#22『臓器くじ』
〈小雨、????、路地裏〉
ひび割れた壁、元々どんな姿だったかさえ分からない大きな木片、案外整備された小道。
男は慣れた足取りで、その道を進む。人の気配は無く、少し離れた場所から微かに人々の足音が聞こえる。
「......」
男は立ち止まると、背後からの気配を感じ取る。
『......』
「別にお前に怒っている訳じゃねぇ。そうだとしても、今はそんな気分じゃねぇ。失せてくれ。」
『...私は、人だった頃の記憶は無く、ただそれは、事象として私の頭脳の奥底に眠っています。ですので、今のあなたの心情を察する事は出来ません。ですが―――』
依然として背を向ける男を前に、彼女は続ける。
『ルチルさんの事、メアさんの事、そして、ルピナスさんの事。あなた一人に、背負わせ過ぎてしまった事。それは確かな事です。』
「......お前は、何者なんだ?信仰の対象ってだけじゃねぇ。じゃあなんだ?この島を護る存在。本当にそれだけか?」
『......その質問には、お答えできません。』
「......そうかよ。じゃあ、エリナは知ってんのか?」
『ええ。ですが、彼女は口を割らないでしょう。』
「計画的犯行って訳だな。そいつは、要するに、何かの犠牲無くては成し得ないもの。それの犠牲が、俺の周りから出てる訳だ。」
『......』
「カイヤを守ってやれなかった。ルチルもメアもどっか行っちまった。お前は、なんでそこに何食わぬ顔で居やがる?」
『......』
ヤグルマからの答えは無い。
「...悪い。最初に言ったが、別に責めたい訳じゃねぇんだ。」
『...私は、この島の生命、事象、その全てを記録する媒体の様なものです。』
「...は?」
『記録し、時に、その形を変化させる。大災害が起こって、それを消滅させるのに先代の全て、その復元の為には、この両足と、左腕を使いました。この島で起こる事象は、言ってしまえば、魔女の存在でさえも、私が消す事は理論上可能です。ですが考えてみて下さい。もし、あなたの知りもしない、どこか遠くの人間の命で、貴方が救われるとしたら、その救済を貴方は、受け入れられますか?』
「......何が言いてぇ」
『...人造人間と言う存在、そして、魔女と言う存在。代償とその見返り。』
「っ...!?」
男は唐突に逆鱗を掴まれた様に、胃が締め付けられる。代償と見返り。例え得られたとしても、失ったも動議。
『本来、どちらも理に反する存在。貴方も、分かっているはずです。』
「......へッ、そうすりゃ、効率よく一気に面倒事が片付くって訳かい。クソが。だったら、残された奴らはどうなる?俺だけじゃねぇ。ライラもルピナスも、それに向き合わなきゃなんねぇ。」
『......?あなたはどうして、ここに居るのですか?』
「......は?」
『私は復元したこの街の事をよく知りません。復元してからの出来事しか記録出来ていないので、貴方の来歴は私の記録には無いのです。貴方がどんな人かも。ですので、貴方の深層心理を理解する事は出来ません。』
「チッ、会話のテンポが悪い野郎だな。だったら教えてやるよ。」
男は歯を食いしばり、自身の胸を掴みながら振り返る。
「俺はなぁ!!てめぇのせいで多くを失った!!!!その見返りが何だってんだ!!!!それだけじゃねぇ!俺はその間何してた?あいつらに何かしてやれたか?ノーだ!!俺はいっつもそうだ!!何かを失う時、それは必ず俺の目の前で消えて行きやがる!!!あと1歩飛び出せていれば!!救えてたかもしれない命だ!!!!俺はそんな奴らを救う事さえ出来ない無力なゴミなんだ!!!!!それなのに立ち上がろうとした瞬間にこれだ!!!今度は俺が掴もうとしたチャンスをテメェが奪いやがった!!!!俺が何したってんだよ!!!!」
『暁さん......』
「......ほっといてくれ。」
暁と呼ばれた男はさらに背中を丸くすると、両腕をぶら下げながら彷徨う様にその場を後にした。
〈ペグマタイトタワー、最上階〉
「そんで、何の用だ?」
エリナに連れられ最上階に来たカルサイトは、エリナから手紙を渡された。
「...これは?」
「私宛に来たものだ。」
カルサイトが手紙を開けると、そこには見覚えのある筆跡で文字が綴られていた。
―透輝エリナ―
お前らが直面してる問題に関して、俺は少し気になってる事がある。だから、俺はこの街から消える。
これは、あくまで敵の敵は味方理論だ。お前の行いは、決して許されるものではない。まぁ、今の俺の言えた事じゃねぇが。
とにかく、もし何か分かったら東の方角から、光を送る。そん時はお前のとこの奴らをこっちに寄越せ。
見逃すなよ。
他にも言いたい事は山程あるが、全部後だ。事態は一刻を争うからな。
―加賀知珊瑚より―
「...生きてた......のか!?」
「あぁ。そして、恐らく私はつい最近会っている。まさか珊瑚だったとは......」
「......だが、この内容を見る限り、あまり喜べないかもな。」
「......そうだな。とりあえず、近日中にもしかしたら、本能の街に向かわせる事になるかもしれない。構わないか?」
「...あぁ。用は終わりか?」
「...もう1つある。これが届いたのなら、言っても良いかもしれんな。」
「なんだ?」
「クリスと、パールの事だ。」
〈??????〉
「今日は10人、明日は6人。順調だ。全ては計画に沿って確実に進められている。少しずつ、少しずつ。大丈夫だ。まだ気付かれていない。まぁ、今更気付かれた所で、どうとでも出来る。そうだろ?」
暗闇へ祈りを捧げる者が1人。暗闇の奥、人の目に映らぬ場所から、微かに響く声。
『神子はどうしている?』
「...分からない。だが、いつ現れても良いようにはしてある。」
『—――そうか。』
依然として変わりない暗闇。その奥、地の底から、祈る者の見知った顔は姿を見せる。
『少し老けたか?』
「ハッ、同い年だろうが」
毎度久方ぶりに顔を見せる彼は、祈る者の偶像として、神託を与えるかの如く、結晶を彼に手渡す。
『私が居ない間、お前には寂しい思いをさせてしまったな。』
「いいんだよ今更。過去は所詮過去でしかないし、「今」、まさにお前は俺の前に居る。だったらこれ以上何を望む必要があるんだ?」
『フッ、そうか』
「分かったらさっさと引っ込め。今のお前が見つかれば、折角のサプライズが全部台無しになる。」
深淵から覗く顔は再び地の底へと還ると、祈る者は結晶を握りその場を後にした。
To be continued.




