#13『金の都のお嬢様』
〈カジノ一階、スタッフルーム〉
ディーラーや警備員は表の騒動を治めに行っており、人一人居やしなかった。
それでも足音を立てないように小走りで移動していると、一番前を走るカルサイトが立ち止まる。
「ちょっと待て。そこで動くなよ」
カルサイトが空いているドアの死角から無効を見つめる。そこには携帯を大事そうに抱えながら、電話している人の姿があった。
「はい―――はい―――承知しました。では―――」
男が電話を切ったのを確認すると、カルサイトは音も無く近づき、男を気絶させ、そっと地面に寝かせた。
「行くぞ。」
「余罪がどんどん増えてく...これ帰り大丈夫なの?」
「エリナが何とかしてくれるんだとよ。」
「あの人...こういう任務の時いっつも権力を行使してるわよね...ヘイト貯めたりしないのかしら...」
そんな小言を言いながら、1同は2階へと向かった。
〈カジノ2階、セキュリティルーム〉
「っ!?」
4人が薄暗い廊下を駆けていると、正面の曲がり角から人が出て来た。
「私に任せて...!」
咄嗟にゾイサイトが人影に向かい距離を詰めると、腹部に打撃を与え、呼吸出来なくなったところを頭を打ち気絶させた。
「ハァ......やり過ぎだ。」
「でもこうしないと応援呼ばれちゃうでしょ?」
「全く、とりあえずそれ隠せ。殺してねぇだろうな?」
「さすがにそこまでしないわよ。」
ゾイサイトが近くにあった鉢植えの死角に男を寝かせると、足音を立てず、周りの音を聞き取れるようにゆっくり3階へ向かう。
「にしても、さっきの動き凄かった!」
「まぁ、判断が早かったのは褒めてやる。」
「ふっふん!こんなもんじゃないわよ!」
「あまり話してると、声でバレちゃいますよ?」
「あぁ、すまん。」
皆が再び曲がり角を曲がると、今度はガラス張りの明るい部屋が見えた。
カルサイトが部屋の中をのぞくと、そこには監視カメラのモニターが大量に映っていた。
「...ん!?」
カルサイトはその中に、まさに今、自分たちが映っているモニターを見つける。
そして、後ろを振り向くと、やっぱりそこには赤い光があった。
「しまっ!?」
「居たぞ!!」
正面から、部屋の入口から、警備が続々と出て来た。
「どうしよう、こんな数さすがに......」
「皆さん、下がって耳を塞いでください。」
「え?あぁうん。」
耳を塞ぎ伏せる3人の前にマーカサイトが出ると、警備が一斉に向かって来ると同時に、マーカサイトは神子石のメガホンを取り出した。
「ハッ、そんなもの、耳栓があれば―――」
「音じゃなくって、」
マーカサイトは息を吸いながら、メガホンのスイッチをONにする。
『超音波で―――――――!!!!!!!!』
辺りは耳鳴りの様な音に包まれ、後ろに居た3人も少し怯んでいた。
耳鳴りが収まる頃、目の前に居た人々はおろか、部屋の中に居た人さえも皆気絶していた。
「目が覚める前に行きましょう!」
「うぅ...まだキーンってする...」
4人は今度こそ、3階に辿り着いた。
〈カジノ3階、VIPエリア最奥〉
1階、2階の雰囲気から更に一転、ここには指や首元に光り輝く宝石や金銀を纏った、富裕層達が娯楽を求めて集まっていた。壁が分厚く高い位置にあるせいか、外の喧騒などまるで気にも留めていないようだった。そんなエリアの最奥、一際派手なドレスを纏い、カウンターに腰掛けながら、グラスを仰いでいる女性が1人。
「オーキッド様、賊が侵入いたしました」
「フフッ、安心なさい、誰も地下深くにある金庫には近付けないのは、貴方もよく知ってるはずですわ」
「それが...オーキッド様、賊は金庫ではなく――」
オーキッドと呼ばれた女性の横で、扉が勢い良く開く。
「あら......?」
1同は室内に突入するなり、その場に居た全員の視線を浴びた。
「......は?」
「もしかしてこの階、この部屋しか無いの!?」
カルサイトは足を上げたまま固まり、状況を理解する為周りを見渡した。すると、1同の横で、笑みを浮かべながらこちらを見つめる女性が目に留まる。翡翠色の瞳、後頭部から延びる螺旋状のポニーテール。
「ごきげんよう、その扉、錆びてて私にも開けられなかったんですの。開けてくれて感謝しますわ。」
「はぁ......」
「それで、こっちに来たという事は、そういう事ですわね。いいですわよ、」
オーキッドは眼配せすると、その階に居たオーキッドとカルサイト一同、スタッフ以外の人間を帰らせた。
「皆さん、随分素直に帰って行くんですね」
「この階に来れる人達は、みんなわたくしの友達なんですわ。と言っても、金で動かしてるに過ぎませんが。」
「汚い......」
「若いですわね。純粋な人は嫌いじゃなくってよ。だけど、大人の世界なんて所詮こんなものですわよ。貴方も心当たりがあるのではなくって?」
「それは......」
「ハァ...おい、お前がオーナーでいいんだな?」
「えぇ。いかにも。ですがお前などと言う名ではございません」
オーキッドが話している内に、室内にあったテーブルは全て綺麗に片付けられ、オーキッドは席を立つと、部屋の中央、シャンデリアの下に立つ。
「わたくしの名はジェイド・オーキッド、栄えある翡翠財閥の一人娘。それで?貴方方は、わたくしに何の御用があって?」
「面倒だから直接聞くぞ。本能の街に金を流してるってのは本当か?」
1同もオーキッドと同じく、灯りの下に出る。
「そうだと言ったら、貴方方はどうなさいますの?」
「エリナからの依頼で来ている。お前を拘束させてもらう。聞きたい事が山ほどあるんでな。」
「へぇ......それって、これの事ですの?」
オーキッドはポケットから神子石を取り出し、目の前にかざす。黒く光るその石には、博物館で回収したものと同じく赤い文様があった。
「悪いけど、これは渡せませんわ」
オーキッドは、神子石を片手で握りしめる。
「これは、VIPでも一般の方でもない、"特別なお客様"にのみ渡しているんですの。ですから―――」
オーキッドは次にその場で1回転すると、両手を頭の後ろに回した。
「もし、どうしても欲しいなら!」
頭の後ろにあった手が、勢い良く振り下ろされる。その場に居た皆の脳が、起こった事を理解する頃、オーキッドの両手の先には、機関銃が握られていた。
「力づくで奪い取ってみて下さいませ!!」
「はぁ!?」
カルサイト達は咄嗟に4方に散る。気付けばスタッフもその場から消えており、機関銃を心置きなく放つには十分だった。
To be continued.




