞ!!!!!!」


パールは落下を始めると同時に、なるべく沢山の結晶を生み出し放る。


『屋根の硬化を解除しろ!!』


建物を水浸しにしていた男が叫ぶと、もう1度神子石を掲げた。すると、外側にだけ振っていた雨が、建物に向かって降り始めた。


「痛っ、」


パールが雨に撃たれた肩を見ると、服が裂けていた。


「チッ、さっさと終わらせる!!」


パールと放り投げた結晶が一斉に屋根に着地し、結晶が全て破裂する。屋根のガラスは全て割れ、そこには大きなプールが現れた。


『ハッ、残念だったな、水中はこっちに理がある。』


パールが雨から逃れる為に潜ると、それを追う形で1人が潜った。


「水中に理があんのは、テメェらだけじゃねぇんだよ!!!!」


パールが男に追いつかれそうになる直前、拳が男の視界を塞ぎ、そのまま突き上げると、その拍子に雨が止んだ。だが、男は拳を受けた瞬間にカルサイト達から距離を取った。


『ぐがっ!?』


「マーカサイト!!!!」


(はい!!)


マーカサイトが1階まで潜って行くと、メガホンを水面へと向ける。


「—―――!!!!」


音の波は水の流れを生み、気絶している客達が屋根から外へ流されて行く。


「救助は私に任せて!!」


ゾイサイトは懐から大きな網を取り出すと、屋根の上へと昇り気絶している客を1人ずつ引き上げた。


『させるか!!』


水面に浮遊するもう一人が、今度は屋根を脆くすると、ゾイサイトが足を滑らせそうになる。だが、ゾイサイトの脚が再び水に落ちる前に、男の神子石を持つ腕を弾丸が貫通し、建物を固めていた力が一斉に失われると、クリスとパールがヒビを入れていたガラスと言うガラスが全て割れ、水が外に噴き出して行った。。


『なっ!?』


そのままカルサイトが撃たれた男に向かっていくと、首を締め上げ気絶させた。

やがて建物を侵していた水が全て外に出ると、もう1人の逃げ道が完全に無くなった。


『く、来るな!!』


「もう終わりだ。」


男は後退りすると、何かに気付いたように笑みを零し、後ろに居たパールを捕らえ懐のナイフを向けた。


『こっ、こいつがどうなってもいいんだな!!』


パールはきょとんとしていた。その場に居た一同も同じ表情をしており、パールは結晶を1つ出すと、それを男の顔の前で弾いた。


『がぁっ!!?』


男はあっさりその場に倒れると、そのまま意識の底へと落ちて行った。


「ハァ......ったく、服がびしょ濡れじゃない。風邪引いちゃう......」


「まぁ、こんだけの事をする相手だ。尋問するにはもってこいじゃねぇか?」


「それもそうね......ん?」


ゾイサイトが気絶している2人の方を見ると、2人の姿は無かった。


「あれ、パール、そいつらは?」


「え?」


パールが振り返ると、そこには2つの大きな文様付きの神子石だけがあった。


「......」


「ハァ、結局収穫なしか?いやまぁ、無くはないが無いのと一緒か。」


「そうでもないんじゃない?あれ、私達が集めてたのよりずっと大きい。」


「確かに。俺らが使ってるのも、あのちっこいのと同じサイズのを複数使ってる奴だもんな。」


「まぁとりあえず、持って帰りましょ。ほんと最悪。」


「折角ですし、どこか銭湯にでも寄ります?」


「それ名案!2人も来る?」


5人は結晶を回収すると、その場を後にした。


―――—――


≪速報です。デパート内に監禁されていた人たちが、たった今解放されたとの事です。また、この件に関して、事件の可能性も考慮し、今後も調査を続けると―――≫


中から水が飛び出した後、それらは駐車場の車を軽く押し出し、コンクリートに浸み込んで行った。そして、報道陣は中の安全も確認せず、建物へと入って行く者も居れば、目を覚ました人々に詳しい話を伺う者もいた。

閉じ込められていた人々は次第に目を覚まして行き、幸い犠牲者は出なかった。


『—――実験は失敗に終わったか』


『—―いえ、成功です。あいつらは、結晶に飲ませておきました。』


『アフターケアも完璧だな。これからも期待している。』


『......仰せのままに。』


  To be continued.

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