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デミトリウス東方異聞録4

今起きている真実を知る者は、阿曽沼家にしかいなかった。


 葛西氏をはじめとする複数の家は、すでに妖怪に取り憑かれている。残る家々も、その半数が上伊達家へ内通していた。


デミトリウスは阿曽沼家の陰陽師に問いただした。


「百鬼夜行とはなんだ?」


「ひゃ!ひゃひゃひゃ」


その名を聞いて陰陽師は泡を吹き失神した。

3時間後に目を覚ますとショックで声が出なくなり、筆談で説明を受けた。


百鬼夜行とは魑魅魍魎が長い列を作り人間界に降り立つと言われている。それを見てしまうと気が触れたりあの世に連れて行かれるなど。しかし、見たものはおらず伝承のみ存在する。


「なんだ、大したことないのではないか」


陰陽師は首を激しく振ると速筆で伝える。

誰も真実を知らず、それが通れば地獄しか存在しない。最後の妖怪空亡から妖怪は逃げている。空亡は全てを無にする。


「ほう、そんなのがいるのか」


逃げている妖怪は南下しながら人間を喰らい、喰らった数だけ巨大化する妖怪の群れ。それが首都・江田へ到達すれば、町も人間も残らない。

江田が消滅した後も百鬼夜行は止まらず、やがて日本そのものを喰らい尽くす。


 阿曽沼信辰は顔面蒼白であった。


 だが、知ったところで対処できる規模ではなかった。


奥殿の床にはオウスからエデンまでの地図が広げられている。


 陰陽師が地図の北端から江田まで、指で一本の線を引いた。


「百鬼夜行は、おそらくこの辺りを南下します」


 線上にある村、城、領地へ次々と黒い石が置かれる。


「人を喰うほど数を増やし、力を増します。オウスで止められなければ、エデンへ到達する頃には、軍勢で抗える存在ではなくなります」


「いつ現れるかだな」


 デミトリウスが言った。


 陰陽師は否定しなかった。


「まず普通の人間では止められません。封じるための時間を作る者、群れの内部へ入る者、遠方から核を射抜く者が必要です」


 信辰はデミトリウスを見た。


「お前なら、一人で百鬼夜行を倒せるのか」


「可能だ」


 迷いのない答えだった。


「では――」


「だが、すべてを私一人で処理するのは面倒だ」

「それに私は友人の回復をしなければならない」


 信辰の言葉が止まる。


「散らばった妖怪を追い、取り憑かれた家を調べ、人間を救いながら首魁を探す。時間ばかりかかる」


「それで国が滅びても構わぬと?」


「この国が滅びようと、私には関係ない」


 信辰はしばらく黙っていた。


 やがて、地図の横へ三枚の紙を置いた。


「ならば、面倒を減らす者を集めてほしい」


 一枚目には、岩淵景綱


 二枚目には、藤堂美津麿


 三枚目には、久世道胤


デミトリウスは三枚の紙を一瞥した。


▫️葦名景綱

数多の合戦と妖怪を切り裂いた剣豪。彼が討ち取った大将首はおよそ200と言われている。特に有名なのはノダーンの合戦にて10人の武将を討ち取る。だが彼にはもう一つの異名があった。それは妖怪斬り。正式な記録はないが、わかっているだけで鬼22体、天狗7体、怨霊5体、その他妖怪は数知れず葬っている。

彼には2本の名刀があった。

・白露

真っ白な刀身で景綱の剣技により人を斬っても返り血に染まらないと言われている。

・幽世切

いつそれができたのか定かではないが、景綱の手に渡る。この刀は刀身がなく、鞘と柄しかない。

 

▫️ 藤堂美津麿

国宝である弓「落星」の持ち主。5km先の雀を射抜く、5本の矢を同時に放ちそれぞれが5人を貫通する、空に放って雷を落とすなど、伝説として語られる逸話が多い。また景綱と共に妖怪退治も行い、鬼髑髏を射抜いた。


▫️久世道胤

300年生きていると言われている陰陽師。世襲制なのか本当に一人なのかは定かではない。長く朝廷に仕えていたが、突然姿を消す。その後長い時を気ままに過ごし、世の移り変わりを観測している。




「私に人集めをさせるのか」


「他の者では、会うことすらできぬ」


「私にメリットがない」


 信辰は姿勢を正した。


「すべてが終わった時、我が魂をお前へ差し出す」


 陰陽師が信辰を見た。


「信辰殿、それが何を意味するのか――」


「理解している」


信辰はデミトリウスから目を逸らさなかった。


「生きていようと、死んでいようと、この国が救われた後は我が魂を渡す」


デミトリウスが右手に紙を出す。


「これはアポリッフェの契約と言って強大な力が宿る」


「契約を破ればお前以降この土地の者の魂を全てもらうことになる。それでもよいか?」


信辰は頷く。


「三人を連れてくればよいのだな」


「ああ」


「成立だ」

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