未知の対処
阿曽沼信辰との話を終えたデミトリウスは、一度ポルト号へ戻った。
船内へ入ると、ポルトの声が響いた。
『お帰りなさい、デミトリウス』
「ああ。ただいま。彼の容態はどうだい?」
『生命活動は安定しています。しかし、損傷した組織の再生が進んでいません』
デミトリウスは救護ポッドへ向かった。
ヴァルデミリアンは依然として眠ったままだった。左腕の損傷は激しく、胸部にも戦闘の傷が残っている。
「ヒドラの再生能力もあるというのに、妙だね」
『その件について、新たに判明したことがあります』
「聞かせてくれ」
『損傷箇所を比較したところ、再生が阻害されている部位には共通点がありました』
「ほう」
『いずれもターガバンデイの攻撃を直接受けた部位です。それ以外の損傷では、通常の修復反応が確認されています』
デミトリウスはヴァルデミリアンの左腕に目を向けた。
「つまり、傷が深すぎるから治らないわけではないのか」
『はい。ターガバンデイの攻撃に、組織の再生を妨げる何らかの作用があったと考えられます』
「原因は特定できたかい?」
『いいえ。攻撃によって何が生じたのか、現状の解析では判別できていません』
「なるほど……」
デミトリウスは腕を組んだ。
ターガバンデイは、プレストルの戦闘能力を熟知していた。装備を解析し、動作を先読みし、戦いながら対策を更新する。
その攻撃が再生能力まで封じているのなら、厄介な相手であったことは間違いない。
「プレストルに対抗するための仕組みかもしれないな」
『その可能性はあります。ただし、意図的に組み込まれた機能かどうかは不明です』
「どちらにせよ、今は彼を治すことが先だ」
『現在の治療設備では、損傷部位の再生を正常化できていません』
「阻害の原因を取り除ければ、再生能力も働くというわけか」
『その可能性はあります。しかし、原因が特定できていないため、除去方法も不明です』
「魔法による治療は?」
『効果を予測できません。通常の治癒魔法で再生阻害を解除できるという根拠もありません』
「そうだろうね。傷を治す魔法なら私にも使えるが、そもそも治らない原因がわからないのでは話が違う」
デミトリウスはポッドに横たわるヴァルデミリアンを眺めた。
「それにしても、たいした置き土産だ。倒されてもなお、相手を苦しめるとはね」
『ターガバンデイは、プレストル文明に対抗する目的で運用されていた機体です。一般的な兵器とは異なる作用を持っていても不思議ではありません』
「ああ。私もあの遺跡で記録を見た。ラドコイという連中は、ずいぶん念入りな仕事をするらしい」
デミトリウスはしばらく考えた後、口を開いた。
「ポルト。こちらの世界の薬や魔法で、この作用を打ち消せる可能性はあるかな?」
『未知の治療手段については判断できません。ただし、再生阻害の原因に作用する素材が存在すれば、治療に利用できる可能性はあります』
「ならば、探してみる価値はありそうだ」
『具体的な候補はありますか?』
「まだない。だが、この国には妖怪という、人間ともプレストルとも異なる生物が数多く存在する」
『妖怪の生体情報は十分に蓄積されていません』
「それなら調べればいい。ちょうど百鬼夜行という厄介なものが現れるそうでね」
『百鬼夜行ですか?』
「ああ。阿曽沼信辰から討伐を頼まれた。私はそのための人材を集めることになった」
『デミトリウスなら、単独での討伐も可能ではありませんか?』
「可能だろうね。しかし、私は歴史に直接干渉することはしない」
デミトリウスは微笑んだ。
「その過程で、彼の治療に役立つものが手に入れば都合がいい」
『入手した素材の分析はこちらで行います』
「ああ。頼んだよ」
デミトリウスはヴァルデミリアンの傍らへ歩み寄った。
「まったく。君ほど戦うことが好きな男にとって、動けないというのはさぞ退屈だろうね」
返事はなかった。
「もっとも、今は大人しく眠っていてくれた方が助かるが」
デミトリウスは笑い、ポッドから離れた。
「ポルト。治療は引き続き頼む。何かわかったら、すぐ知らせてほしい」
『承知しました』
「さて、私も仕事に戻るとしよう」
『次の目的地は?』
「藤堂家だ。藤堂美津麿という弓使いを訪ねる」
デミトリウスは阿曽沼信辰から預かった紹介状を取り出した。
「どのような人物か、楽しみだね」
船内の扉が開いた。
デミトリウスはもう一度だけ救護ポッドを振り返り、ポルト号を後にした。




