#20『フラッシュバック』
〈数刻前、ペグマタイトタワー、頂上〉
「ん?」
エリナが窓の外を眺めていると、エレベーターの扉が開く。エリナが振り返ると、そこにはクリスが居た。
「あぁ、君か。ここに何の用だい?」
「...私も、パールと共に行く。」
「悪いがそれは出来ない。私は、君が生きて帰れる保証が出来ない。」
「...私は、それでも、行く。」
「口だけではなさそうだね。だが、これは正真正銘、命に関わる。私のひと声で、人の命を脅かす真似はしたくないのだよ。」
「......」
(とりあえず、エリナに会ってこれ渡せ。そしたら大体何とかしてくれるだろ。)
「......ん?その手に持ってるのは?」
「あぁ、これは、暁さんから、貴方に渡せと言われたものだ。」
クリスはエリナに近付くと、それを手渡した。封蝋で丁寧に閉じられているその手紙を、エリナは受け取ったその場で開く。エリナは中の手紙を見るなり、思わず驚愕の声を漏らす。
「......そうか。」
「何が、書いてたんですか?」
「気にするな、こっちの話だ。それに、」
「いずれ分かる事になるだろ。いいだろう。一緒に来るといい。」
クリスはエリナに連れられ、地下階へと向かった。その時のエリナの足取りは、どこか重くなっているようにも見えた。
〈ペグマタイトタワー、地下1階、武器庫〉
「こんな所が...」
「パールの他にも、3人程居る。君にはこれから、その子達とも共に戦う事になるだろう。皆はついさっき出発した。今からでも追いつけるだろう。」
「パールは、ここに居るんですか?」
「あぁ。どうしてだい?」
「実は数日の間、連絡も無く、家に帰って無かったんです。」
「そうか......安心して欲しい。彼女なら元気だ。」
「良かった...」
エリナは武器庫の奥から埃を被った重い箱を取り出すと、それを机に乗せた。
「手紙を読んだ所、君は瞬間的に体の機能を強化できるという認識で合っているね?」
「はい。」
「だが、接近戦だと無駄な体力を消耗してしまう。持久戦には向かないと。」
エリナは箱を開けると、大きな蓋を床に放った。
「これは......」
「その力、これに活かせないか?」
〈理性の街南西部、貨物倉庫群〉
一筋の光の屈折、まるで光線銃でも撃たれたような弾道が消えると共に、翼竜は水溜まりとなり消えて行った。カルサイトとゾイサイトはしばらく身構えていたが、翼竜の身体が再生する事は無かった。
「...なんだったんだ?」
「今の、あっちの屋根...あの人誰?」
「......なんで―――」
屋上で銃を構えていた少女は、自身の身長程ある銃を折り畳むと、屋根の脇にある梯子を滑り降りた。
パールは目の前で起こった事が未だに理解出来ず、それが自分の中の混沌とした感情と入り交ざり、誰とも目を合わせる事が出来なかった。
「パール!!」
梯子を下りたクリスは、すぐにパールの方へと駆け寄る。
「怪我は無い?大丈夫?」
「......」
パールから返事は返って来なかった。彼女は俯いたまま、クリスに背を向け、その場から去って行った。
「あっ......え..........?」
「......」
その場に居合わせてしまった3人は、ただ、去っていくパールを眺める事しか出来なかった。
張り詰める空気の中、最初に足が動いたのはマーカサイトだった。
「あ、私、先帰ってます!」
マーカサイトはパールの後を追う様に、その場を離れた。
「どういう事?何かあったの?」
「あー、昨日だか一昨日だか、パールが深夜にこっち来たことあったな。マーカサイトとなんか話してたっぽいが、何話してたかまでは俺は知らねぇ」
「ふーん...そこのあなた名前は?」
「え?あぁ、クリスです。」
クリスは唖然としている中、唐突に響く横からの声に軽く驚く。
「クリスさんっていうのね!さっきは仲間を助けてくれてありがとうございます」
「あの子は、私にとって、妹みたいなものだから。」
「妹...?」
「えっと、貴方達が、パールの仲間で良いんですよね?」
「まぁ、そうなるな。あんた何モンだ?」
「今日から私も一緒に任務に就くことになりました。よろしくお願いします。」
「......え?」
〈ペグマタイトタワー、地下1階、作戦室〉
「マーカサイトとパールはまだ帰ってないか―――まぁ、とりあえず紹介しよう。」
エリナはクリスを隣に立たせる。クリスはどこか落ち着かない様子で、平静を装いつつも目を泳がせている。
「なんで転校生みたいなノリになってんだ?」
「まぁまぁ、こういうのはそれっぽくした方が良いだろう。と言う訳で、この隊に新しく人を入れる事になった。クリスと言う。」
「先程軽く言いましたが、クリスと申します。」
「彼女、実は色盲でね。前線ではなく後方からの支援が主になる。仲良くしてやって欲しい。」
「そうなの!?まぁ、ここに入れるって事は、それだけの力があるって事よね。よろしく。私はゾイサイト。こっちのはカルサイト。ちょっと怖そうに見えるけどそうでもないから、仲良くしてあげてね」
「あぁ?」
「そういうところよ。」
「今のはテメェが吹っ掛けたんだろ!」
「まぁまぁ、そうだ、カルサイト、大事な話があるから後で最上階に来たまえ。」
「んぁ?あぁ。」
「日頃の行いかしら?」
「っせぇ!!!!」
カルサイトはそう言うと、部屋を出て行った。エリナも後に続き、部屋にはクリスとゾイサイトが残った。ゾイサイトがクリスに部屋の案内をしようとした矢先、会議室の自動ドアが開く。
「ん?忘れ物?」
ゾイサイトが振り返ると、そこにはパールが居た。
「パール......?」
「......クリス。」
「...どうしたの?パール」
クリスがパールに近付いた時から、明らかに様子がおかしいパールに、クリスは戸惑っていた。
(もしかして、嫌われた?じゃあなんで?どうして心当たりが無いの?—――)
「......来て。」
「あぁ、うん。」
パールと目が合わない。あの鮮やかな景色を見る事、モノクロの世界から出る事を、パールから拒否されて居るかの様だ。クリスとパールが部屋を出ると、気まずそうに立ち尽くすゾイサイトが残った。
「......と、とりあえずこういう時って、部屋の片づけでもしとけばいいのかな?」
〈数刻前、理性の街南西部、防波堤〉
「パールさん!!」
パールの後を追って辿り着いた先は、貨物倉庫からそう遠くない防波堤だった。
「......」
「...パールさん......」
「...やっちゃった。何も出来なかった。」
「突然の事だったんです。仕方ないですよ」
パールはテトラポッドに当たる波を見ながら、肩を落とす。マーカサイトはパールと一定の距離を保ちながら、パールの様子を窺う。
「おい!居たぞ!!」
「え!?」
マーカサイトは咄嗟に振り返る。そこには先程戦ったスーツの男と同じ格好をした男達が、鈍器を持って現れた。
「しまった!増援!?」
「はぁ......」
(これ以上パールさんに負担をかける訳には...でも、波の音でメガホンの性能を完全に発揮できそうにないし―――)
そう思った矢先マーカサイトの背後から、無数の結晶が増援へと跳んで行った。
「ぐあっ!!!!」
男達は結晶の風圧に吹き飛ばされた後、数人が立ち上がる。パールはマーカサイトを横目に前に出ると、再び無数の結晶を生成した。
「パールさん......?」
「...人が悩んでる―――」
パールは結晶を思いっきり振りかぶると、増援の残った男達を睨みつけた。
「途中でしょうがぁーーーーー!!!!!!」
男達に辿り着く途中で破裂していく結晶の中には、数個の軽い岩が混ざっており、それが男達の顔面にクリーンヒットすると、彼らはそのまま意識の奥底に沈んで行った。
「はぁ......」
「パールさん、すみません。私が不甲斐ないばかりに...」
「ううん、マーカサイト、」
パールはマーカサイトの方に振り返る。その顔には、少しだけ笑顔が戻っていた。
「なんか、ちょっと楽になったかも。ありがとう。はぁ、もっかいやってみる。」
「パールさん......!」
「帰ろう!大分待たせちゃってるだろうしさ」
「そうですね!」
2人は気絶している刺客を放置して、そのままその場を後にした。
To be continued.




