#14『運命の輪が回る』
「加減するのはわたくしのポリシーに反しますわ!最大出力で行かせていただきますわ~!!!!」
カルサイトの後を追うように、機関銃の銃口が爆音を立てながら回る。弾の軌道にあったものは穴だらけになり、頑丈な壁や柱も少しずつ凹み始めていた。
「よしっ、今だ!」
反対側に回ったゾイサイトがオーキッドへの接近を試みる。ゾイサイトがトンファーをオーキッドに向けたその時—――
「なっ!?」
瞬きする間に、目の前には視界いっぱいに広がる大きな盾が現れ、ゾイサイトのトンファーを弾いた。
「当然、複数を相手するのも想定済みだ。お嬢様には指一本触れさせん。」
盾の後ろから、先程までの正装を纏ったディーラーが3人。盾を持った男は盾を捨てると、メリケンサックをはめた。
「私とやろうっての?いいじゃない。」
「フン、生憎女に軽々しく手を出すほど俺も悪じゃないんでな。これで行かせてもらう。」
パールはカルサイトと、機関銃から逃げながら結晶をいくつか握る。
「パール、この混戦状態で下手に動けば簡単に全滅する。大事なのは常に置かれている状況と、自分が出来る事を考える事だ。お前ならどうする?」
「うーん......」
パールは一瞬上を見上げる。天井には、この部屋の中心から半径1.5メートル程の大きさのシャンデリアがぶら下がっている。
「あれだ!」
「......よし、俺らがあいつらを真ん中に留めるから、頼めるか?安心しろ、ダメだったらリカバリーしてやる。」
「分かった!」
カルサイトは機関銃のターゲットを自分の身に向けるよう、少しずつオーキッドと距離を詰める。
パールはシャンデリアの高さまで飛び上がれるくらいの結晶を生成させながら、こちらに向かって来た護衛に1つずつ結晶をぶつけ応戦する。
「まぁ!随分面白い方がいらっしゃいますわね!!」
「お前の相手は俺だ!」
カルサイトはオーキッドと一気に距離を詰める。オーキッドはカルサイトが間合いに入ると、一瞬だけ射撃を止め、カルサイトに向けて大きく機関銃をかち上げた。オーキッドはそのまま一回転し、その勢いでもう一度カルサイトに向けて銃身をぶつけに行く。
カルサイトは銃身を掴むと、そのままオーキッドが振りかぶる勢いに任せ、オーキッドの後ろに回り込む。
「軽っ!?」
「そう易々と倒されると思うな!」
カルサイトがそのままオーキッドを拘束しようとした時だった。
カルサイトはオーキッドの首元越しに、自身の手首に触れようとする刃に気付いた。
「やべっ!?」
カルサイトは咄嗟に機関銃から手を引っ込め、オーキッドから距離を取る。
「ハッ、俺だけ2対1か」
「お前の仲間、先程から見当たらないのは、どういう事だ?」
「ハッ、敵に軽々しく情報を渡すかよ。」
「そうか。」
カルサイトは向かって来る護衛と護衛を綺麗に躱してカルサイトだけを狙う機関銃を起用に躱す。
「クソ、ちょこまかと!」
(左上から右下、左脚、右から左)
柱の後ろ、気配を殺し、光学迷彩とも言えるそれを使い、カルサイトに指示を送る。
(あのメガホンは、皆さんは耳から脳への損傷を抑えられると言っても、動きが鈍る事には変わりありません。万が一防がれでもしたら終わりです。ですから、)
(パールさん、お願いします。)
拳銃と盾を持った護衛から、爆風で銃弾の勢いを少しずつ相殺しながら、結晶の数を増やして行く。だが、増やす速度よりも、攻撃を防ぐのに割く結晶の数が上回り始めている。結晶は護衛に当たれば怯んでくれるが、それでもそれをさせまいと発砲してくる。
「子供相手に大人気ないだろうが許せ。ここはお遊びだけじゃやってられないんだ。」
「っ......!」
(くそっ、これじゃキリが無い。どうする?いっそ全部使って仕留める?悪くないけど、皆が再び結晶を出し切れるまで持つかどうか......)
カルサイトの目にパールが視界の端に留まり、その一瞬でもパールの状況を理解する。
「俺らは弱くねぇ!!安心して背中預やがれ新人!!!!」
カルサイトは吠えながら、パールから1つ預かった結晶を背後に叩きつけ、護衛と一気に距離を詰める。
「...!!」
パールは銃口から身体を逸らしながら、少しずつ護衛と距離を詰める。そして―――
「大人しく捕まる気になったか?」
「フッ....ハハハハ......」
パールは護衛の懐に潜るとそこから飛び上がり―――
「分かった!!!!」
パールが上着を脱ぎ、それを勢いよく払うと、内ポケットに入っていたすべての結晶が飛び出した。
「なっ!?」
護衛は結晶の一斉爆発を一身に浴び、その場に倒れた。
「あれ?」
パールはその爆風に乗ると、そのままシャンデリアのある高さまで上る事に成功する。
「足りてたの!?...じゃあ、」
パールは落下する前に咄嗟に結晶を数個作り、シャンデリアを吊るしている鎖に投げた。鎖は錆びついており、案外容易くパールと共に落下を始める。
「っ!!」
ゾイサイトは護衛に猛攻を仕掛けると、シャンデリアの真下に護衛を突き飛ばす事に成功する。
「もう逃げ場はございませんわ!!」
「ハッ、本当に無いのはどっちだかな。」
「...え?」
オーキッドは自身の周りが、少しずつ明るくなっていくのに気付く。彼女が上を向く頃には、シャンデリアはすぐそこまで来ていた。
「お嬢様!!!!」
カルサイトを相手していた護衛が、咄嗟にオーキッドに駆け寄ろうとする。カルサイトは護衛の足を引っ掛けると、パールの使う物とは違う結晶を1つ、オーキッドの真上に投げ飛ばした。
(上手く行ってくれると助かるんだがな。)
「......」
オーキッドは目前に迫るシャンデリアを前に、愕然とする。自身よりも眩い輝きを放つそれら1つ1つから、自身が今、この瞬間までに経験して来た景色が広がる。
(ゲホッ、ゴホッ......)
(お父様!!)
(ハハ...心配なさるな。オーキッド、私はお前が居てくれるだけで、十分幸せなんだから)
(でも......お父様、前に言ってましたわよね...わたくしを、わたくしと一緒に、いつか―――)
そう、わたくしは、翡翠財閥の一人娘。幼き頃に父を亡くし、母上に育てられた。
母上はとっても優しいんですのよ。本能の街は危険だから、近付いてはいけないと散々言い聞かされていたのに、それを破ったわたくしを咎めもせず、わたくしが本能の街で作ったお友達を、快くもてなしてくださいましたの。
そんなお友達が、本能の街で主をやっていると知ったのはつい最近ですわ。
風の噂で聞きましたの。本能の街では、とある病が流行っていると。それを治す為に、力を貸して欲しいと、彼から聞いたのですわ。
だからわたくしは、このカジノで、本能の街の皆さんを救いたい。あのお友達の頼みとあらば、お安い御用ですわ!
「そうだ―――わたくしは―――――」
そう呟いたオーキッドは、地に落ちたシャンデリアと共に、土埃に飲まれて行った。
To be continued.




