1-37 生き残り
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「あたし、ちょっと調べとくわね」
実久はそう言うと部屋の端にあったパソコンへと向かって行った。
ぽちぽちと実久がキーボードと格闘している間に、俺はさっき実久に視線で促された通り、ガラスの壁へと向かった。
「…………」
ガラス壁の奥で横たわるたくさんの子供達。
着ている服は粗末なもので、ちゃんと食事をしていないのか顔色が悪い。
「……今、出してやるからな」
刀を構え。一閃。
ガラス壁を砕き、先に進む。
一番近くで横たわっていた少年の首元に手を当てて脈を調べるが。
「……死んでる……か……」
指先からは何も感じられない。
次の子もそのまた次の子も、その全員に息がなかった。
「……この様子じゃ全員……」
しゃがんだ状態で視線を回してみる。
(動いたっ!?)
視界の端で微かにだがそれでも確かに動いたのが見えた。
そこに横たわっていたのは一人の少女。
俺よりもだいぶ年下だ。おそらくは十歳かそこらだろう。
長い青髪を引っ張らないように手を首の当てる。
「よかった。生きてる」
俺はその子を抱き上げると、一旦実久のところに戻った。
「実久」
「……その子は?」
「生存者」
ディスプレイに厳しい視線を送っていた実久に声を掛けつつ、幼女を渡した。
「この子のこと頼めるか?」
「ええわかったわ」
「俺は他にも生存者がいないか探きてみる」
「了解よ」
パソコンと格闘するのを一旦止め、幼女に膝枕をしてあげている実久を尻目に、俺はもう一度ガラス壁の先に向かった。
一人生きていたのだ。まだ生きている子が他にもいるかもしれない。
その可能性は十二分にあるはずだ。
しかし、結果として生き残っていたのはあの幼女一人だけだった。
実久から幼女を引き受けた後、実久は再びパソコンとの格闘を再開していた。
「……見つけた」
仏頂面でキーボードを操作していた実久が少しスッキリした表情でつぶやいた。
だが、すぐに厳しい眼差しへと変わる。
ちょっと汚いかもしれないけど床に直接よりかは良いと思って、落ちていた白衣を束ねて枕代わりにして寝かせている幼女の頭を撫でるのを止め、俺は画面を覗いた。
「どうやらここのデータは消し損ねたみたいだな」
「ええ。というより、多分これはあの男のものよ。勝つつもりだったから証拠隠滅なんて必要ないって判断したんでしょうね」
そう言ってちらりと縛られているラッセルに視線を向ける実久。
「俺たちにとっては好都合だな」
「ええ」
懐からUSBメモリーらしきものを取り出す実久。
「それは?」
「見たまんまよ。仕組みは物理世界のとは違って魔力式……つまり、魔法のUSBね」
魔法のUSBねえ。やけにファンタジー感の薄いネーミングだな。
俺の問いに答えながらも同じく魔力式のパソコンにプラグインする実久。
データのコピーなうって奴だな。
「はい。コピー完了。後はこれを上に持ってくわよ」
「上ってギルドだよな?」
「ええ」
「……捕まったりしないか?」
「殺しはしてないから大丈夫よ。まあ、最初にいたあの男には謝った方がいいわね」
あー。実久が一撃で沈ませたあのおっさんか。随分と懐かしく感じられるな。
「それと、とりあえずあの子を上まで運ぶわよ」
視線を幼女に落とす実久。
「オッケー。俺が運ぶけどいいか?」
「あんたが運ぶに決まってるでしょ?」
「……おう」
よかった。どうやら実久は俺のことをロリコンだとは思っていないらしい。
まあ、ロリコンじゃないしな。
幼女を背負って上に戻る俺たち。
「……なあ実久」
「何よ」
「……道わかるのか?」
「…………」
訂正。戻ろうとする俺たち。
「ボク道わかるよー?」
今のところ俺の知り合いに自分のことをボクと呼ぶ奴は一人しかいない。
ええそうですとも。ピピカの存在が実久にばれましたとも。
そのせいか隠れる気なんて既になくし、堂々と俺の頭の上に座っているちっこい精霊がそう言った。
「へえ。記憶力いいんだな」
「んー。記憶力というよりボクの残留魔力を辿るみたいな感じだね」
「……残留魔力?」
なんとなく意味はわかるが聞きなれない単語だな。
「ボクたち精霊は君たちと違ってあまりにも魔力が有り余ってるからねっ。通った後みたいなのが残るんだよー」
「それ、追尾に利用されたりしないか?」
「それはだいじょーぶい。探知が上手い子じゃないと他人の魔力なんて辿れないよー。自分のなら誰でも出来るけどねー」
「……まあ、そういうことなら平気……か?」
「細かい事気にしないの。とりあえず今は上に上がる道がわかったんだから」
「……へいへい」
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