#24『不動沈下』
≪お客様にお知らせします。現在、施設内の全ての水道が逆流しております。屋内に居られますお客様は、速やかに屋外へ避難すると共に、安全を確保してください。≫
「え?」
館内放送は居合わせた2人も当然耳にしていた。
「パール、これ――」
「ちょっとニオうね。調べに行こう。全く、折角楽しくデートしてたのに―――」
「ん?今なんて―――」
「な、なんでもないよ!早く行こう!」
2人は出口へ向かう人込みに逆行し、水源へと向かって行った。
〈デパート2階、W.C〉
2人が着く頃には既に水が外まで漏れ出ており、それは想像よりも速い速度で進行を始めていた。
「思った以上だね。でも、沈んだりする程かな?」
「見て、クリス」
パールの呼びかけに応え駆け寄ると、1階の床が既に水深20cm程の水で覆われていた。
「あぁ、納得した。入口は開いて無いの?」
「見て、」
パールはクリスに色を与え、入り口付近を見せる。デパート内の客が全員そこに集まっているが、全員そこから出る気配が無い。
「—――まさか、」
「私たち全員、閉じ込められた。」
「くっ、」
「急ごう、片っ端から窓とか扉、開けれる場所が無いかこの階から見て回ろう。」
「うん!」
2人は左右に分かれると、ガラス張りの場所全てを調べて行った。だが、1つとして開くどころか、まるで完全に錆び付き風化しているかのように、クレセント錠の操作すら出来なかった。
「くそっこうなったら!」
パールは窓から少し離れ、結晶を思いっきり投げつけてみた。確かに結晶は破裂した。確かにヒビが入った。だが、それが外まで届く事は無かった。
「はぁ!?」
「パール!こっちも駄目!割る事も出来ない!」
「—――へぇ......」
〈デパート1階、メインフロア〉
「見つけた!!」
ゾイサイトがターゲットを視界に捉えると、カルサイトと共に咄嗟に間合いを詰めた。既に水深は踝のやや上まで来ており、靴下の踏み心地は最悪だった。
目標は追って来る人から逃れようとしたが、駆け出す間もなく浸水に足を取られ、あっという間に距離を詰められた。
「少し眠っててもらおうか!!!!」
ゾイサイトが目標に手刀を当てると、目標はあっという間にその場に倒れ水しぶきを上げた。
「身柄確保—――え?」
しぶきと波が収まった直後、ゾイサイトは自身の手に掴んでいた目標の感触が無い事に気付く。
「逃げられた!?」
「...神子石の持ち主なら有り得るな。だが厄介な事になった。」
(探知機の反応も消えました......どうしましょう......)
「あー、とりあえず、客を全員最上階に向かわせよう。」
≪お客様に、再びお知らせします。現在、何らかの要因で、正面の入口が機能しておりません。また、本建物は頑丈に作られている為、破壊も困難です。状況が落ち着くまで、なるべく上の階への避難をお願いします。≫
「貴方達!!皆上へ!!」
「「あ、あぁ!!」」
マーカサイトの館内放送のお陰もあり、皆素直に上へ昇って行った。
「後は―――あ、そうだ!エレベーター!!人が居るかも!!」
「あぁ、頼めるか。俺もアイツを探しながら逃げ遅れが居ないか探す。クソが。随分派手に挑発してくれるじゃねぇか。」
(私も出来る限りサポートします!)
3人は一旦別れると、客の安全の確保を目指した。
〈デパート、屋根上〉
『あぁ。その調子だ。どんどんメンタルを使って行け。そしたらやがては――ヒヒッ、ひび割れたガラス越しに、血まみれの拳を振り回すお前達の顔を、このガラス張りの天井から見ててやる。看取られる人が居るって良いよな?お前らはそうやって死ねるんだ。感謝しろ』
〈デパート3階〉
クリスとパールは建物にある全ての出口になりうる場所を調べた。だが、1つとして外には通じなかった。
「マジ?」
「死ぬには早すぎるって。冗談キツいよ」
「諦めるのは早いよ。何か方法があるはず......」
「うん、うん?ねぇ、あれ!」
「ん?」
2人が3階から中央の階段の下を見る。そこから見える1階の階段、1階をほぼ沈めた水面の近くに、見覚えのある人影があった。
「行こう!」
2人はそそくさと階段を下りて行きながら、彼女へ向かって呼び掛けた。
「マーカサイト!!」
「ん?えぇ!?お二人共来てたんですか!?」
「凄い偶然!って、素直に喜べる?これ」
「まぁ、希望ではあるね」
「今カルサイトさんとゾイサイトさんと、避難誘導していた所なんです。」
「なんだ、皆居るんじゃん。もしかして3人も休日邪魔された感じ?」
「まぁ、実質そうなりますね。」
そんな話をしていると、水面からゾイサイトが出て来た。
「っはぁ!!はぁ......ん?」
ゾイサイトは真っ直ぐ階段の方へ泳いでくると、髪をかき分けて視界を確保した。
「あれ、2人共来てたの?」
「あぁ、あはは、」
「カルサイトさんにも共有しておきますね」
マーカサイトは片耳に手を当てると、カルサイトの居る方向へ信号を送った。そう時間の経たない内に、彼は水面から出て来た。
「っあ"ぁ"!!!!」
「なんか、やけに声濁ってない?」
「はぁ、あ、そうだ、私達の能力について言って無かったね。」
「今はダメだ。あいつがどこに居るか分からん以上、迂闊に手の内は見せないようにすべきだ。」
「あぁ、それもそうね。」
(カルサイトさんは神子石の力で半分不死身みたいなもので、人知を超えた動きなんかも出来ちゃいます。ゾイサイトさんは神子石を使った小道具を使いこなすのが上手で、その秘密は大体彼女の身体能力にあります。まぁ、要はフィジカルです。)
「あれ、なんか言った?」
「気のせいですよ!えへへ......」
「なるほど、」
「そういやさっき上で爆発音がしたのってパールか?」
「うん。窓を割れないか試してみたんだけど、この建物、出口になりそうな場所全部、外側から固められたみたいに穴すら開かない。」
「そうか......やっぱ閉じ込められてるよな。っと、もうこんなに沈んでんのか。3階で話そう。そこなら人込みも浸水もあんま無いだろ。」
潜っていた2人が服から水分を絞ると、一同は3階へと向かった。
〈デパート3階〉
「とりあえず状況を整理しよう。建物の全ての水が通っている場所から水が噴き出していて、出口になりうる場所は全て操作も破壊も不能。客は全員4階に避難していて、今浸水は2階の中腹くらい。敵はあの文様付きの神子石を持っている。」
「ねぇ、推測なんだけどさ、もしかしたら2人居るんじゃない?」
「...どういう事だ?」
「皆の力を聞いた感じ、能力は1人1つだと思ったんだけど......」
「—――確かにあり得ますね。何らかの形で建物を外から固めている者とこの浸水を起こしている者」
「はぁ......ったく、どうしたもんかね。」
「対処法が思いつかない以上、迂闊に体力を使えませんし―――どうしましょう?—―――――ん?!」
一同は下の階を見る。緩やかだった浸水速度が、急激に速くなって行き、波も荒々しくなって行っていた。
To be continued.




