#15『大番狂わせ』
パールが地面に着地する頃には、辺りはシャンデリアの火が広がり始めていた。ゾイサイトは咄嗟に駆け回り、窓を叩き割ると、煙を外に逃がす。パールもそれに気付くと、あっと言う間にその階の窓が全て砕けた。
「......」
カルサイトはシャンデリアの落ちた中心を見つめる。
(カルサイトさん...)
「......あぁ。」
「もしかして...殺しちゃったの?」
「いや、取り逃がした」
「嘘...!?どうやって」
「さぁな。とりあえず護衛は縛った。後は吐ける情報があるかだな...」
「吐かせようって...拷問でもするの?」
「まぁ話は後だ。とりあえず撤退してな。これ以上居たら煙で窒息する。それとマーカサイト、」
「はい」
マーカサイトが護衛の身柄を確保すると、ゾイサイトとパールを見送った。
「あれ、2人は避難しないの?」
「私達、表立って活動してる訳ではないので、私達が居たという証拠が残らないように、証拠隠滅をカルサイトさんに任せてるんです。」
「はぁ.....1番古株と言っても、1人で勝手に行かないで欲しいんだけどね。」
「では2人共、一足先にお疲れ様でした!」
錆びた扉から2人を見送ると、マーカサイトは扉を閉め、再び柱の陰に隠れた。
〈カジノ、3階、VIPエリア跡〉
「さてと......おい、その石の力にも限度がある。命が惜しいならさっさと出て来い。」
カルサイトはシャンデリアに向かい声をかける。少し経つと、突如として銃声が響き、弾丸が彼女の周囲の炎を掻き消した。彼女は炎の中から、煤まみれのドレスを纏いながら出て来ると、機関銃をカルサイトに向けず、そのまましまった。
彼女は周囲を見渡す。変わり果てたフロアを見渡した後、カルサイトが投擲した結晶を投げ返した。
「わたくし以外はもう、亡くなられたのですわね」
「...いや、俺らはテロリストや反社じゃない。身柄は確保してる。みんな生きてるさ。」
「そう―――」
「それで、何が望みですの?」
オーキッドは火が消えた瓦礫の上に腰掛ける。煤で汚れようとも、その佇まいは変わらない。
「お前、神子石についてどこまで知ってる?」
「教えてくれたら、護衛は返して下さるの?」
「あぁ。」
「存外そちら側の人間は、そういう手口も使うのですわね」
「反社でなければ、公に出るような人間でもないからな。」
「じゃあ、答える代わりに、わたくしの問いにもこたえてくれませんこと?」
「......分かった」
「倒壊しかけているとはいえ、あくまでここはわたくしの城。まぁそれを失っても、手間が増えるだけですわね。」
オーキッドは近くまで燃え広がる火から避けるように、そしてそれを悟られないようにゆっくりと立ち上がり、フロアを歩き回りながら述べる。
「わたくしを生かしたのは、こうしてわたくしから情報を吐かせる為。護衛を生かしたのも同じ理由。ですが、1つ不可解な事がありますの。」
「もったいぶってないでさっさと言え。」
「釣れないですわね。こういうのは社交辞令が大事なんですのよ?とにかく、聞きたい事は1つ。」
「貴方、どうして1人で...まぁ、そこに隠れている1人は考えないものとして、一体手負いとは言え自由の身の私に負けるというリスクは考えなかったのかしら?」
「—――」
カルサイトは黙り込む。それはその問いに対して回答を拒むものではなく、カルサイトは白衣の胸ポケットから、結晶を取り出し、オーキッドに見せた。
「...フフッ、まぁ、予想はしてましたわ。普通機関銃を前にして、正面突破なんて考えませんもの。」
「...?俺は正面突破なんてしていないが。」
「弾を避ける動きに無駄が多すぎですわ。それに、」
オーキッドはカルサイトの脇腹を指差す。喧騒の中で気付いていなかったが、そこには確かに銃創があった。
「想像を絶する痛みのはずですわよ?どうして何食わぬ顔で平然と立って居られるどころか、あそこまで動けるんですの?」
「—――まぁ、色々あったんだよ。で、これで満足か?」
「えぇ。ですがあと1つ頼んでも良くって?」
「まだあるのか」
「不可解な事は1つですが、質問が1つだけとは言ってませんわ」
オーキッドは次に、カルサイトの頭部を差す。
「貴方、お名前は?」
「ハァ......」
(カルサイトさん、流石にマズいですよ)
「カルサイトだ。」
(えぇ!?)
「あら、フフッ♪良いでしょう。覚えておきますわ」
「終わったなら、俺の問いにも答えろ。」
「えぇ。構いませんわよ?ですが人質を解放してからにしてくださいませ?」
「チッ、」
(どうします?)
(開放してやれ。この調子じゃ話が終わらん。消防も来るだろうしな)
マーカサイトは柱の陰からゆっくりと姿を現すと、人質をオーキッドの近くに置いた後、そそくさと再び柱の陰に隠れて行った。
「あら、思ったより可愛らしい方が隠れてらしたのね」
「では、約束通り―――――」
オーキッドが話し始めた、その時だった。
「ぐっ――!!?」
フロアに突如煙幕が放り込まれ、その場に居た全員の視界が奪われた。
「あら、思ったより早かったですわね。」
「くそっ!!」
煙で満たされた空間の中、カルサイトは咄嗟にオーキッドが立って居た方へ駆け出したが、それよりも速い速度でオーキッドの声が遠ざかってゆく。
「ごめんあそばせ~!わたくし本当に話すつもりだったんですのよ~?ですが案外早くお迎えが来てしまいましたわ~!!悪く思わないでくださいまし!!」
「待て!!!!」
(正面分かれ道!声の元は右です!!)
「クソッ、床が安定しなくなってきた。チッ、マーカサイト!!引き上げるぞ!!!」
(はい!!!)
2人はフロアの煙幕が外に逃げると同時に、建物から姿を消した。
≪カジノ跡付近≫
建物を出た2人は、オーキッドらしき影を探したが、既に建物から避難した人々と消防で溢れており、それらしき姿を見つける事は出来なかった。
その後、カルサイトは近くの路地に身を潜め、マーカサイトに銃創を診て貰っていた。
「ったく、ゾイサイトが気付いて無くて助かったよ。毎回悪いな。マーカサイト。」
「謝らないでください。やむを得ない事なのは、お互いに理解しているでしょう?」
「ハァ......にしても、完全にやられた。そりゃあ敵は1人じゃねぇよな。こんなデカいシマ、失うのは当然惜しいだろうさ。...まぁでも、それだけ相手に打撃を与えられた。十分だろ。」
「あまり肺を動かさないでください。再生するとは言え、ピンセットで余計に内臓に穴が開きますよ?」
「あぁ、すまん。」
尚も炎は燃え上がる。黄金の都は倒壊し、凡夫達は日常へと還る事だろう。
To be continued.




